「Web3」をわからない人が勘違いする意外な本質

新しい組織の形DAOとは何か

Web3が世界中に注目され、2020年はDeFi(分散型金融)、2021年はNFT(非代替性トークン)、2022年はまちがいなくDAOの年になると確信しています。

DAOは「Decentralized Autonomous Organization(自立分散型組織)」の略で、最小構成は「ビジョン、それに賛同する人が集まるコミュニティー、独自トークン」です。

一番有名なDAOはビットコインやイーサリアムでしょう。イーサリアムを例に挙げると、2013年に当時19歳だったヴィタリックの「あらゆる目的のために使えるブロックチェーンのプラットフォームをつくりだす」というビジョンに共感した人たちが集結。

コードを書く人はコードを書く、マイニングする人はマイニング、資金を出す人は資金を出す、コミュニティーを盛り上げる人はコミュニティー、Dapps(分散型アプリケーション)を開発する人は開発など、各人がビジョンの実現のためにできる貢献をしていき、初期は6人で始まったプロジェクトが、参画した全員の頑張りによって、100人、1万人、100万人と支援者が増えていき、今では1.8億人までDAOメンバーが広がっていきました。

その過程でETH(イーサリアムの発行する独自トークン)の価格も上昇し、約40兆円(※2022年2月末時点)ものネットワーク価値まで成長し、関わったメンバー全員が報われました。

Web2.0(中央集権型)サービスとの大きな違いは、これまでは、ごく一部の創業メンバーや従業員、ベンチャーキャピタルに偏っていたオーナーシップが、初期から貢献したメンバーの多くに分散化されているところです。実際、ヴィタリックはETHの約0.3%しか保有していません。

Linuxの初期に関わってお金持ちになった人はいません。でもビットコインやイーサリアムの初期に関わった人は大金持ちになりました。これはスタートアップ企業の株式を持つことに近いのです。

このように、強いビジョンをベースに、賛同する人が集まり、独自のトークンを発行するDAO、これは今後の新しい組織の形になっていくと確信しています。

DAOの本質、インセンティブ革命

しかし、 一方でDAOの理解はまだ進んでいません。みんなで投票する「意思決定の民主化」という概念で捉えている人が実はけっこういるのですが、それは間違いです。DAOの本質は「インセンティブ革命」です。

つまり、プロジェクトに関わったすべての人が金銭的なメリットをもらえるようになっていく。そのインセンティブによって、それぞれの人が、自律的に組織やプロジェクトの成功のために動くというのが、 一番のコンセプトであり、肝になります。

たとえば、スタートアップの一番大きなインセンティブはストックオプションでした。ストックオプションができる前は、社員は雇用され給料をもらうのみでしたが、そこにストックオプションが出てきて、自社株の一部をもらうことでコミット感が出て、会社が成功したら自分も金銭的なリターンを得られるというインセンティブが働くようになりました。

だから、ストックオプションや株を持っているメンバーは、より自律的にコミットして、その組織の成功に委ねるというのが大きかったわけです。一方で、いままでのストックオプションの仕組みは、 創業メンバーをはじめ、一部のコアなメンバーに限られていたし、株式も一部のベンチャーキャピタルがほとんどを持っていた。つまり、従業員以外の関係者、さらにユーザーの貢献には見返りはなかったわけです。

YouTubeにしても、初期から応援した人に対し、1円の還元もない。iPhoneを初期から買って応援しているユー ザーにもありませんし、ゲームでも一緒です。

でも、彼らも成功にコミットし、 貢献してきたわけです。DAOはそういった人たちにも貢献に応じてインセンティブが渡る仕組みになっているのです。

「個人の時代」と密接な関係を持つDAO

これまでの産業革命の時代は会社が必要でした。マスプロダクションのために大きな土地や工場、機械に大量の人材が必要で、 設備投資の資金が必要だったからです。これからは会社ではなく、個が中心の「クリエーターエコノミー」が注目されるでしょう。マーケットも急速に成長してきています。

しかし、これまでのクリエーターエコノミープラットフォームは、YouTubeやTikTokのような広告モデルや投げ銭、サブスク、クラファンなどの商品系といろいろとありますが、すべてプラットフォーマーが利益を独占し応援したファンに金銭的メリットはありませんでした。これとは逆に、応援したファンにもメリットがある設計にすると、よりクリエーターエコノミーも加速する。これがDAOでやろうとしていることです。

イーサリアムは、先ほどご紹介したように初期から関わった人のすべてが報われました、一方でYouTubeやInstagramだと、応援したファンや初期にコミュニティーに貢献した人、UGCコンテンツをあげた人に1円も還元がなく、経営者や一部のメンバー、ベンチャーキャピタルだけが莫大な利益を享受しています。

これが、イーサリアム(Web3)とFacebook(Web2)の大きな違いです。だから、私は組織面でも将来的には、DAO的なところが主軸になると思っています。ファンからしても、働く側としても、どっちがいいですか? と考えると、明白だと思います。

そしてメタバースとの結合です。VRやARなどへの没入感ある体験を通して、複数のアイデンテイティーが交流できる世界。マーク・ザッカーバーグは「次に来るのは、体験の中に身を置く具現化されたインターネットです。メタバースの特徴は別の場所で人と一緒にいるような臨場感であり、これはソーシャルテクノロジーの究極の夢です」と発言しています。

なぜ、メタバースがWeb3と結合するのか、それはWeb3の魅力として相互運用(インターオペラビリティ)が可能なように設計されているからです。RobloxやFortniteなどの人気ゲームではスキン・コスチュームなどのアイテムが巨額を生み出しています。

ただ現状ではこれらのアイテムを、 ゲームを超えて交換することはできません。将来的には、NFTの活用でゲームアイテムやアバターを別のゲーム世界に持ち込めるようになる。そうなるとさらにアイテムの価値は高くなります。つまりメタバースとの結合によって、さらに大きな経済価値を生み出すことが可能になるのです。

「個人」クリエーターエコノミーの時代

しかし、Web3もメタバースもいまはまだ理想郷の域であるのも確かで、テスラCEOのイーロン・マスクなど否定的な意見を述べる起業家も多い現状がありますが、私はWeb3の世界がインターネットを大きく変えていく未来を確信しています。

産業革命の時代は、重厚長大型の大規模な資本が必要な産業が多かったため株式会社という仕組みが有効でした。 今後さらに影響力を持ってくる「個人」クリエーターエコノミーの時代には株式会社に変わり、DAOが中心になっていくと思います。

Web3の時代では、企業や投資家のみが利潤を独占するようなサービスか、ビジョンに共感して応援してくれたファンや顧客に成功した際の利益が分配されるサービスか、どちらを利用するのか私たちが自由に選べるようになっていきます。

そこで経営者や企業は、より明確なビジョン、世の中をこう変えたいという強い意志を内外に発信することが必要になっていくでしょう。トークンやDAOといった仕組みを組み合わせることで、共創をしていくというメッセージにもなる。

私たちがこれから考えるべきは、Web3とメタバースによって生まれるデジタルファーストの社会で、いかに人々を巻き込み、共に成長をしていけるかでしょう。