「メタバース」は暗号資産の救世主になりうるか

デジタル化が進む社会

日本でも「デジタル化」(DX:Digital Transformation)が、政策として政府主導で推進されている。その司令塔として「デジタル庁」(Digital Agency)を昨年9月に発足させ、積極的な活動をしている。

政府の中でも各省庁でもデジタル化を推進していた。まさにデジタル化の仕組み同様、中央集権的な決定部署が必要となっていた。まさに日本最高レベルの調整が進められている。

Digitalとは、もともとは人の「手のひら」のことである。指が10本あり、人類はその指を使って数えた。そこから、様々な現象をデータ化(数値化)して、それを活用することをデジタルと言った。そのようにデータを経営・組織的に活用するということは、中央集権的にデータを集めて、“迅速に、確実な決定”を促すものである。

企業や政府などの組織において、ボトムからトップへの「ピラミッド型」の組織は、決定をするときに必然的な形態である。その組織で情報(データ)を伝えるときに、以前は「紙」で上げられていた。

「ペーパーレス」(Paperless)の意識は1970年代からの自然保護、すなわち森林保護と同時に始まった。そのように、資源の削減(自然保護)を目的として、紙をなくすこと、「ペーパーレス」が進んだ。当初はPDFのようにそのまま読み込んでいたが、後に、紙の中にある数字などの「データ」を活用するようになった。

そのピラミッド型の組織は、情報の伝達が紙からデータに移行するのと同時期に、情報伝達が早く出来るようになり、中間層を省き出し、ピラミッドの高さが低くなっていった。また、同様に、個々がピラミッドのように“上部機関”を持たず、分散したままで決定を下し動いていくことになっていく。

個々がある程度の塊(ブロック)となって、接続されていく形態で、それを支えるのが「ブロックチェーン技術」である。そのまま、ブロックチェーン技術をベースとして、“分散型”で行われる金融の仕組みが、金融機関を介さず利用者同士が直接金融を行う「DeFi」(Decentralized Finance:分散型金融)である。組織とすれば、管理者不在の「DAO」(Decentralized Autonomous Organization:分散型自律組織)となる。

このようなデータを“特定の利用者”に集めないで行われる分散型ウェブサービスは「スマートコントラクト」とも言われている。

デジタル化の進化の段階として、Web1.0(Web1)、Web2.0(Web2)、Web3.0(Web3)と分類されることがある。

(1)Web1.0
“個”と“個”が一対一で接続される状態のことであり、“Eメール”のような仕組みの段階である。 
(2)Web2.0
Web2とは、個と多数が、一対多数で接続されている状態のことであり、ウェブサイトのような仕組みである。まさにこれがピラミッド型モデルの段階である。 
(3)Web3.0
Web3とは、個と多数の個が、接続されている状態のことであるが、中央集権的な組織がない段階である。

このような進化の根幹となっているのが「ブロックチェーン技術」である。ブロックチェーンの基本的な考え方に、“分散化”はもちろんであるが、“公正”ということがある。日本では一般化していないが、ブロックチェーンには、社会に対する考え方として、このような“哲学”がある。

つまり、ブロックチェーンが進めば進むほど、“分散化”が進んでいく。つまり、デジタル化が進んだ組織とは、“反対”の組織になっていく“矛盾”が発生していく。一言でいえば、中央集権型のデジタル化と分散型のブロックチェーンは反対の方向、すなわち相容れない戦略なのである。これが第1の課題である。

「デジタル金融商品」の登場

この進化したブロックチェーン技術を使い、新たな「デジタル金融商品」が登場することになった。それが、暗号資産(仮想通貨)やNFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)である。

ビットコインをはじめとした暗号資産(仮想通貨)は、日本円や株式とは違い、ベースとなる資産がない。その“仕組み全体”が価値の根源となる。株式(株価)と同様に、マクロ経済の環境はもちろん、株式の場合、その“企業の資産価格”も根拠となる。

暗号資産はもちろん、その暗号資産自体の仕組みも重要であるが、株式の何倍も敏感にマクロ経済の影響を受け変動幅も大きい。暗号資産の多くは変動するが、ドルなどの通貨に固定された「ステーブルコイン」(Stable Coin)も存在する。

最近の不安定な株価を倍増した価格変動によって暗号資産は大きく変動した。さらに、ドルに固定された暗号資産ステーブルコインも、その“固定”の前提はありながらも大きく変動、下落した。それは、通貨の分野では、固定相場でありながらも通貨危機として制度を外れて、大きく下落した通貨と同様の形態である。

現在、ブロックチェーン技術をベースとしたNFTは、有形無形の価値を示すデジタル金融商品として、「NFTマーケットプレイス」として市場を形成している。それは、その昔、不動産取引のときに用いられた「権利書」がデジタル化したようなものである。銀行や証券会社ではなく、主として、暗号資産交換業者が取り扱いをしている

この、人の介在しないシステム運用はメタバース(仮想空間:Metaverse)と相性が良い。ゲームのような“人工的な世界”である。VR(仮想現実)のヘッドセットも活用され、それは、現実から拡張された世界を作り上げる。

さらに、それが拡大しビジネスとして成功しているのは、メタバースの「多人数同時参加型ゲーム」が挙げられる。自分自身の代わりに分身としての「アバター」(Avatar)を使い参加する。戦闘ゲームが人気だが、そのときに、自分の姿を選び、戦いに勝利するために武器を買う。勝利していくためには、技術ももちろん大事であるが、強い=高い武器を買うことが勝利につながる。そこで使われることが多いのがゲームの世界だけで使われる仮想通貨である。

わかりやすいイメージでいうと、大ヒットした映画 『マトリックス』(1999年)の中で、キアヌ・リーブスが演じる主人公が活躍する世界が、コンピューターの中に構築された巨大な仮想空間「メタバース」である。

暗号資産の課題

暗号資産交換業界では、不幸な事件が何件も発生した。最も大きかったのが、2018年の交換業者コインチェック(Coincheck)における約580億円の流出事件である。それ以降、金融庁登録の暗号資産交換業者は“各自”システムを硬固なものにした。要は、個々のレベルまで分散化したのである。

この点が、デジタル化した大きなピラミッド型組織と、分散化を超えて、さらに“個々”になるとは、さらに反対方向である。これが第2の課題である。

暗号資産業者は、その堅固な方向は各自の対応であり、全体のネットワークをつないではいない。銀行業界では全国銀行協会としてまとまり、その決済システムとして「全銀システム」を運営している。

暗号資産業界は、それを自覚しており業界団体を「日本暗号資産ビジネス協会」(旧 日本仮想通貨ビジネス協会、日本仮想通貨事業者協会)1つにまとめた。今後、銀行がやっているような決済システムを構築する方向に向かうべきと考える。

暗号資産については金融庁登録の暗号資産交換業者を介さないで売買されているNFTや暗号資産で詐欺が発生することがある。投資はあくまでも自己責任であり、日本人のリテラシーの問題といえばそうである。

最近ではこの4月に、暗号資産に限らず、広くデジタル空間(仮想)でのさらなる発展を加速するため、業界横断的な「日本デジタル空間経済連盟」が発足した。日本経済の成長に資することを期待している。