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若手が上司に「助言」受け入れられない組織の末路

日本の多くの組織において、「現場が大事」という考え方は根強く浸透しています。

これは最も顧客に近いところで価値を生み出してゆく視点に立てば優れた考え方です。一方で、不正が起きた企業や組織においては、現場に任せすぎた故に、情報が上に届かずに、不祥事を長年放置してしまったなどのケースでも「現場」は話題に上がります。

「現場重視」という考えは共通するものの、”現場起点”で良い効果をもたらす場合と、現場の失敗を制御できずに組織的な不正に発展してしまうケースに分かれ、結果に差が生じてしまう原因はどこにあるのでしょうか。

それは、現場と経営との間が「断絶」してしまうことが原因です。現場においては成功も失敗もいつでも起こりうる中で、それが上位層や経営にタイムリーに伝わるか否かで組織の対応力、経営力に差が生まれてきます。

ではなぜ、現場と経営に「断絶」が生じてしまうのでしょうか。

「現場」は末端ではなく「先端」

私は、根本的な理由として、経営の「現場」に対する価値観、捉え方の違いにあると見ています。

そこでのキーワードは、現場を末端ではなく「先端」と捉えることです。「現場」を「先端」と見るか”末端”と見るか、それによって組織の動かし方は真逆になります。

まず、現場を”末端”と見ると、経営は、”内向きかつ上から目線”になります。企業で言えば、「経営→管理→フロント→顧客」であり、行政組織で言えば、「国→都道府県→市町村→住民」の階層があり、組織は自ずと内向きな論理が働くものです。組織を動かすリーダーにとって、日常の接点からすると「現場」は最も遠い存在、いつしか”末端”になってしまうものです。

 

一方で、現場を「先端」と見ると、”外向きかつ下から目線”になります。現場は、組織にとっては、顧客や住民をはじめ外部と最も早く触れ合う接点です。現場で起こっている問題は、複雑で一筋縄にはいかないものばかりです。組織のリーダーにとっては、より困難で大変なことではありますが、本当の解決策は現場でしか見つからないものであることも事実です。

これからは、多くの「日本的な組織」にとって、「現場こそ”先端”」という意識のもとで顧客や住民目線を第一にして変革に臨むことが求められます。実は「内向きなタコツボ社会」を変えるきっかけは、現場を「先端」とみることから始めるところにあるのです。

下から学ぶ”リバース・メンタリング”

現場を「先端」とみることで、”外向きかつ下から目線”で組織を変革してゆくことの重要性を述べました。ここでは、最近多くの組織において”現場発”で取り入れられている「下から目線で学ぶ」手法であるリバース・メンタリングについて、組織変革における有効性を見てゆきます。

リバース・メンタリングは、若手などが上位者や年長者にアドバイスを行う手法として注目されていますが、現場起点で組織を変革する際の推進力として期待できます。階層的組織や縦割りが強い「日本的な組織」の風土を変える上で、若い世代の力を活用して、世代間の意識ギャップを埋めることは、変革のきっかけになります。

特にこれからは、デジタル化やSDGs等の環境変化に企業が対応し生き残ってゆくためにリーダー層の意識改革をするうえで、益々その重要性が高まってゆきます。

一方で、多くの日本企業では、リバース・メンタリングの意義は感じていても、いざ導入となると踏み切れない現実があります。実際に、大企業に勤める1万人を対象に行ったある調査(2017年)では、リバース・メンタリング制度があると答えた人は全体の16%、つまり8割以上の人にはなじみがない状況を示すデータがあります。

上下の階層や縦割りが強く保守的な風土が強い多くの日本企業において、今後これをどう広げ、変革に繋げてゆけるのかは大きな課題です。

リバース・メンタリングの導入のポイントは、「”斜め”の組み合わせ」をいかに作るかにあります。

若手にとっては、評価者である直接の上司との”縦”の関係を切り離し、評価を気にせず意見を言える ”斜めの関係”の組み合わせをどう作るか、がカギを握ります。

具体的には、若手の相手となる上位者は、指揮命令が及ぶ同一部門ではなく必ず別部門の上位者から選ぶことを必須にする方法です。或いは、「若手2名に対して経営層1名」のように、メンターの若手側の人数を複数にして数的優位を作るという方法もあります。最近では、コロナ禍で広まったオンラインツールとの相性の良さを活かし、遠方や海外メンバーを含めて組み合わせのバリエーションを機動的に変えるなどの工夫も考えられます。

リバース・メンタリングを一過性でなく継続させるには、「テーマ設定」も重要です。双方が自発的に「話したい・聞きたいテーマ」を幅広く設定する。例えば、デジタル商品の使い方など身近な話題から、若者の職業観、生活様式、消費性向まで幅広くテーマを引き出してマッチングさせるなどの工夫をしている例もあります。

このような動きは一部の企業で始まった取り組みですが、多くの「日本的な組織」にとっては、リバース・メンタリング導入をきっかけに、〝世代や部門の壁を超えてお互いが学び合う〟という新たな風土変革に向けた好機になります。

「先と外」の危機感から始まる自己変革

これまでは、組織的な特性を活かした”日本らしい”変革アプローチを、さまざまな視点から見てきました。

これから「日本的な組織」が変革を進めるうえで、最も大事なことは、受け身ではなく、自らの意思に基づいて変わる”自己変革”ができるかどうかにあります。

持続的成長に向けては、平時から自らが能動的に変わってゆく「自己変革力」が求められます。しかし、自ら変革の必要性に気づき、実行を継続することは言うほどに簡単ではありません。

いつの時代も、変革のきっかけは「危機感」にあります。現状のまま停滞し衰退することへの「危機感」こそが、組織の自己変革力を突き動かすのです。業績低迷や明らかな苦境に陥ったような有事には、誰しもが危機感を持ちますが、平時からつねに危機感を持ち続けることは難しいのです。

では、平時から危機感を持ち、自己変革を起こすには何が必要でしょうか。その答えは、「先と外」にあります。言い換えれば、「先のこと(将来の変化)」、「外のこと(外部の変化)」をいかに「自分事」として捉えられるかにかかっています。将来(時間軸)と外部(市場)の変化に対して、いかにアンテナを張って敏感になれるかがカギを握ります。

タコツボ体質の「断絶」をどう乗り越えるか

「日本的な組織」が、自己変革できるようになるには、平時から「先と外」に危機感を持つこと、すなわち、将来の変化を予測できる洞察力(先を読む力)、そして、外部で起こる変化を客観視できる観察力(外を見る力)が必要です。

一方で、元来組織は保守的で、既存のものを守ろうとする自己防衛の意識が自然に働くため、過去や現状を否定しかねない変革には不安が先行し、抵抗感から隔たりが生まれやすいのも事実です。

将来の道筋が見えない”先”への不安、”外”からの期待と内側の論理との間に生まれる隔たり、組織”内”の立場の違いからくる利害の隔たりなど、変革を進めるほどに、「先、外、内」のあらゆる局面で「断絶(へだたり)」が生まれます。

実は、ここにこそ「内向きなタコツボ」体質の日本的な組織が、変化しにくいことの原因があります。自らの領域を守るために、変化に対して保守的になり、周囲とのつながりを絶ってしまいがちになる、いわばタコツボ体質が、”断絶”を生み出すのです。

つまり日本のあらゆる組織は、長年にわたって変革の必要性を声高に掲げつつも、「内向きなタコツボ体質」であるが故に強固になる「断絶」を乗り越えることができず、変革は成果が未達成のまま頓挫してしまうことが多いのです。

では、「日本的な組織」が、「断絶」を乗り越えて自己変革するには何が必要でしょうか。

そこには、自らが平時から危機感を持ち、変革を起こし、さらに持続させるための仕掛け(メカニズム)が必要です。具体的には、将来(先)や外部(外)の変化に対して、組織が、断絶することなく変革に結びつけられる”つながり”を作る仕掛けが重要です。

「日本的な組織」に、断絶を乗り越える”つながり(連鎖)”を作るメカニズムが、自己変革の原動力になってゆくのです。