DX人材の4要素
以下の図では、DXのプロセスに沿って必要な能力を大きく4つに整理している。この図に沿って説明していきたい。
①の能力について
DXも当然何かの目的や課題を解決するために実施するものであるから、まず最初に課題を設定する必要がある。この課題がどれだけ本質的であるかによって、その後の解決策、そして全体としての施策の筋のよさが決まってくる。
特にDXはデジタル技術にレバレッジをかけて解決策を創るため、この課題がどれだけ本質的であるかによってその後の成果が大きく左右される。そのため、DXでの課題設定はより重要性が高まっている。
②の能力について
解決策を考えるプロセスで、②と③の能力をあえて別々に定義している点が最も重要な視点である。
②の「常識にとらわれずに新しい解決策を考えることができる能力」は、デジタル技術の有無にかかわらず、常識にとらわれない解決方法を創ることができる能力である。そもそも、解決策はあくまで課題を解決するための方法であるため、必ずデジタル技術を活用しなくてはならないものではないからだ。まずは、デジタル技術の有無を問わずに、課題に対して新しい解決方法を創れるかが基本であり重要である。
DXだからといってデジタル技術の活用を前提にしてしまうと、考え方が技術ドリブンになってしまって、本質的な課題の設定が不十分になったり、使いたい自社の技術があるからという理由で解決策に無理やりこの技術を絡ませて不適切な解決策を創り出してしまったりすることになりかねない。
あくまでデジタル技術は、常識にとらわれない新しい解決方法を創るうえでの「1つの要素」にすぎないという認識をもっておく必要がある。
③の能力について
DX人材の要素として特徴的なものがこの③「デジタル技術を活用した新しい解決策を考えることができる能力」だ。この能力と後述する④の能力を同じように理解してしまっていることが多いので注意が必要だ。
この能力は、後述する④の能力と異なり、必ずしもデジタル技術自体を使えなくてもいいのだ。
例えば、優秀なコンサルタントは、実際にプログラミングはできないが、各デジテル技術については理解が深く「この技術を使えばこんなことはできそうだ」という感じでデジタル技術でできることの要素を抽象化して把握している。そして、実際に顧客の課題を解決する際に、「この技術を使えばこんな新しい解決策があるかもしれない」と仮説を立てて検証していく。
もう少し卑近な例だと、例えば膨大な業務を抱えたチームに若い社員が入ってきて「この業務は、ツールを入れて少し開発をすればかなり効率化できそうですね」と仮説を立て、実際に社内のエンジニアに依頼したら、あっという間に業務が大幅に効率化された、というようなケースだ。実際にこれに近いことを経験した方が増えてきているのではないだろうか。このケースの場合、若い社員は自分自身がプログラミングができる技術者というわけでは決してない。しかし、今のデジタル技術があれば業務を効率化できるはずだ、という仮説を立てて解決策を創ったのである。
デジタル技術でできることを把握
こうした例のように、この能力とは、デジタル技術でできることを把握して、解決策に応用することができる能力である。
この能力を伸ばすために必要なのが、たくさんのデジタル技術に触れて学んでその特徴や利点を把握することだ。そして、こうしたデジタル技術の本質的な要素を引き出しにしまって、さまざまな解決策を考える際にいろいろと組み合わせることができるようになることが重要だ。
繰り返しになるが、あくまで重要なのは能力①と②であり、この能力は②を効果的に創るためにデジタル技術を駆使する、という位置づけになることは肝に銘じてほしい。
④の能力について
④の「決められた解決策をデジタル技術を使って実行できる能力」は、ハードスキルとしてデジタル技術を具体的に使える能力だ。プログラミングなどを駆使して実際にサービスを作ったり、解決策を実行したりすることができることが条件になる。一般に理解されるエンジニアが備えている能力といえる。
実は、DX人材というとこの能力を持っている人だと勘違いされることが多い。ただ、この能力はあくまでエンジニアリングとしてのハードスキルにすぎない。本質的な変革を伴うDXにおいては、むしろここまで説明した①~③の能力の重要性が高まっているといえる。
ここまでDX人材の4つの要素を確認してきたが、ここから人材採用や育成のヒントが導ける。
まず、④はデジタル技術を使って解決策を実際に実行する部署の人が必ず必要な能力となる。裏返せば、ほかの人は必ずしも④の能力は不要だ。
すべての社員に求められる能力
その一方で、DXが新しいサービスを創るだけにとどまらず、社内の業務や組織にも変革をもたらすことを目的としていることを鑑みると、①から③の能力は、すべての社員に求められる能力だといえる。日々の業務レベルでも、本質的な課題を捉え、デジタル技術を使った新しい解決策を考えることが求められているからだ。
この点、「一部の選考でDX人材を採用する」とか「DX推進室の人がDX人材だ」と言われることがあるが、上記のとおり、すべての社員が①から③の能力を備えてDX人材とならなければならないので、この考え方は明確に誤りである。
次に、②と③の能力を区別して考えることが有用だ。重要なのは「本質的な課題を設定し、常識にとらわれない解決策を考える」①と②の能力だ。上述のように③の能力は、あくまで②の能力の一要素にすぎない。
したがって、DX人材を採用するのであれば、まずは①と②の土台がしっかりできるか否かを確認すべきだ。
この土台がない中でデジタル技術について詳しくても、それはDX人材ではなく、ただの「デジタルうんちく屋」にすぎない。育成をする場合にも、焦ってデジタル系のノウハウやトレンドをインプットするような研修を多くしても、基礎となる①と②の能力をしっかりと身につけていないと、変革に結びつけることはできない。
加えて、③の能力の有無を採用で判断したり、育成する場合に重要な点は、この能力が単に「デジタル技術を知っている」能力ではなく、「解決策に活用できる」能力であるという点に留意することが重要だ。デジタル技術の本質的な要素や特徴を理解し、ほかのものと組み合わせたりしながら解決策を考案する能力であるからだ。
したがって、採用でこの能力を判断するのであれば、単にデジタル技術の知識があるかを聞くのではなく、デジタル技術を応用したり、ほかの物事と組み合わせたりしてどんな解決策を考えられるかを聞くことが重要だ。
人材育成の観点でも、単にデジタル技術をインプットするだけでなく、その技術を応用する思考を養うためにアナロジー思考等の基礎的な思考訓練も同時に実施することが有効だ。
ここまでDX人材に求められる本質的な能力を論じてきたが、DX人材に必須の①から③の能力は誰でも鍛えることができる。ぜひ、人材育成の参考にしてほしい。
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