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採用担当に好印象「面接で評価が高い学生」の特徴

学生にとっての「面接」は、企業の選考担当者に会って試問される場を指している。面接は企業社会が生まれる前から存在しており、ある人物に臣従したり、弟子になったりするために面会することは昔から行われていた。師事したい人物(武将であったり、剣術や儒学の師匠だったりとさまざま)の「門をたたいて」(訪問・面接)、「一門(メンバー)に加わる」許可を得た。

昔も今も評価されなければ組織の一員にはなれない。では、どのような学生が評価されているのだろうか? 評価の条件をHR総研のアンケート調査から探ってみたい。使用するのは、2021年6月に採用担当者を対象として実施した「2022年&2023年新卒採用活動動向調査」の「面接の際の学生の態度・回答内容等で、高い評価となるのはどんな学生か」の項目である。

面接担当者が喜ぶ人物像

人事が高く評価する学生のポイントを読むと、言葉が偏っていることがわかる。使われている言葉を書き出してみよう。

 

「自分の言葉」「明るさ」「笑顔」「素直さ」「柔軟性」「明確」「ロジカル」「的確さ」「やる気」「はきはき」「はっきり」「前向き」「簡潔」「意欲的」「自主性」「積極的」「礼儀正しい」。

これらの形容を読めば、面接担当者が喜ぶ人物像がわかるはずだ。「いいヤツ」「友だちに欲しい人」である。ただビジネス能力についての具体的な評価はない。

働くための能力については経済産業省が定めた「社会人基礎力」があり、企業の人事担当者なら誰でも知っているはずだ。

言葉を紹介しておこう。3つの能力分野と12の能力要素が定義されている。能力①は「前に踏み出す力(アクション)」であり、「主体性」「働きかけ力」「実行力」の3つ。能力②は「考え抜く力(シンキング)」であり、「課題発見力」「創造力」「計画力」の3つ。能力③は「チームで働く力(チームワーク)」であり、「発信力」「傾聴力」「柔軟性」「情況把握力」「規律性」「ストレスコントロール力」の6つ。

ところが、これらの言葉は学生に対する評価に使われていない。「自分の言葉」「明るさ」「素直さ」などは対面したときの印象である。「柔軟性」や「ロジカル」という言葉はあるが、その内容は不明であり、おそらく発声や言葉の選び方などがかもし出す雰囲気ではないかと思われる。学力や職業能力ではなく印象による採点が多いのなら、面接を練習することで高評価を獲得することは可能である。

人間はなんらかの集団のなかで暮らしている。家族、学校、企業の上司・同僚、仕事の関係者。いずれの集団でもコミュニケーションが基礎的な能力になる。コミュニケーションとは、相手を理解すること、自分を理解してもらうこと、つまり聞くことと伝えることが基本である。

明瞭な声で「キャッチボール」

面接で企業が採点しているのは、「質問を正しく理解しているか」と「回答はわかりやすいか」の2点である。

「質問の正しい理解」でよく使われる言葉が「キャッチボール」だ。これは、質問を的確に理解して明確な返答を行う学生を評する言葉だ。

「会話のキャッチボール、質問の意図の汲み取り具合」(精密機器・300人以下)、「『言葉のキャッチボール』ができているか」(情報処理・ソフトウェア・301~1000人)は、質問を的確に理解して明確な返答を行う学生を評している。

「大きな声」という評価もある。学生のなかには大きな声量と勘違いしている者がいるが、「面接官に届く明瞭な声」という意味だ。学生のなかには聞き取れないような小さな声で話す者もいるが、これはアウトだ。逆に、鼓膜が破れそうなあいさつをして、大声がうるさい学生もいるが、これもアウト。小さくても大きくてもビジネスには使えない。

人事が評価する「大きな声」とは「相手に届く」「わかりやすい」「聞き取りやすい」という意味を含んでいる。

「笑顔や大きな声で対応できる、簡潔に筋道を立てて説明・回答できる、といった学生」(情報処理・ソフトウェア・1001人以上)

「明るい表情で、声も大きい学生。回答が理路整然としている学生。入社への熱意が感じられる学生(企業研究していそうで詳しい)」(食品・301~1000人)

面接対策として「自己分析」「志望動機」「ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)」「自分軸」などの言語化に時間を使う学生は多い。これらはもちろん重要だ。ただ、言葉を磨いても面接官の好意は得られない。コミュニケーションの印象の93%は、「非言語」で決まるからだ。これを「メラビアンの法則」と言い、コミュニケーションの基本原則だ。

これはアメリカの心理学者アルバート・メラビアンが1971年に発表した法則。簡単に言うと、「言語情報」(話の内容)からの影響は7%に過ぎず、「聴覚情報」から38%、「視覚情報」から55%の情報を受ける。

これはわれわれの体験からも理解できる。政治家や芸能人の人気も見た目と見振りに影響されている。大学でもとても面白い講義がある半面、退屈な講義もある。ところが、面白い講義のはずなのにまるっきり理解が薄く試験ができないこともある。

“模範解答”はニセモノ

面接では「はきはき」「はっきり」という言葉が使われる場合、身振りや言語でわかりやすく意思表示する学生へのプラス評価を示している。

「はっきりとうなずく等のアクションが大きい」(その他サービス・300人以下)

「明るくハキハキしているか。論理的に話を展開できるか。行動できるか」(その他サービス・300人以下)

学生は少しでも良く見せようと練習し、身構えて面接に臨むが、面接官はそういう態度を嫌う。「素のままの姿を見せてほしい」という声は多い。ときおり勘違いしている学生がいるが、「素のまま」は「何も勉強せず準備していない状態」という意味ではない。準備を積み重ね、考えて少しずつ成長して、「人に言われる言葉ではなく、自分の考えた言葉で話す」という意味だ。

「テンプレートでなく自分の言葉で話せる学生。何を実現したいのかが明確で、そのための行動にぶれがない学生。質問の意図を理解して、的確な回答ができる学生」(情報サービス・インターネット関連・300人以下)

「背伸びや誇張のない発言内容で、自分の言葉で話すことができる学生」(ビジネスコンサルタント・シンクタンク・300人以下)

「基本的なことで、あいさつがしっかりしている方、自分の言葉で回答される方」(不動産・300人以下)

成功する会話とは好意の獲得なので、ポジティブワードを使うと会話はスムーズに進む。例えば、自分の高揚した気分だ。「最高の気分でした」「とってもワクワクしました」と経験を形容すれば、前向きな姿勢が伝わる。

「ポジティブワードがあるか、取り組んできた業務に感心できることがあるか」(輸送機器・自動車・301~1000人)

「用意している回答ではなく、臨機応変に的確に回答できる学生」(フードサービス・1001人以上)

コミュニケーション力がすべて

これまでいろいろな評価軸を紹介してきたが、すべて「コミュニケーション」という一語に帰着するだろう。コミュニケーション力は「説得力」や「納得性」と言い換えることができる。面接官を共感、納得させる学生はコミュニケーション力が高いと評価される。

「コミュニケーション能力の高さ」(輸送機器・自動車・300人以下)

「基本的なマナーを備えていることを前提に、コミュニケーション力、積極性、柔軟性があり、ビジネスにかかわるさまざまな人と好感を持って意思疎通ができると感じられる学生」(食品・300人以下)

説得力や納得性のあるコミュニケーションを支えるのは、「ストーリー(物語性)」である。そして、そのストーリーの作り方は、起点の置き方で2種類ある。「バックキャスティング思考」と「フォアキャスティング思考」だ。

今回のアンケートでは「バックキャスティング思考」(食品・301~1000人)を評価する声があった。これは「あるべき未来」から逆算して今の課題を考える思考法だ。

もう1つの思考法の「フォアキャスティング思考」は、起点を「今」において「未来」へと思考を進めていく。

いずれの思考法が正しいというものではない。キャリアプランでも、今を起点に「なれる」姿を考えることがあるし、将来の「なりたい」姿を起点に今やらねばならない課題を洗い出すこともある。この2つの思考法は面接トークでも有効だろう。