二兎追い二兎を得る「創造力」が抜群な人の思考法

トレードオフの課題は「創造」があふれている

思考トレーニング①:トレードオフの課題やニーズを意識する

一般的に、人はトレードオフの課題が出現した場合に「厄介な問題だな」と感じる。そして、両方の課題それぞれを解決した場合を予想し、より効果的な一方の課題を解決しにいくものだ。

一方、イノベーターの場合は三度の飯よりトレードオフの課題やニーズを同時に実現するための解決方法を考えるのが好きだといわれる。そう、トレードオフの課題やニーズは「創造」であふれているからだ。

例えば、P&GをV字回復させた偉大な経営者であるA・G・ラフリー氏も「私は二者択一というやつが嫌いなんだ」と語り、「OR思考」ではなく「AND思考」を大事にしていたと言われている。

また、イノベーションの例としてよく挙げられるソニーのウォークマンは、「移動したい」というニーズと「音楽を聴きたい」というトレードオフのニーズを解決したことが、大ヒットした要因だったと言われる。

当時はまだ、音楽をカセットテープなどで特定の場所で聴くということが常識だったため、移動しながら音楽を聴くことは、人々が無意識に諦めているトレードオフのニーズだったのだ。

ひるがえって、トレードオフの課題やニーズを意識的に可視化して組み合わせるトレーニングをすれば、普通の人でもイノベーターに近づき、創造的になれるはずである。

そこでまず、以下のお題を解いてみてほしい。

思考トレーニング①-1

・身の回りにある、ヒットした商品やサービスを選んでください。

・そのサービスや商品がどのようなトレードオフの課題やニーズを解決しているのか考えてください
※ヒント:パイロットの消せるボールペンはどんなトレードオフのニーズを解決しただろうか

既存のサービスや商品でトレーニングをしたら、次に、自分でトレードオフの課題やニーズを探すトレーニングをしたい。

もっとも、トレードオフの課題やニーズは、通常は思考から自然と除かれていることが多く、意識しようとしても簡単にはできないことが多い。

そこで、以下の2つの具体的な方法を使ってトレードオフの課題やニーズを探していこう。

「真逆」の状態を考える

a. 選択した課題やニーズの真逆の状況を考えたうえで、その状況の構成要素を考える。

たとえば、「安く食事をしたい」というニーズがあるとする。このニーズの真逆の状況は、「価格が高い食事」だ。そこで、「価格が高い食事」を構成する要素を具体的に考えてみる。「美味しい料理」や「高級感のあるレストランの内装」などが思い浮かぶのではないだろうか。

すると、ここでは「安く食事をしたい」というニーズと「美味しい料理が食べたい」というトレードオフの関係の組み合わせを見つけることができる。

人気のあるファストフード店などは、まさにこのトレードオフのニーズを解決しているのではないだろうか。

 

b. 選択した課題やニーズを実現する際に、何が制約(ボトルネック)になるのか考えて、その真逆の要素を考える。

たとえば、「プロの美味しい料理が食べたい」というニーズがあるとする。このニーズを実現する場面を具体的に想像すると、ホテルや一流レストランに食べに行く必要がある。そうすると、「お店に食べに行く」ことが制約とも言える。

この「お店に食べに行く」という制約の真逆を考えると「家で食べる」だ。移動をしたり外出の準備をすることが面倒くさい、などの理由で「家で食べたい」というニーズはありそうだ。

こうして、「プロの美味しい料理が食べたい」というニーズと「家で食べたい」というトレードオフの関係の組み合わせを見つけることができる。新型コロナウイルスの流行によりこの「家で食べたい」というニーズが高まった結果、プロ料理人が自宅で料理を作ってくれるシェアダインなどのサービスが一気に広がったのは記憶に新しい。

次に、これまで学んだ具体的な方法を使って以下のお題に取り組んでみてほしい。

思考トレーニング①-2

・普段の仕事や生活上の課題やニーズを書き出してください。
・そのうち1つの課題やニーズを選択し、上記の方法aやbを活用して、トレードオフの課題やニーズの組み合わせを考えてください。
・そのトレードオフの課題やニーズを解決するための方法を(実現可能性は無視していいので)考えてみてください。

常識をひっくり返して物事を考える

2. 課題を転換する(思考トレーニング②)

続いて2つ目のトレーニングとして、転換思考について考えたい。

転換思考とは、先入観や思い込み、常識を捨てて、新しい枠組みで物事を捉える考え方だ。もう少しかみ砕くと、常識をひっくり返したり、ズラしたりして物事を捉える考え方で、Break the biasやThink out of the boxとも言われる。

そして、課題を転換することができると、そもそも解くべき課題が大きく変わることから、解決方法も抜本的に変わり、非常に大きなインパクトを与えることができる。

たとえば、一流のコンサルタントは、顧客から持ち込まれた課題をそのまま受け止めない。本当の課題は顧客が気づいていないところにある、と考えているからだ。顧客から持ち込まれた課題を転換して、ほかに本当の課題があるはずだと仮説を立ててプロジェクトをスタートしているのだ。

本来やるべきは上位の課題を解くこと

では、この課題の転換は具体的にどう行えばいいのか。そのうちの1つの方法をここでは提示したい。

a. 当該課題を解かなくても、より上位の課題を解消したり、目的を達成できる方法があるのではないかと考える。

これは、皆が必死に考えている課題に対して、そもそもこの課題は考える必要はあるのか、解決しなくても本来の目的は達成できるのではないか、と考える方法だ。

基本的に、解くことができずに問題になっている課題には、より上位の課題が存在する。つまり、解けずに問題になっている課題は、より上位の課題を解くために設定されたものであったり、本来の目的を達成するための1つの要素にすぎないのだ。そして、本当にやるべきことは、上位の課題を解き、本来の目的を達成することである。

こうした原則に立ち返り、目の前に解けない課題が現れたときには、直接この課題を解かなくても、上位の課題を解いたり、本来の目的を達成できないかと考えたりすることで、ブレイクスルーが生まれる可能性があるのだ。

例えば、イーロン・マスク氏が経営するスペースXの打ち上げ用ロケット「ファルコン9」のクラスターエンジンは、「正確で完璧なエンジンを作らないといけない」という常識的な課題に対して、達成したい目的が「宇宙に行くこと」であれば、この常識的な課題を解かなくても、本来の目的を達成する課題(「小型のエンジンを複数機積めばいいのではないか」)があるのではないかという視点から考案されたものだ。そして実際に、小型エンジンを9つ搭載したファルコン9で宇宙に行った。

では、ここまでの議論を踏まえて以下のお題に取り組んでみてほしい。

思考トレーニング②

・普段の仕事や生活での課題やニーズを書き出してください。
・上記aの方法を活用して、その課題やニーズの上位の課題やニーズを考えてください。
・その課題やニーズを解かなくても上位の課題やニーズを解決できる別の課題やニーズを考えてください。
・その転換した課題やニーズを解決する方法を考えてみてください。

創造的になるトレーニングとしてここまで2つの思考法をみてきた。普段は意識しない考え方をしつこく繰り返すことで、脳がその思考方法に慣れて自然と考えることができるようになり、誰でも創造的になれるはずだ。