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金価格はいったいどこまで上昇するのか?

金価格は急騰後、かなり割安になっていた

2011年の高値の時には欧州債務危機の最中で、投資家が資金を金に振り向ける動きを加速させ極めて短期間で上昇した。このとき、金価格は2008年の金融危機の際につけた安値680.80ドルからわずか3年の間に約2.8倍になったことになる。当時は株価が下落し、米ドルも下げていたため、資産の逃避先として金が注目を浴びた。

しかし、欧州債務危機が落ち着き始めると、「安全資産」とされる金からは資金が流出し、2015年12月には1045.85ドルまで下落した。株価が上昇し、ドルも上げていたことを考えれば、下落するのは自然の流れだったかもしれない。ただ私はこのとき「1100ドル割れは買い場である」と言明し、メディアやメールマガジン、セミナーなどで自説を積極的に発信していた。当時の価値や採掘コストなどから見て、金価格はあまりに安いと感じたからである。

私が金価格の理論値を算出に利用しているのは、米実質金利である。金価格との相関を計算し、算出した金価格の理論値と実勢値を比較することで、金価格の割安感を図ることができる。

2015年末当時に算出した金価格の「理論値」は約1400ドルであり、上述のように、1100ドルを割り込んでいた金価格の水準はあまりに安かった。そのため、私は「金は買いである」と判断したのである。また、当時は、円建てで取引される現物の金価格と先物価格の差にもゆがみが生じていた。

同じ方法で計算すると、1990年代後半に円建て金価格が1グラム=1000円を割り込んでいた時、さらに2008年のリーマンショック時に金価格が下げたとき、さらに今回の金高騰の前につけていた4000円台の時に、買いのサインが点灯していた。3回目の買い場が到来した後、円建て金価格が6000円台から7000円台に入ったことを考えると、この考え方もまた正しかったことが証明されたのである。

さて、読者の最大の関心は、金価格が今後どのような動きになるのか、さらに、まだ投資のタイミングとしては遅くはないのか、という点であろう。結論から言えば、私は「金は買い続けるべきである」と考えている。

なぜ今後も「金は買い」なのか?

確かに、これから新規に買う投資家にとっては、過去最高値で買うというのは勇気と資金が必要だ。しかし、それでも私は、金を買い続けるべきであると考える。また、金投資の目的の一つが、株式投資のリスクヘッジであることを考えるなら、もし資産運用の一環で株式を購入する際には金も「同時に同額買う」というのが本来あるべき姿と考えている。

もっとも、一般的にはこのような考えはなかなか受け入れられてもらえないはずだ。なぜなら、金には金利がつかず、配当もないため「保有しておくだけで損が出るのでは」と考える投資家が多いからである。

しかし、この考え方は、重要な点で間違ってはいないか。金には確かに金利はつかない。だが今のようなゼロ金利時代には、金利のつかない金に投資すること自体にデメリットはない。また、実は過去50年の金と株式のリターンを見ると、両者はほぼ同じなのだ。さらに過去20年で見ると、金のリターンは株式を大きく上回っている。つまり、金投資を行うことで、実際にキャピタルゲインも得られているわけである。

もちろん、一般的に金価格は株価とは逆相関であることから、同時に投資すればリスクヘッジにもなる。このような投資商品はあまりないだろう。また、1971年に金本位制が事実上停止され(ニクソンショック)、金とドルが切り離されたとはいえ、金には通貨に似た価値を見出す投資家が多いこともまた事実である。

そのドルが下落基調を強めているのだから、相対的に金価格が上昇すると考えるのは至極当然であり、セオリーとも言える。私はこれからアメリカが世界の中で相対的に凋落し、米ドルの価値も減価していくと考えている。ドルの価値はアメリカが超大国だからこそという部分が大きく、この考えに基づけば、ドルを保有することはできない。

ニクソンショックで米ドルと金が切り離された後、どうなったか。米ドルの発行に事実上制限がなくなり、結果的に価値は徐々に低下することになった。1971年以降、現在まで米ドルは基本的に下落の一途をたどっている。

特に、金に対しての価値は著しく低下していることを理解しておく必要がある。米ドルの金に対する価値は、1971年当時を100とすれば、現在では1.9程度になっている。つまり、この50年間で米ドルの価値は金に対して約50分の1になったのである。これがまさに「ドルの減価」である。ドルが大量に発行され、市場に流れ込んでいけば、ドルの価値はさらに棄損することになるだろう。

金はドルの価値が毀損する状況下で買われやすい

そしていま、新型コロナウイルスの感染拡大を背景とした経済活動の停止による景気悪化を回避するため、米政府は約3兆ドルもの財政出動を行い、国民生活を支える姿勢を明確にした。

現在米議会では、追加的支援策についても議論されており、市場にはさらにドルの供給が増えることになる。また、中央銀行に関しても、企業の資金調達を支えるため、大量の国債や社債の買い入れを実施し、企業の資金繰りと株価を支えている。それに加え、企業への直接融資も実施するなど、過去に例を見ない規模と方法で経済を支えようとしている。

つまりドルの供給量は今後も増える一方であり、当然のように価値は低下しそうだ。一方で米連邦準備制度理事会(FRB)は2022年まで金利を引き上げないとのスタンスを明確にし、経済が不安定化すれば追加的な措置をとるとしている。

こうした環境下ではドルの価値は今後も棄損するしかない。今後も、もし景気が回復する局面に入れば、利上げをして資金供給を絞りたいところだが、株価が下がるとアメリカ経済に大きな影響を与えるが崩れかねない。そのため利上げもしにくく、資金供給の規模を縮小することもそう簡単ではない。こうして見ていくと、もはやアメリカ「半永久的に」引き締め政策ができなくなったといえるかもしれない。

こうした状況を理解している世界の投資家は、金を継続的に買っている。世界最大の金上場投資信託(ETF)である「SPDRゴールド・トラスト」の保有残高は、7月28日に1243.12トンまで積み上がった。これは、2013年3月以来の高水準だ。

これまで金は、有事の際や地政学的リスクの高まりの際、さらに金融市場の混乱が起きたときに買われる「安全資産」としてみなされることが多かった。しかし、近年では株価が上昇している最中でも買われるようになっている。

要はカネ余りが背景にあるのだが、その根本的な原因を作っているのがまさに米政府とFRBの政策なのである。株式と債券の市場規模は合わせて最大200兆ドルと推定されているが、推計5兆ドルとみられる金市場にこれらの資金が流入すれば、影響はきわめて大きい。その場合、金価格はほぼ機械的に押し上げられることになる。この流れはそう簡単には変わらないだろう。

2032年に「約5000ドル」の試算も

金に関して、もうひとつ興味深い考え方を披露しよう。米ドルの資金供給の増加が金相場の上昇要因の一つだとすれば、マネタリーベースとの比較が良いヒントになる。実際、チャートを見ると、これまでの米マネタリーベースの増加と金価格の上昇は連動しているように見える。だが金価格をマネタリーベースで割ると、いまの金価格がマネタリーベースの伸びに比べてまだかなり低いことがわかる。

では、もしマネタリーベースが今後も増加すると仮定した場合、金価格は将来どうなるのだろうか。1968年から現在までのマネタリーベースの伸びは、月間で0.7%である。このペースであと12年マネタリーベースが増加すると仮定した場合、金価格は2032年に4950ドル程度にまで上昇するとの試算が成り立つ。

さらに、マネタリーベースが今後月間で1%ずつ伸びると仮定すると、12年後の金価格の推計値はなんと7500ドル程度に跳ね上がる。さらに、これはさすがに現実的ではなそうだが、マネタリーベースが月間で1.5%増加するとした場合、12年後の金価格の推計値は1万5500ドルにまでさらに跳ね上がるという試算も成り立つ。

こうした机上の計算は、空論と言われそうだが、これまでの金価格の上昇ぶりや、今後もFBRが資産買い入れを継続することなども考慮すれば、金価格がこうした価格に達するという考えも荒唐無稽なものとは言いきれない。

今後もFRBによる資金供給が止まらずドルの減価が進むなら、必然的に金価格は上がっていかざるを得ないという考えは、これまでも、そしてこれからも有効であろう。数年後、数十年後の金価格を想定すれば、それこそ5000ドルや1万ドルといった想像もできない価格水準になっても私は驚かない。

原油相場は長らく1バレル=10ドル台で取引されていたが、2000年代に入ると急伸し始め、最終的には150ドル近くまで上昇したことは記憶に新しい。金価格もつい15年前までは、500ドル以下の水準での取引が常態化していた。したがって「5000ドルなど、絶対に上昇するはずがない」などとは言い切れないのが、現在の金市場の実態である。