NFTと「推し活」の相性がすこぶる良いカラクリ

NFTは、特定のアーティストやクリエイターを応援したいファン心理ときわめて相性がいいことが大きな特徴です。

わかりやすいのは、「推し」に対する投げ銭です。人気ユーチューバーのライブ配信で、数百円から数万円のスパチャ(ユーチューブが提供する投げ銭機能「スーパーチャット」の略)が乱れ飛ぶ光景を目にしたことがある人なら、きっと実感できると思います。

スパチャは「推し」を応援したい気持ちを「お金」で表現したものです。「推し」と直接つながることができるだけでなく、チャットで「推し」から「お礼の言葉」をもらえるケースもあり、ファンの承認欲求も満たされます。好きな人のためなら、多少の出費はいとわない。それがファン心理というものです。

NFTが満たしうるファン心理

ライブ配信サービスやコンテンツ投稿サイトでは、配信者(うp主=コンテンツをアップした人)の才能に対する称賛の気持ちや、コンテンツ制作の労力に対するお礼として、さまざまなグッズや権利(配信者主催のイベントに参加する権利など)を購入できるギフティング機能が提供されています。

そこで買えるグッズが、市販品とは違う「限定品」だったらうれしいし、ほかの誰も持っていない「一点物」だったらもっとうれしい、多少高くても手に入れたい、というのがファン心理ではないでしょうか。NFTはそれを可能にしてくれるのです。

そうした「一点物」の値段は、「推し」に対する忠誠心によっていくらでも変わる、というところが、ただのコインとは決定的に違います。

コインの価格は需要と供給のバランスで変わり、買いたいという人が多ければ多いほど、値段が上がっていきます。しかし、NFTの場合は、流動性が高いかどうかは、それほど大きな問題ではありません。それを買いたいという人が、たとえ世界中にたった1人しかいなくても、その人が「この画像には100万円の価値がある」と思えば、100万円の値段がつくのです。

つまり、買いたい人の多さにかかわらず、一意的に値段が決まる。唯一無二のNFTだからこそ、そういう取引が成り立つのです(ただし、後述する二次流通市場では、需要が多いほど高値がつく傾向があります)。

アンティークコインやビンテージワインも、市場原理によって、信じられないような高額で取引されることがあります。NFTもそれと何も変わらないのです。逆にいうと、ある特定のNFT作品に誰がいくら払おうが、その人の自由ということです。他人がそれを批判したり、「あなたはダマされている」と訳知り顔で忠告したりするのは、本人にとっては「余計なお節介」でしかないのかもしれません。

NFT作品を手に入れた人が、それを別の人に売ることもあるでしょう。芸能人の手書きのサインや、スポーツ選手があの瞬間に着ていたユニフォームのような「一点物」であっても、それを売りたい人と買いたい人がいる限り、二次流通市場(マーケットプレイス)が発達するのは、ごく当たり前の風景です。

クリエイターに収益を還元できる仕組み

しかし、「限定品」や「一点物」の二次流通市場が盛り上がれば盛り上がるほど、そこにつけ込む「転売ヤー(希少価値が高いグッズやチケットなどを買い占め、高値で売りさばく転売業者)」が参入してくるのは避けられません。とはいえ、「安く仕入れて高く売る」ことは商売の基本中の基本であり、転売自体はリアル世界で普遍的に見られる現象にすぎません。一方、作品を生み出したクリエイターにしてみれば、自分の作品が高く評価され、二次流通市場でどれだけ高く売れたとしても、自分の懐に(ふところ)は一銭も入らないという問題がありました。

どんな商品でも同じですが、「新品」を買ったときは、その代金の一部を売り手(販売業者)が受け取り、残りは作り手(メイカーやクリエイター)の手に渡ります。しかし、いったん売れたあとの「中古品」の売買(二次流通市場)では、代金はそれを売った人と販売業者が分け合うだけで、メイカーやクリエイターは完全に蚊帳(かや)の外です。

ファン心理としては、大好きな「推し」のグッズやチケットは、それが入手困難なものであるほど手に入れたい。ところが、中古品(転売品)を正規の値段の5倍、10倍で買ったとしても、そのお金は「推し」のところには届かず、「転売ヤー」の手に落ちてしまうわけで、そこに大きなジレンマがありました。

しかし、NFTなら、そうしたジレンマを解消できるかもしれません。NFTを可能にしたスマートコントラクトは、あらかじめ「こういう条件のときはこういう行動をする」と決めておけば、それを自動で実行してくれるプログラムでした。そのため、たとえば「二次流通市場で売買したときはクリエイターに代金の◯%を送る」とプログラムに書いておけば、中古品が売れた時点でクリエイターに分配金を送る仕組みをつくることは、それほどむずかしくないのです。

これは、自分の作品が中古市場でやりとりされるのを快く思っていなかったクリエイターにとっても、悪い話ではないはずです。中古品の売買が自分の収入につながるなら、むしろどんどん売ってもらって、より多くの人に手にとってほしいと思うクリエイターもいるはずだからです。

実際、ユーザーが購入したNFTを二次流通市場で販売したとき、クリエイターやアーティストにも一定のロイヤリティが還元される仕組みをうたったサービスが続々と登場しています。

NFTが二次創作の「福音」に

さらに、二次創作の世界でも、NFTが福音となる可能性があります。二次創作作品をNFT化することによって、元ネタであるキャラクターなどの権利を持つ漫画家や出版社に対しても、ロイヤリティを自動で還元できる仕組みを構築できるからです。

NFTは、マンガやアニメ、イラスト、映画、ゲーム、アート作品、ライブパフォーマンスなど、オリジナルなコンテンツを創造し続けるすべてのクリエイターやアーティストにとって、新たな収入源となる可能性を秘めています。

Jリーグやプロ野球のように根強いファンがいるプロスポーツチームやスポーツ団体、ファンクラブがあるミュージシャンや芸能人、コミュニティを運営するサロンオーナーや固定ファンのいるユーチューバーなどにとっても、NFTは、新たな収益源を提供してくれるかもしれません。

コロナによって世界が分断されてしまったことで、ファンとの距離が遠ざかり、苦労しているクリエイターも少なくないといいます。そうしたクリエイターがNFTを使えば、コンテンツ制作にかかる費用を直接回収できるだけでなく、ファンとの絆を強めることができます。あいだに入る人がいなくなれば、それだけクリエイターの取り分は大きくなり、たとえば、1000人の固定ファンがいれば、生活をまかなえるようになるかもしれません。一方、それを支えるファンにしても、好きなクリエイターを直接応援できれば、こんなにうれしいことはないでしょう。

NFTには、そうした親密で小さな経済圏を回す力もあれば、もっとずっと大きな、1つの産業を根本から変えてしまうような破壊力もありそうです。これからもNFTに注目してみてください。