東大も早慶も「出身大学名」がついに無意味になる

大学横断、大学淘汰の時代へ

『GAFA next stage』では、大学がディスラプター(改革を目指す破壊的企業)の餌食になると書かれていますが、そのとおりだと思います。強い大学はより強くなり、弱い大学は死ぬでしょう。私は、日本においては、大学そのものがなくなるのではないかという感覚すらあります。

すでに、ハーバード、スタンフォード、MITなど、強い大学ほど、授業をオンラインのコンテンツとして提供しています。学ぼうという意思があれば、大学の壁を越えて学べるようになりつつあるのです。

1つの大学で教育を受けるのでなく、たとえば、コンピュータサイエンスはMITで、物理学はスタンフォードで、東洋史は中国の大学でという形が可能になります。

数年後には、大学の卒業証書よりも、このような学習履歴のほうに値打ちがあるという時代になるでしょう。ブロックチェーン技術を使えば、大学をまたいだ学習履歴も証明できますからね。

GAFAのような企業が、世界中の有名教授のコミュニティをつくって、単位を認証する仕組みを構築し、その市場に乗り込めば、大学という世界は一気にひっくり返ってしまうでしょう。そして、そうなったほうがよいと私は考えています。自分にチャンスがあればそれをやりたいとも思うほどです。

今後は、教授個人の人気にも格差が生まれるでしょう。教える力がない人も教壇に立てていたのが、これまでの大学の世界でした。しかし、コロナによって、一方的に教えるだけの授業なら、1つか2つ、いいオンラインコンテンツがあればそれですむと、皆が気づきました。

大学には「そこでなければ学べないこと」が必要

そうすると、大学の価値は「一方的に教える授業」以外の部分で評価されるようになります。私がiU(情報経営イノベーション専門職大学)をつくったのも、そこに動機があります。

iUには、「全員が起業する」という目的があります。iUは新しいサービスやビジネスを生みだすために、濃いコミュニケーションをとって、物をつくったり、試したり、企業の方と車座になって話したりということができる場所を提供するプラットフォームです。

今後は、リアルでもオンラインでも、そのコミュニティに参加していることの価値をどうつくるかが勝負になると考えています。そこで、ほかの大学にはできない、ここでなければできないことを設計し、プラットフォームとしての大学をつくれないかと思ったのです。

大学をまたいで、こういった考え方に関心を持つ教授の連携をつくり、支援していこうとする動きもすでに始まっています。

『GAFA next stage』には、今後10~15年で50%の大学が廃校になるという予測が書かれていますが、私は、それ以上のスピードで波をかぶることになると考えています。そして、そのぐらいの危機感を持ったほうが、教育はよりよくなるはずです。

教える側も、教え方やコミュニティのつくり方を工夫することで、学生たちに議論の場を持たせるなど、豊かな学びを与えられます。教師が、教科書を持って前に立つという時代から、生徒1人ずつにパソコンを持たせ、教師がファシリテーターになる時代へと変化していくでしょう。

また、学生も教員も、全員が何らかの情報発信をしていく必要があると考えており、現在、あらゆるメディアと組んで、大学を丸ごとメディアにするというプロジェクトも考案中です。

フェイスブックもグーグルも、大学が生んだものです。フェイスブックは、ハーバードの学生向けにつくったサービスです。グーグルはさらに顕著で、スタンフォード大学そのものがつくったものだと言えます。

かつて、来日中のスタンフォードの学長が、しきりに自分の携帯を気にしていたことがありました。なにかあるのかと聞くと、「今日、グーグルが上場するんだ。自分は、取締役なんだ」と言うのです。学長も株を持っており、株価を気にしていたのですね。

大学が、博士課程の学生をプロデュースして、そこに資本家を呼ぶ。会計の会社をあてがい、テクノロジーを与え、育てる。そして、上場にまで導いたわけです。大学が起業支援するというのは、そこまでやるのかと思いました。

日本でも、優れた人を呼び込んで育てるという文化はありますが、そこにお金や技術、人脈をつけて「突破させる」まで支援するということはありません。

企業だけに頼るのも限界がありますから、やはり、大学という場が、そういった機能を担えるように変わらなければならないでしょう。言葉で言えば「産学連携」という、ありふれた表現になりますが、iUでは「そこまでやる」ことを意識していこうと考えています。

iUは、「就職率ランキングには絶対に載らないぞ」という意気込みでやっています。全員が起業すれば、「就職率ゼロ」ですからね(笑)。

そんな大学ですから、意気込みのある面白い学生が集まっています。1~2年生で勉強して、3年生で半年間のインターンに行き、ボコボコにされて帰ってきて、4年生で起業するというカリキュラムを組んだのですが、「4年生まで待てないよ」と言って、1年生からどんどん起業するのです。

高校時代から「これをやりたい」と決めている学生もいますが、「何かやりたいから」ということで入学してくる学生も多いですね。なかには、入学した大学を辞めてiUに入学し直した学生、親子で入学して一緒に学んでいる学生もいます。

「危機は好機」若い読者の奮起を促す1冊

学生たちは、ほぼ全員が、「コロナはチャンスだ」と言っていますよ。世の中が大きく変わるときであり、自分が活躍できる空気になってきたと捉えているようです。私自身も、学生たちが活躍するための場をつくることが、自分の役割であり、チャンスだと思っています。

これまでの大学は、「偏差値」という大きな1つのヒエラルキーの山のなかの世界でした。しかし、産業界は変化しています。「いい会社」と一口に言っても、以前とはガラリと面子が変わっていますよね。ですから、大学にも、もっといろいろな山があっていいと思うのです。

GAFAは、今の若者世代にとってはウルトラチャンピオンです。「あそこに就職できたらいいけど、ぜんぜん無理」という存在ですね。しかし、『GAFA next stage』には、そのGAFAに続くチャレンジャーが出てきていて、すでにすごく大きくなっているということが描かれています。

デジタル化がはじまったのは25年前ですから、本書に書かれている企業は、その当時、ほとんど存在していません。今後、AIが発達して、人間の能力を超えるシンギュラリティが訪れた場合、今の仕事の半分ぐらいはなくなると言われています。それが訪れるのは、25年後ぐらいです。そのときには、いまとはまったく違う企業が現れているでしょう。

今の学生たちは、その未来を見ているのだと思います。つまり、「これから次世代がどんどん出てくるはずだ」という感覚があり、そこにどう向き合うのか、そして、自分がそれをつくっていこうという感覚です。