広告の「下克上」、国内7兆円市場で起きた大変化

広告市場の“下克上”がついに現実のものとなった。

電通が2月24日に発表した広告統計「日本の広告費」によれば、2021年1年間のインターネット広告費がマスコミ4媒体(テレビ、新聞、雑誌、ラジオ)の広告費を初めて上回った。ネット広告は2兆7052億円と前年比で21%増、4マス広告は同9%増の2兆4538億円だった。

ネット広告費は2005年に比べて約7倍

4媒体の変化をみると、統計で遡れる2005年から最も減少幅が大きいのが雑誌で約75%減、次いで当時は広告費が1兆円を超えていた新聞が63%減となっている。4媒体で最大のテレビ(地上波テレビと衛星メディア関連広告費の合計)においては約12%減にとどまる。

一方、4000億円に満たなかったネット広告費は約7倍に拡大しており、3兆円に迫る勢いだ。

 

ネット広告の拡大を牽引してきたのが、グーグルやヤフーの検索連動広告や、フェイスブックやインスタグラムなどのSNS広告、ユーチューブやティックトックなどの動画広告など、多くのユーザーを抱えるプラットフォーム内の広告枠に表示させるタイプのものだ。

最近では、2019年から電通が統計上のインターネット広告費に組み入れた「物販系ECプラットフォーム広告費」も大きな増加要因だ。2021年には1631億円となり、前年比で24.2%増えた。これは、主にアマゾンや楽天といったECモールの検索結果の上位に商品やブランドを表示させるタイプの広告を指す。

さらに、調査を担当した電通メディアイノベーションラボの北原利行・ 研究主幹は、「大手プラットフォームが自社のポイントを活用したデジタル販促ソリューションを積極展開した結果、販促費の取り込みが進んだ」と指摘する。

あらゆるメディアがデジタル化

具体的には、「ペイペイ」などのスマホ決済アプリにおいて、一定の期間内に指定した店舗で特定のメーカーの商品を購入するとポイントがもらえる施策がある。この場合、メーカーが広告主としてポイント費用を支出しており、単なる値引きではなく、集客や購入を促すものであれば、ネット広告費に算入されるケースが増えているという。

EC上の広告にしても、ポイントの施策にしても、これらは4マス媒体から移ってきた予算ではなく、電通の統計に「プロモーションメディア広告費」としてくくられているPOP(店頭販促物)などリアル店舗での販促キャンペーン予算に代わるものといえる。

つまりネット広告費の増加は、マスメディアや物理的な販促物など既存のあらゆるメディアがデジタル化した結果といえる。

ネット広告の成長ぶりが注目されがちだが、日本の総広告費は実はリーマンショック前の2007年の7兆0191億円がピークで、2021年は6兆7998億円だ。メディアは多様化したが、同じパイを取り合っているに過ぎない。

 

「人々の情報摂取行動の中で一番身近なデバイスがスマートフォンになった。それが使われれば使われるほど、広告は流れ込んでくる。一方で話題が広く共有されるのはテレビの強み。信頼性という意味では新聞メディアも重要。ネットがすべてを代替するわけではなく、それぞれの良さに応じて使い分けが進むだろう」と指摘する。