焼肉屋で選ばれる代替肉「ネクストミーツ」の正体

最近になってとくに注目が高まっている「代替肉」。大豆などを原料に、肉や魚の味、食感を模した食材は、これまではベジタリアン向けなど、市場も用途も限られていた。しかし今では、例えばファストフードでは多くのチェーンが代替肉メニューをそろえているし、スーパーでは代替肉がふつうに並ぶようになった。なんと肉食の牙城である焼き肉チェーンでも、代替肉メニューを用意。今や、肉と並ぶ選択肢の1つになりつつあるのだ。

背景には、日本の食のトレンドを左右するアメリカでの、代替肉需要の高まりがある。アメリカマクドナルドでもビヨンド・ミートとの提携により、2021年11月から試験販売を開始している。

「利益よりはサステイナビリティーファースト」

そして日本における陰の仕掛け人が、代替肉専門の企業「ネクストミーツ」だ。

展開する商品は「NEXTカルビ」「NEXT牛丼」など14種類。全国73店舗を展開するチェーン「焼肉ライク」、渋谷の焼肉テーマパーク「焼肉横丁」といった飲食店や、大手スーパーも含む小売店など、取り扱い店舗は徐々に増えている。また自社オンラインストアでも購入可能だ。

海外展開もすでに進めており、シンガポール、香港、台湾、ベトナムで販売するほか、アメリカでも2021年12月にネット通販を開始し、好評だとのことだ。ほか、フランスを起点としたヨーロッパ各国、中国、インドでも販売への動きを進めている。

設立は2020年6月と最近だが、スピーディーな展開と百貨店等とコラボレーションしたイベントの開催で、代替肉の一般消費者への認知を一気に高めてきている。

同社の大きな特徴がメッセージ性の強さだ。利潤追求は本来、企業の使命だが、同社は「地球を終わらせない。」をキャッチコピーに、「利益よりはサステイナビリティーファースト」「競争よりは共創」をポリシーとしてうたう。シェア文化になじみ、SDGsへの意識が高い、若い世代を中心に受け入れられている。

起業の理由について、代表取締役の佐々木英之氏は次のように説明する。

「テスラのように、持続可能な社会に向けて貢献できるビジネスをしたい、という思いがまずあり、代替肉に関心をもつようになりました」

畜産業は世界の温室効果ガス排出量の約15%を占める。これは意外なことに、輸送業とほぼ同じレベルなのだという。また飼育土地確保のための森林伐採、飼料栽培のための水の大量消費等、実は環境への負荷が高い産業だったのだ。

300回近くの試食を繰り返した

佐々木氏は新規事業立ち上げの支援などコンサルティング業、共同創業者であり会長の白井良氏は証券会社勤務のほかベンチャー企業立ち上げなどの経歴の持ち主で、どちらも代替肉に関しては門外漢だった。商品の開発にはおよそ3年間かかったという。「おいしくなければ肉の代わりとして選んでもらえない」と考えたためだ。見た目と食感、味などを徹底的に追求し、300回近くの試食を繰り返したという。

「アメリカではビヨンド・ミートのような、代替肉を専門とする会社のイメージが強いのですが、日本ではいくつかの事業の1つとして、代替肉を扱っているところが多いですよね。食品の市場も、スタートアップにとって難しい印象があります。逆を言えば、ゼロからのスタートなので、常識にとらわれずに挑戦できるのが強みだと思っています」(佐々木氏)

驚くのが発売後の展開だ。2021年1月にアメリカの証券市場OTCブリティンボードにSPAC(特別買収目的会社)の仕組みを使って上場、日本円にして約468億円の総額を達成し、「ユニコーン企業」の1つに数えられるまでになる。

「まずアメリカでの上場を狙った理由は、世界を見据えたビジネスを展開するため。スタートアップやベンチャーが集積しており、代替肉の市場も大きいアメリカで、アメリカの資本主義を活用して始めたということです」(佐々木氏)

日本では前述のとおり、取り扱い店舗を広げ、リピーターも増えてきている。このたび、取り扱い店舗の1つである焼肉ライクにも話を聞いた。

焼肉ライクはひとり席スタイル、換気環境、タッチパネル、セルフレジ&セルフキャリーなどで人同士の接触を極力低減するスタイルの焼肉専門店。時短営業なので影響は受けているが、通常営業時は好調だったそうだ。2020年から2022年2月末までに50店舗の出店を遂げている。

食の多様性が広がる中で、10年後、20年後を見据え2020年10月に、ネクストミーツの代替肉を試験的に導入。予想以上の反響を得て、同年12月に全店舗展開へ移行し、2022年1月にはバージョンアップした「NEXT大判カルビ2.0」に切り換えて販売しているそうだ。NEXT大判カルビ2.0は50gで320円と、定番の「匠カルビ」の50g290円よりは若干割高な程度。同社の代表取締役社長の有村壮央(もりひさ)氏は代替肉の導入について次のように説明する。

「いつかやるのであれば、どこよりもいち早く実施したいとの思いがありました。実際、『日本初の代替肉を扱う焼肉屋』として注目していただけたと思います。ヴィーガンの方やお肉が苦手な方が来店してくれるようになり、一部なので売り上げとしては大きくありませんが、販売時からずっと落ちることなく支持されているメニューです」(有村氏)

「お肉独特の脂がないので気持ち悪くならない」

反響の声としては

「焼肉屋さんで植物性のお肉が食べられる日がくるとは夢のよう」「弾力もお肉と変わらず、お肉独特の脂がないので気持ち悪くならない」「お肉としては物足りないけれど、大豆にしてはお肉感があるし食べられる」「再現度が高く感じる。肉と脂が口の中で裂ける、肉の筋のような食感が再現されていた」などがあるそうだ。

 

冒頭でも説明したように、「地球のため」というメッセージを強く打ち出してはいるが、市場を広げるには一般消費者に選んでもらう必要がある。決め手となるのは味と価格だ。味については焼肉ライクの例でもわかるように、すでにある程度達成されている。

次は価格の低下に取り組んでいきたいという。現在スーパーではNEXTカルビ(80g)を1パックおよそ420円で発売。これはちょうど、高級牛肉と同程度の設定だそうだ。加工に費用がかかるので、生産効率を見直し、もう少し一般的な肉の値段を目指すという。

さらに当初から戦略的に行ってきたのが、代替肉の認知拡大だ。話題性の高いイベントなどを積極的に展開し、SNSやメディアを活用して代替肉の存在を広めている。とくに、実際に体験してもらうことが大事だそうだ。

展開の1つとして面白いのが百貨店でのイベントだ。例えば2月16日〜3月1日には横浜高島屋にて代替肉フェア「にくらしいほど肉らしい 大豆ミートはこんなにおいしいフェア」を開催。地下食料品フロアの30ブランドが同社の代替肉を使い、約40種類のメニューを企画・発売した。百貨店での同様のイベントはこれまでにも開催されてきたが、このたびは最大規模となり、話題を集めた。3月中に伊勢丹や阪急うめだでの開催も予定されている。

かなり以前から経営が厳しくなってきていた百貨店だが、さらにコロナによるインバウンド需要激減、休業等の影響が響いている。新しい価値観を取り入れ道を模索しようとする百貨店業界の状況に、まさに新たな市場を切り開こうとするネクストミーツがうまくはまったと言えるだろう。

代替肉が注目される理由

そして代替肉市場の広がりには、コロナの影響も垣間見える。

具体的には、外食が少なくなり、家庭での食事が増えたことが代替肉への関心を高めた。

「健康のために、より食事に気を遣うようになったことや、ミートショックによる食肉の価格高騰も、代替肉が注目される理由としてある」と佐々木氏は言う。

またコロナではリモートワークやデジタルなどの生活スタイルや、SDGsなど新しい価値観へのシフトが急激に進んだ。地球環境への配慮から、あるいは食の体験を豊かにするために、代替肉を選ぶという新しい考え方も受け入れられやすくなっているのではないだろうか。ちなみに、環境のために代替肉を利用している層としてミレニアル世代が挙げられるのだが、彼らは幼い頃からIT環境が周囲にあり、デジタルとの相性もよい。

今後のさらなる展開としては、大豆以外の原料の研究を進めていきたいという。確かに、日本では豆腐や油揚げといった大豆製品がすでにある。このことから、大豆を原料とした代替肉にわざわざ高いお金を払う必要性が、海外に比べて低い。

大豆以外の原料としてはほかの豆類やキノコ、藻類が挙げられる。またアメリカでは培養肉の研究も進んでいる。培養肉はネクストミーツとして商品化するかは別として、環境はもちろん食料危機の観点からも必要性を強く感じているという。

これまで見てきたように、健康を考えて、地球環境のために、おいしいからなどなど、代替肉を選ぶ理由は幅広い。食の選択肢の1つとして、拡大する可能性は大いにありそうだ。