四季報のプロが伝授「株価が10倍になる株」発掘法

小さな会社ほど、成長の余地が大きい

「中小型成長株」は、文字どおり中小規模の企業の株のことです。

このタイプは、事業、市場、業績などが大幅に伸びる可能性を秘めているところが魅力。企業が成長したときに株価が値上がりするため、大きなリターン(キャピタルゲイン)が期待できます。

中小企業には大企業のような安定性はありません。しかし投資家目線では、「まだ小さい」という点が重要です。なぜなら、小さいほど成長の余地が大きく、会社も株価も大きく伸びる可能性があるから。株価が10倍になる「テンバガー(10 bagger)」株がたくさん生まれるのもこのタイプです。

中小型成長株について語るうえでは、アメリカを代表する投資家の1人、「元祖テンバガー・ハンター」と称されるピーター・リンチさんの話をしなければなりません。

「テンバガー」という言葉は1990年初版の『ピーター・リンチの株で勝つ』(ダイヤモンド社)という本の中で紹介されて、日本でも知られるようになりました。ちなみに、バガー(bagger、バーガーではありません)は、バッグ(bag)の派生語で、アメリカでは野球の各塁のベースをバッグとも呼び、満塁ホームランを4バガーと呼ぶことから、株価10倍になる株をテンバガーと呼ぶようになりました。

リンチさんが株を始めたのは中学校の頃で、大学の学費は株で稼ぎました。その後も株の世界で実績を上げていくのですが、特筆したいのは、フィデリティ・インベストメンツという運用会社での活躍です。

同社のファンドマネジャーとなったリンチさんは、マゼラン・ファンドというファンドの運用を任されました。ファンドは、複数の株に投資してリターンを狙います。どの企業に、どれくらい投資するかを決めるのがファンドマネジャーであるリンチさんの役割でした。

マゼラン・ファンドを運用したのは1977年から1990年の13年間で、この間にアメリカのニューヨーク・ダウ平均株価は約3倍になりましたが、リンチさんのファンドの価格はそれをはるかに超える28倍になったのです。そのため、当時は「世界ナンバーワンのファンドマネジャー」と呼ばれました。

この驚異的な結果をもたらしたのが、テンバガー株の発掘でした。リンチさんは、大きく値上がりする可能性を秘めた有望企業の株を数多くファンドに組み入れていたのです。

テンバガー候補を見つける3つの条件

リンチさんは当時、1400もの銘柄に投資していたといわれます。

「そんなに!?」「多すぎる!」と感じる人もいるでしょうが、ポイントは投資先を分散することです。仮に10社に均等に投資した場合、そのうちの9社の株が値下がりしたとしても、残り1社の株が10倍になれば損はしません。

また、保有株がたくさんあれば、そのうちの1〜2社が倒産したとしても、投資額全体に対する影響は小さくなります。10社のうち1社が倒産し、株価が0円になったとしても、全体に与える影響はマイナス10%。残り9社のどれかがテンバガー株になれば、損失を埋められるどころか、収支は大きくプラスになります。中小型成長株の投資ではここがポイントです。

テンバガーの可能性がある株を探してとりあえず買ってみる。1つの銘柄に資金を集中させるのではなく、複数の銘柄に幅広く目を向けながら、ちょっとずつ買ってみる。こうして、テンバガー株の候補数を増やしていくと、資産全体のリスクを抑えたポートフォリオ(複数銘柄のパッケージ)ができます。

現実的には、リンチさんのように1400もの銘柄を買うのは難しいでしょうが、20社くらいには分散できるかもしれません。だからこそ、テンバガー(10倍)とまではいわないまでも、ツーバガー(2倍)、スリーバガー(3倍)くらいを狙える中小型成長株を1つでも多く探し出さなくてはいけません。

では、リンチさんはどうやってテンバガー株を見つけたのか。

リンチさんは、「中小型株と業績回復株を買いなさい」と提言しています。この2タイプの株に目を向けることが、大きなリターンをつかむ第一歩ということです。

私は、成長力があり、テンバガーも夢ではない中小型成長株を見つける条件として、以下の3点に注目します。

① 中小型株
② 成長性
③ オーナー企業

時価総額300億円以下を探す

中小型株は、売り上げ、利益、従業員数、拠点数などではなく、「時価総額」で判断します。時価総額は企業価値ともいわれ、発行済み株式の数と株価を掛けて算出します。

たとえば、発行済み株式数が3000万株であれば、株価1000円で時価総額300億円。1000円の株価が2000円になればツーバガー、3000円になればスリーバガー、1万円になればテンバガーです。

時価総額が小さいほど、何倍にもなる可能性があります。ただ、その点にこだわりすぎると企業の選択肢が少なくなります。小さいほど大化けの可能性はありますが、時価総額300億円を基準に探すのが安全でしょう。

前期からの増収率20%以上を探す

中小型株を見つける条件の2つ目は企業の成長率。成長率の高さは、「増収率」で判断します。増収率は、売り上げが前期と比べてどれくらい増加しているかを表します。

四季報には、各年度の売上額は載っていますが、前期と比較した増収率(減収率)は記載されていません。そこで、増収率(減収率)を計算機で計算します。記載されている【業績】の数字を使います。

増収率について、東証の上場企業全体を見ると、2021年度の平均は15.4%(四季報の3ページで確認できます)。これを踏まえると、前期からの増収率が20%もあれば、その会社は十分に成長力があるといえます。増収率20%が4年続けば、4年後その会社の売り上げは約2倍になります。

私は、それくらい大きな成長力をもつ企業を探すために、前期・当期の増収率が20%以上、当期・来期の増収率(予想)15%を基準に探します。

オーナーが大株主3位以内にいるか?

 

オーナー企業であることも中小型成長株の重要な条件です。

オーナー企業は、創業者や社長が会社を所有し、経営権をもっているのが強みです。経営の意思決定を自分でできるため、時代の変化に迅速に対応できます。

成長力を高め、速いスピードで規模や事業を拡大していくためには、これが重要なポイントとなります。実際、過去のテンバガー銘柄を分析してみても、8割ほどがオーナー企業か、それに近い企業でした。

その背景を踏まえて、創業者、創業者の家族、家族の資産管理会社などが、大株主の3位までに入っている企業をオーナー企業、またはそれに近い企業とします。

以上の3つが中小型成長株の条件です。これらの条件に合う企業を探していくと、四季報で銘柄が浮かび上がってくるでしょう。