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突然キャリアを絶たれる人が陥いる「6つのワナ」

過去、現在、未来の考え方

私たちが人間として花開くための土台を成す要素のひとつが、人生に意味を与えられるストーリーを紡ぐ能力だ。

テクノロジーの進化と長寿化の進展に伴い、人生で経験する移行の回数が増えれば、人生のストーリーが進行する順序とストーリーの流れも変わる。

このように変化の激しい時代に生きる人間は、いくつかの重要な問いに向き合わなくてはならない。

「私はどのような職に就くのか」

「どのようなスキルが必要になるのか」

「どのようなキャリアを築くのか」

「老いるとはどういうことなのか」

といった問いだ。

自分の人生の進路を考える際、こう想定してみよう。まず、あなたの過去、現在、未来がある。過去に起きたことはすでにわかっているので、過去から現在へいたる道は1本しか描かれてない。

一方、未来に向けては、1本の確定した道は存在しない。現時点ではいくつもの選択肢があり、そのひとつひとつが道になりうる。それぞれの道の先には、それぞれ異なるあなたの「ありうる自己像」が待っているだろう。

もちろん、さまざまな未来の自己像を思い描いたからといって、そのすべてが実現可能なわけではない。いくつかの自己像は、そこへ到達する道筋がはっきり見えていない。あなたにどのような未来の選択肢があるかは、いま生きている人生のストーリーの「足場」によって決まるからだ。

その足場を構成する要素としては、現在もっている能力、健康状態、教育レベル、経済状態、プライベートな人間関係、人的ネットワークの広がりと深さなどが挙げられる。あなたがいま立っている足場は、それまでの選択と経験の産物だ。

つまり、あなたが今後どのような道を歩むかによって、未来の足場が形づくられる。そして、どのような足場の上に立つかによって、あなたが将来どのような選択肢をもてるかが決まるのだ。

人生のストーリーを検討するポイント

本書では、トラック運転手のトムの未来について、どのような道筋と選択肢がありうるのかを検討した。あなたも自分自身について同じ作業をしてみよう。以下では、そのためのヒントを述べよう。

自分の未来の道筋がどのようなものになりそうか思い描き、いくつもの仮説と問いに照らしてその妥当性を検証するのだ。

長寿化の進展とテクノロジーの進化、そして社会の変化に伴い、私たちひとりひとりが新しい人生のストーリーを紡ぐ必要が出てくる。古い前提に基づくストーリーは、書き換えなくてはならない。

新しいストーリーは、古いストーリーよりも期間が長く、より多くのパートで構成されるようになり、それぞれのパートを経験する順序の選択肢も大幅に拡大する。これまでとは比較にならないくらい長い職業人生を送るようになるが、キャリアに突然終止符が打たれるリスクも増大する。

*問い1 私のキャリアは突然終止符を打たれるのか?

技術的イノベーションについて論じた際に、トムの未来はオートメーション(自動化)の影響を受ける可能性が高く、キャリアに突然終止符が打たれてもおかしくないことを指摘した。

あなたが思い描く未来のキャリアに突然終止符が打たれる可能性は、どの程度あるだろうか。そうした事態に見舞われたとき、軌道修正して別の道へ進めるように、十分に幅広い人生の足場を築くことができそうか。

*問い2 私の思考は狭まりすぎていないか?

 

あなたがこれまで検討してこなかった選択肢はないか。もっと多様な選択肢があるのではないか。もっと実験的な試みをしたり、もっと思い切った行動を取ったりできないか。人的ネットワークが狭い範囲にとどまりすぎてはいないか。実験の精神が旺盛な人ほど、発見のプロセスを通じて未来に向き合うことができるのだ。

*問い3 私は年齢に関して誤った思い込みをいだいていないか?

あなたが検討している人生の道筋と人生のステージについて、改めて考えてみてほしい。あなたは、自分の将来を考えるうえで、年齢と老化のプロセスに関して誤った思い込みをいだいていないか。暦年齢に基づく年齢観にとらわれすぎてはいないか。早い段階で選択肢を限定しすぎて、言ってみれば「早く老いすぎて」しまうリスクを冒していないか。

*問い4 私は制度の変化を考慮に入れているか?

あなたが紡ぐ未来のストーリーは、どうしても過去と現在の経験に基づいたものになる。しかし、さまざまな制度が大きく変わり、あなたの未来のストーリーの骨組みもその影響を受ける可能性がある。企業の慣行や教育のあり方、政府の政策などは、今後変わるだろう。

あなたが思い描いている未来の選択肢は、第3部で検討する制度の変化を考慮に入れているだろうか。

時間配分を検討するポイント

時間は、私たちにとってとりわけ重要な資源のひとつだ。この資源を賢く使うことは、きわめて重要な意味をもつ。

*問い5 私は時間を再配分できるか?

あなたが思い描く未来の道筋と人生のステージを考えたとき、それぞれのステージでおこなう活動をほかのステージに再配分して、時間的なゆとりを捻出できないか。

たとえば、ある活動をすべてひとつのステージに集中させるのではなく、活動を細分化して、人生全体に等しく配分し直してもいいだろう。

*問い6 私は何を重んじて時間配分を決めたいのか?

未来の選択肢を検討する際は、それぞれの選択肢で何が時間配分の最大の決定要因になっているかを基準に考えるといい。

あなたは、お金を稼ぐことを優先させて時間配分を決めたいのか。それとも、スキルの幅を広げることや、家族や友人と過ごす時間を増やすことを優先させたいのか。それぞれの選択肢を選んだ場合、未来の自分を危険に陥らせることがないかをよく考えよう。

最後に、人生のストーリーは「再帰的」な性格をもっていることを忘れてはならない。つまり、いまあなたがどのような行動を取るかによって、あなたが将来どのような足場の上に立ち、どのような選択肢を得られるかが決まるのだ。

 

このような考え方は、ものごとの帰結を変えることはできないという決定論的発想とは対極を成すものだ。人生のどの段階にある人でも、みずからの行動を通じて自分の未来に好ましい影響を及ぼすことはできる。