実は「冷戦後で最悪」アメリカとロシア因縁の関係

世界が注目する北極海ルートとは何か

2021年1〜2月、ロシア船籍のタンカーが、ロシア・サベッタ←→中国・江蘇省の北極海ルート往復航行に成功。これまで夏期に限って使用されていた北極海ルートが通年で利用可能なことが証明されたのです。

北極海ルートは、日本を含む東アジアとヨーロッパを結ぶ最短の航路であり、航行距離は従来の南回りルート約2万1000㎞の約60%にあたる約1万3000㎞。しかも、情勢が不安定な中東地域を通ることなく、チョークポイントも少ないため世界的に注目されています。

かつて一年の大部分が氷に閉ざされていた北極海は、近年の気候変動、温暖化の影響でその姿を急速に変えており、今後20年間で北極の氷は消滅するという推測もあります。この温暖化が、北極海ルートの通年利用を可能にしたのです。

一方、氷がなくなってしまえば、北極海はユーラシアと北米大陸に囲まれた内海になります。アメリカとロシアが、北極海を挟んで対峙することになるのです。ロシアは近年、北極圏での軍備増強や大規模な軍事演習に乗り出し、この地域の豊富な天然資源に目を付けた中国も北極圏への進出を表明しています。北極圏に従来はなかった緊張が生まれているのです。

スエズ運河やマラッカ海峡などを通過する従来の南回りルートに比べ、北極海ルートのチョークポイントはベーリング海峡のみ。航路も短いため、10日間は短縮できます。

北極海ルートはアジアと欧州を最短で結ぶルートであるため、従来の物流を大きく変えるものとして期待されています。日本においては北海道が北極海ルートの「アジアの玄関口」になるため、その地理的な優位性を地域経済に生かそうとする取り組みが始まっています。

2010年、中国の名目GDP(国内総生産)が日本を抜き、アメリカに次ぐ世界第2位となりました。

この時、アメリカのGDP約14.9兆ドルに対して、中国は半分以下の約5.9兆ドルでしたが、2020年にはアメリカの約21兆ドルに対して、中国は約15兆ドルと差を縮めており、2030年までにアメリカを抜くという予測もあります。

こうした中、対中貿易赤字の解消を掲げるアメリカのトランプ大統領は2018年、知的財産権の侵害などを理由に、中国に対する制裁関税を発動。中国が報復関税を実施したことで、米中貿易摩擦が過熱しました。2021年に就任したバイデン米大統領も強硬姿勢を崩さず、貿易摩擦は近年「米中新冷戦」とも呼ばれています。

ところで、地政学には、ナンバー1の国は、その地位を維持するためにナンバー3以下と連携し、ナンバー2を潰そうとする「バランス・オブ・パワー」(勢力均衡)という考え方が存在しています。冷戦時代、ソ連と敵対していたアメリカは、日本と手を組んでソ連に対抗しました。

一方、近年のアメリカは、世界2位の大国となった中国を、日本を含む西側諸国と連携して牽制しているのです。

米中対立のそもそもの原因は、アメリカの対中貿易における大幅な貿易赤字にありました。そのため、トランプ政権時代のアメリカは中国からの輸入品に関税をかけて対抗。貿易摩擦にまで発展したのです。

その後、米中対立は単なる貿易摩擦を超えて、ファーウェイ問題などのI T競争や南シナ海のシーレーンを巡る軍事対立に見られるように、国家の威信をかけた覇権争いの様相を呈しています。

「人殺し」と呼ばれたプーチン大統領

2014年にアメリカは、ウクライナに軍事介入したロシアへの経済制裁をEU(欧州連合)と日本に呼びかけ、ともに発動。G8(主要8ヵ国)の枠組みからロシアを外しました。制裁は当初、個人や企業に対する資産凍結や入国制限に限られていましたが、ウクライナ東部紛争への干渉などを理由に強化され、ロシアの基幹産業である石油産業にも及んでいます。

しかし、ウクライナへのクリミア返還を求めるアメリカに対してロシアは一歩も引かず、両国関係は悪化の一途を辿ります。さらにアメリカは、ロシアによるアメリカ大統領選挙への介入(情報工作)疑惑、ロシア系ハッカー集団によるアメリカのインフラ施設・企業に対するサイバー攻撃、毒殺未遂に遭ったロシアの反政権活動家アレクセイ・ナワリヌイ氏の拘束などについてロシアに強く抗議。

2021年3月にはバイデン大統領がテレビ番組で「プーチンを人殺しだと思うか」と問われ、「そう思う」と答えるなど、米ロ関係は〝冷戦後最悪〞となりました。

同年6月の米ロ首脳会談でも、クリミアや人権問題などでの進展は見られず、核軍縮・軍備管理を巡る「戦略的安定対話」の開始に合意したことが数少ない成果だったと報じられています。

2011年、オバマ政権の副大統領としてモスクワを訪問したバイデンは、プーチンの目を直視して「私はあなたに魂があるとは思えない」と言い放ったといいます。

敵の敵は味方? “便宜的結婚”ロシア・中国関係

2014年のクリミア併合によって国際的に孤立したロシアは、南沙諸島での人工島建造などで周辺国からの非難を浴びている中国に接近し、アメリカの一極支配に対抗するための戦略的な友好関係を築きました。

その内容は、中ロ間初の国際パイプライン「シベリアの力」の建設、北極圏での天然ガス開発プロジェクトの推進、ロシアから中国への武器輸出及び軍事技術協力、中国内陸での合同軍事演習、南シナ海などでの海軍共同演習など多岐にわたり、ロシアのプーチン大統領は中ロ関係を「全方面における戦略的パートナーシップ」と説明。

2019年に中国の習近平国家主席はロシアで「プーチン大統領は私の親友であり同僚でもある」と話し、両国の蜜月ぶりをアピールしました。

ただ、両国が対立関係にあった1970年代に旧ソ連の情報機関KGB(国家保安委員会)で中国脅威論をベースにした教育を受けたプーチンに、中国と深く結びつく意思はないとの見方があります。

中ロの蜜月状態は、ともに望んだものではなく、欧米諸国から疎外された両国が利益を得るためだけに接近した〝便宜的結婚〞と表現されるのはこのためです。今後の動向が注目されます。

ロシアと中国の共通点は、どちらもアメリカと対立関係にあること。したがって、「敵の敵は味方」理論からいえば、一時的にとはいえロシアと中国が結びつくのは必然といえるでしょう。