「逆境に負けない子」に育てることが今必要な理由

レジリエンス=何事にもびくともしない力ではない

先行きが不透明で、将来の予測が困難な時代を生きていくことになる子どもたち。わが子が「変化に適応する力」「逆境を乗り越える力」をもつことの必要性を感じている親御さんも多いのではないでしょうか。

このような大きな変化への適応や逆境を乗り越える力を育てる教育として、世界的に「レジリエンス教育」の重要性が高まっています。

レジリエンス(resilience)とは、心理学の領域では「逆境に負けない力・立ち直る力」のこと。近年、世界の教育現場では、レジリエンスを育て、生きる力を育む「レジリエンス教育」が進められています。

逆境に負けない力というと、「どんな困難も跳ね返す強い心」、「ストレスに動じない強さ」であると思われる方が多いと思いますが、そうではありません。そういった強い心を持っている人もいますが、多くの人は、大変なことがあると落ちこんだり、やる気をなくしたりします。

しかし、人は、つらい逆境や困難に落ちこんでも、そのつらさに耐える力、そこから回復する力を持っています。その力を「レジリエンス」と言うのです。

レジリエンス教育では、何事にもびくともしない強い心を育てることではなく、困難な状況にあって苦しみを感じても、そこから立ち直っていける「しなやかな心」を育てることを目標としています。

レジリエンス教育の背景には先進国の子どもたちに見られる「うつ病の低年齢化」や「自殺率の増加」などがあります。日本においても、この数年でさえ、自然災害、新型コロナウイルスのパンデミック、不登校の増加、いじめなど、子どもたちを取り巻く環境には、さまざまな困難があります。

ある研究では、一世代前よりも今の子どもたちのほうが、多種多様なストレスを感じて生きているという結果が出ています。ストレスが重なった結果、精神疾患を発症したり、喫煙やアルコールに手を出したりし、結果、友だちとの関係性や学業にまでも影響するということが多く報告されてきました。

このような状況を改善するために、ストレスをしなやかに乗り越え、困難に負けないで生きていく力を育む教育(レジリエンス教育)は、子どもたちの心の健康を守る「予防教育」として位置づけられているのです。

ある研究(レイヤード他,2013)によると、幼少期の情緒的健康は、大人になってからの人生への満足度に大きく影響すると報告されています。つまり、幸せに生きていくために、幼少期の心の健康は欠かせないのです。

子どもの幸せへの認識の変化

昔から家庭や学校の中で子どもの心を育てることは、大切なことであると認識されていましたし、実際に取り組んでいる親御さんや先生もいました。

しかし、「子どもの幸せとは何か?」という問いに対する、大人の認識が変化しているように感じます。これまで、子どもが幸せになるためには学力を上げて、良い学校に入る、良い会社に入ることが幸せだと考えている親御さんが多かったのですが、今は「自分らしさをいかして、本人が幸せだと感じる人生を歩んでほしい」と願う方が多くなってきたように思います。

自身が幸せで人生への満足度が高い毎日を過ごすためには、やりたいことを実現したり、周りと良い関係を築いたりする力だけではなく、うまくいかないときにも自分の人生から逃げずに、ネガティブな状況やそこから感じる感情に対応できる力が必要不可欠です。そのことから、レジリエンス教育がより注目されてきたと感じています。

また、興味深いことに、レジリエンスを育てていくことは、学習面にも良い影響を与えるという研究結果が多くあります。

今はひと昔前の受け身の学習法から、子どもたちが主体となって能動的に学習にとりくんでいく「アクティブラーニング」に移行しているときですし、探求学習も注目を集めていますね。

このように試行錯誤しながら学びを深めていく過程には、あきらめない力や、うまくいかない時にも気持ちを立て直す力が発揮されることで、学習面においてもよい影響を与えるのです。

幼少期からのレジリエンス教育が鍵

レジリエンスはいつからでも育てていける力です。「ここまで育ったら完成する」「この年齢になったらもう伸びない」などということがなく、経験を通してずっと育ち続ける力なのです。しかし、レジリエンスを育てるには、早ければ早いほどよいともいわれています。

そして大切なのは、発達に応じたレジリエンス教育を行うということです。

幼少期において重要になるのが、「自分の感情と上手に付き合う力」を育てることです。特に、不快な感情を持ちながら我慢できる力の存在は、以降のレジリエンスを育てることに大きく影響すると言われています。

「感情と上手に付き合う力」とは、自分の感情に気がつき、その理由を理解し、適切な対応をする力のことです。その中には、圧倒されるようなネガティブな感情に対応する力である情動制御の力も含まれます。

この力を育てていくためには、自分が今どんな感情を感じているのかを認識するということが最初の一歩となります。

特に、怒りや悲しみのような不快感を伴うネガティブ感情は、持っているとよくないものと思われがちです。また、親としては、できるだけ子どもに感じさせたくないと考えるかもしれません。

しかし、ネガティブ感情は、自分の心と体を守り、自分でも気がつかない本当の気持ちを知るための、大切な感情であり、誰もが持っていて当然なのです。

子どもたちには、ネガティブ感情は、恐れる対象ではなく、大事なことを教えてくれる味方であり、友達であると説明しています。ネガティブ感情と仲良くする方法を身につけておくと、大きな変化や逆境を経験した際に、「ここから立ち直れる!」という大きな自信となり、子どもたちの心が育ちます。