IT導入で農業・飲食が一体に「6次産業化」への期待

2040年までのビジネスのトレンドを読むうえで押さえておきたい7つのポイントがあります。「①現実世界の仮想化」「②仮想世界のリアル化」「③業界の境目がなくなる」「④リモート化は加速度的に進行する」
「⑤SDGsとESG経営」「⑥人口減少の脅威」「⑦第4次産業革命の必要性」の7つです。

順を追ってご説明していきましょう。

電話がLINEやZOOMに置き換わった

① 現実世界の仮想化

「現実世界の仮想化」とは、リアルな空間のあらゆるモノゴトのデジタル化を意味します。これは少し考えると、複数の事例が存在することに気がつきます。

企業は基幹システムなどを提供するサーバーがクラウド化したことで、ハードウェアを持つ必要がなくなりました。これはコンピューティングの仮想化です。

また、19世紀の発明以来、長いあいだ利用されてきたハードウェアである電話は、LINEやZOOMなど、これまで以上の機能を持ち、しかもスマートフォンの中で1つのアプリ=ソフトウェアとなりました。そして交通系のICカードや○○ペイのような決済アプリは、財布を仮想化したものといえます。これらが現実世界の仮想化です。

このようなトレンドはまず、ハードルの低いコンシューマー=一般消費者領域から始まり、ビジネスに浸透していきます。これは、クラウドやソーシャルメディアの歴史においても顕著な傾向です。

②仮想世界のリアル化

「仮想世界のリアル化」は携帯電話が最もわかりやすいでしょう。

2Gの時代、NTTドコモの「iモード」のコンテンツは文字が中心で、「着メロ」も単音が流れるだけでした。それが3Gに進化して画像も扱えるようになり、撮影機能も実装しました。「着メロ」は「着うた」に進化し、楽曲の音源をそのまま利用可能になりました。

4Gの時代ではスマートフォンが普及し、「時系列拡張」という進化によってネットワークを経由した連続的な音声や映像の視聴、撮影した動画の送信、インターネット通話が利用可能になりました。

そして、5Gの登場で「現実空間の転送」ともいえる「空間拡張」が実現しました。本物のように高精細な4K・8K動画や、空間の奥行方向に拡張された大容量の3DコンテンツをAR・VRなどで通信できます。さらに、現実世界の事象に対して無遅延・リアルタイムでのデータ通信が求められる自動運転の制御にも利用されています。

仮想世界のサービスやモノが現実に

これらはまさに、仮想世界のサービスやモノがリアルに再現されていくことで、「現実のモノ」に近づいていることを意味します。まさに仮想世界のリアル化です。

そして、「①現実世界の仮想化」「②仮想世界のリアル化」が進行すると、その境界は曖昧になっていきます。Meta Platformsに社名変更したFacebookは、「Horizon Worlds」というメタバースのサービスをリリースしていますが、これが既存のサービスと異なるのは、コミュニケーションの向こう側にリアルな人がいる点です。デジタル上にもかかわらず、現実との境目を感じさせないように交流できるように作られています。

一方で、ボーカロイドの仮想シンガー、初音ミクが2020年にリアルな会場でライブを行ないました。多くの観客がペンライトを振って声援を送るわけですが、その裏側にリアルな人が存在しているわけではありません。こちらはあくまでもリアルな人間から仮想の人間(のようなもの)に対する仮想交流です。

つまり、「現実世界と仮想世界の境目が、いかに曖昧になりつつあるか」を今後のトレンドの前提として理解する必要がある、ということなのです。

ビジネスでも「業界の境目」がなくなる

③業界の境目がなくなる

ビジネスにおいては、さまざまな「業界の境目」がなくなりつつあります。徳島県鳴門市でIT企業セカンドファクトリーが経営する食品加工場兼レストラン「THE NARUTO BASE」(以下ナルトベース)があります。そこでは規格外の農作物を近隣の農家から買い取り、加工し、レストランの料理として出す一方で、新鮮なままペースト加工・瞬間冷凍を施し、首都圏の契約レストランに直送する「地方型セントラルキッチンの機能」も担っています。

契約レストラン側では、POSで当日の出荷データがオンラインのダッシュボードで管理されており、ナルトベース側とリアルタイムで連携しています。当日の追加補充の必要性や、週次でどのくらい事前に仕込めばよいのか、あらゆる状況が一目瞭然の状態を作りだしています。

ITを用いた1次産業の高度化は、いわゆる「6次産業化」と呼ばれる複合産業の姿ですが、しかし、これは何業と表現すれば良いのでしょうか? IT業、飲食業、食品加工業、農業などの複数の業界をまたぐサービスです。

このように、「業界の境目がなくなること」は当たり前の流れといっても過言ではなく、気づいた企業はすぐさま舵を切ることでしょう。「うちは○○業だから」と言って、こうしたビジネスチャンスを無駄にしてしまうとすれば、とてもナンセンスではないでしょうか。

④リモート化は加速度的に進行する

コロナ禍を発端として、あらゆる分野で「リモート化」が進んでいます。ですが実は、リモート化は3つに分類して定義することができます。

(1)「遠隔操作・遠隔制御」のリモート化

コロナ禍で多くの企業がリモートワークを推進した一方、生産現場ではリモートワークが進みませんでした。

実際には、製造ラインの自動化と遠隔モニタリングといったリモート化を進めれば、現場に出向かなくとも遠隔制御や監視は可能なはずです。VUCAの時代における事業の計画を考えるうえでは、現場のリモート化を通じて弾力的な対応ができる体制を作る視点は必須といえます。

(2)人々の「体験」のリモート化

昨今ではリモートミーティングが当たり前のものとなり、多くの人が十分に仕事をこなせる事実に気づいたはずです。

日常においても仲間内でWeb飲み会を開いたりなど、リモートの市民権は確立されつつあります。この流れは、コロナ禍が終息しても完全に後戻りすることはないでしょう。

(3)接触をトリガーとした機器の操作における、「身体的距離」のリモート化

スクリーンの仮想ボタンをタッチ・フリックする仕様を持つ技術の登場により、PCのキーボードを指先で押し込む動作は減少傾向にあります。次いで、音声での操作が可能になり、指紋認証は顔認証にシフトすることで、操作対象に触れる必要が完全になくなりました。

つまりこれは、「操作する人と操作対象の物理的な距離が、技術進化に伴って離れていくリモート化」なのです。

この3つに分類したリモート化の流れは、今後の技術革新とともにさらなる進化を遂げていくことが容易に想像できるかと思います。

SDGsとトランスフォーメーションの関係

⑤SDGsとESG経営

「SDGs:持続可能な開発目標」は、端的に表現すると、「経済的な発展は目指しつつも環境や人権に配慮し、平和で公正な社会を維持し続けよう」というものです。

その代表的なものの1つが、CO2排出量の削減=カーボンニュートラルの潮流です。日本でも2030年までに45%のCO2排出量を抑制するという数値目標が掲げられ、企業に凄まじい圧力がかかっています。

環境配慮に限らず、ファーストリテイリングや良品計画は新疆(しんきょう)ウイグル自治区の強制労働問題で批判を受けました。こうした環境配慮・社会問題対応・企業統治のあり方に関する経営の理想像はESG経営(Environment , Social and Governance)というメガトレンドで捉えられています。

この社会的な要請において、企業はかつてないほどに経営の透明化を求められています。事業活動を可視化する「サステナビリティレポート」の充実に努めながら、株主や投資家とコミュニケーションを取る必要性が高まる、といった不可避の流れもあります。

SDGs・ESG経営を実現するためには、ビジネスのすべてをデータで可視化する必要があることから、DXと密接な関係にあります。サプライチェーン全般にわたるIoT化によってデータでビジネスを可視化し、目標値を定めてPDCAを回すことをデジタル化で効率的に進めていく必要があるのです。

⑥人口減少の脅威

未来からの逆算=バックキャストの観点から、足もとに目線を戻したときにまず考えなければならないのは、「日本の労働人口の見通し」です。

厚生労働省の予測では、日本の生産年齢人口は2017年の6530万人に対し、2040年にはわずか5245万人(2017年比約80%)にまで減少するとされています。

人口減少では生産性と効率性を高めるべき

目の前の現実に落とし込めば、現在5人の現場は4人で担当しなくてはならなくなるような大きなインパクトをもって、経営を直撃します。つまり、デジタル技術で生産性と効率性を高め、今から20年間で少なくとも20%の生産性向上を実現する必要があります。

さらに、既存マーケットに対する海外企業の新規参入を考えれば、必要な生産性の伸び幅は30%以上を目標としても大げさではないでしょう。それほどの危機感・恐怖感を持って目の前の現実を真剣に考え、逆算してアクションを起こしていく必要があります。

 

⑦第4次産業革命の必要性

経産省が掲げる「産業革命の進展」に、これまでの産業革命の系譜が記されています。第四次産業革命においては「IoT」「人口知能」「ビッグデータ」「クラウド」といった技術論とともに、「最適なプランニング」「モノのサービス化」「遠隔制御」といった、DX推進に必須となる方法論や考え方が示されています。

このスケールの発想は、国から産業界全体に対する大きな枠組みでの指針にも見えますが、実は一つひとつの企業、国民一人ひとりが進めていかなければならない課題でもある、という印象を受けます。

私は、「デジタル投資を単純なコストとして捉えるべきではない」と考えています。

デジタル投資は、付加価値の高いビジネスを生み出し、業界の垣根を越えて新しい領域に進出するための投資として、前向きに取り組むべきなのです。なぜなら、この投資を成功させれば収支、リソースなどを含めたもろもろのトータルバランスがグンと効率よくなっていくはずだからです。

デジタル化の必然性はもはや明白

実は企業に限らず、あらゆるモノをデジタル化することに関しては、どれ1つとってもネガティブな要素が見いだせず、その必然性は明白です。10年経てば、人材難やカーボンニュートラルの規制強化のインパクトによって、本当に会社が操業できなくなる企業が続出するはずです。

そうなってから慌ててデジタル化に取り組むのでは遅すぎるのです。いま、日本企業に求められるのは、本気で変革を実現していこうとする経営者の覚悟と、一人ひとりが自分ごと化して進める覚悟ではないでしょうか。より一層、DX推進を通じたスピーディな産業構造変革が進む日本にしていきたい。