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東京23区の人口減「テレワークで移住説」は本当か

コロナ禍が長期化するなかで、東京の人口に異変が起きている。総務省が発表した2021年人口移動報告と東京都の住民基本台帳による世帯と人口(2021年1月1日現在)でみると、東京23区はついに年間の転出者が転入者を上回る転出超過となり、年間で人口が2万人以上も減少した。いったい、何が起こっているのだろうか。

「脱23区」はファミリー層に多い

まずは、総務省の2021年人口移動報告をみてみよう。日本人のデータでみると、東京都の転入超過数は1万815人で、前年から半減だ。コロナ前の2019年は8万6575人だったから、87%もの大幅減である。それでも転入超過は続いている。

大きな異変が起きたのは東京都特別区部(23区)の転出入だ。外国人を含めた数値では、1万4828人の転出超過となり、外国人を含めた集計を開始した2014年以降初めて転出超過となった。日本人に限っても7983人の転出超過で、こちらは1996年以来25年ぶりだという。ちなみに23区の転出超過を世代別(日本人)にみると、30ー44歳の「子育て世代」が3万372人、0-14歳の「子ども世代」が16434人でボリュームゾーンを形成している。

それでは、区ごとの状況はどうだろうか。

転入超過は12区、転出超過は11区と半々だ。転入超過が多いのは

①足立区 2224人 
②台東区 1494人 
③葛飾区 1258人

逆に転出超過が多いのは、

①江戸川区 3330人 
②世田谷区 2755人 
③目黒区 2581人

だった。

死亡数と出生数を加味した人口増減はどうか。東京都の日本人人口データ(2022年1月1日現在)で見ると、23区全体では21年の1年間で2万3462人の減少だ。20年は年間3万1248人の増加だったから、逆転現象が起きている。増加したのは中央区(0.66%増)、台東区(0.51%増)など6区だけで、17区は減少だ。減少数が多いのは江戸川区(4856人)、大田区(3949人)などだ。

ちなみに23区の人口増減をコロナ禍直前の20年1月1日時点と比較すると、それでも7786人の増加となっている。

 

では、23区が転出超過となった背景に何があったのか。今回のニュースを伝える多くのメディアは「コロナ禍でテレワーク移住進む」「テレワーク普及で近隣県への転出が増加」などと伝えている。本当にテレワークが最大の要因なのだろうか。

筆者の周辺で昨年、都心から転居した3家族の転居理由は、「自然豊かな環境で暮らしたい」(23区内から房総)、「転職」(23区郊外から神戸)、「子育てのため実家で父母と同居」(23区内から九州)だった。逆に週の半分程度がテレワークという知人の多くは23区内から動いていない。

テレワークで地方移住、郊外転居を実行した人が、いったいどれだけいるのだろうか。テレビでは、23区から千葉県流山市や神奈川県小田原市に引っ越した若い夫婦2組のケースを紹介していた。共にリモートワークだというが、2組ともにIT関連企業勤務だった。職場環境が恵まれているケースだ。毎日、現場に向かわなければならないエッセンシャルワーカーの方々には無縁の世界である。

コロナ禍は3年目に突入したが、テレワークの実施状況はどうなっているのか。東京都のテレワーク実施率調査(1月7日発表)によると、2021年12月の都内企業(従業員30人以上)のテレワーク実施率は56.4%で、前月比で0.8ポイントの減少だった。「週3日以上」は45.6%で同0.4ポイントの減少。もっとも多いのは「週1日」で35.3%で、「週5日」は16.6%にとどまっている。日本生産性本部の最新の調査(1月)では、首都圏1都3県の実施率は26.8%で10月調査よりも10.1ポイントも下がっている。

マンション高騰も「脱出」原因か

こうした数字をみる限り、「テレワークで移住進む」はどうにも説得力に欠ける。楽観的過ぎるのだ。むしろ、他の要因があるのではないか。そこで住宅環境を調べてみると、仰天の事実が浮上してきた。東京23区の新築マンション価格の高騰である。

不動産経済研究所の「新築分譲マンション市場動向 2021年のまとめ」によると、首都圏の発売戸数は3万3636戸、前年比23.5%増で、東京23区は1万3290戸(シェア39.5%)だった。気になる23区の平均価格は8293万円(1㎡当たり128.2万円)で前年比7.5%アップ。首都圏全体平均の6260万円よりも2000万円以上も高い。東京都下5061万円、神奈川県5270万円、埼玉県4801万円、千葉県4314万円と、23区の突出ぶりが分かる。

では、賃貸はどうか。不動産情報サービスのアットホーム株式会社が毎月公表している「全国主要都市の「賃貸マンション・アパート」募集家賃動向」を見てみよう。

コロナ直前の2020年1月の23区の「ファミリー向き(50~70㎡)」物件の平均家賃は186944円だったが、最新の2021年12月では191863円となっている。家賃は景気動向に左右されにくいと言われるだけあって、その差は5000円弱、上昇率は2.6%ほどだが、終わりの見えないコロナ禍において、都心に住む必要性のなくなった人たちにとっては受け入れがたいものだろう。

「都心部の住宅コストは高騰し過ぎています。一方、サラリーマン世帯の所得はそう増えていませんから、一握りの富裕層や資産家しか購入できないし、業者も購買層を絞っています。23区が転出超過になった要因が「テレワークの普及」というのはあくまでサブの話で、根本的には住宅コストが上がり過ぎて住めなくなってきているため郊外へ転出しているとみています」(不動産専門のデータ会社・東京カンテイの市場調査部の担当者)。

新築マンションが8000万円超、賃貸の家賃ですら上昇傾向。子育て世代には、今の23区の住宅環境は厳し過ぎる。子育てのための住宅購入を機に地方や郊外へ引っ越す。そんなサラリーマン世帯の姿が目に浮かぶようである。テレワークが引き金となったかもしれないが、やはり住宅価格の高騰が転出超過・人口減の最大の要因ではないだろうか。

都内の「休廃業・解散」した企業は大幅減

もう一つ、気になる現象がある。コロナ禍での〝不況〟である。帝国データバンクが発表した『全国企業「休廃業・解散」動向調査』の結果によると、意外にも休廃業・解散した企業数はコロナ前に比べて大幅に減少している。しかしその内実は、政府系・民間金融機関による資金提供やコロナ対応の補助金が貢献した結果で、実際、東京都に限ってみれば、1万2123件と前年より増え、全国で唯一1万件を超えている。

2021年12月の東京都の有効求人倍率(就業地別)は0.90倍で、年間を通じて1倍を下回った。一方、東京都の失業率は2021年7-9月平均で3.1%と全国平均の2.8%を上回っている。コロナ前の2019年7-9月は同2.2%だったことを踏まえると、コロナ禍の経済状況悪化でリストラされたり、職を失ったりした人たちが東京から去っていった。そんなケースも相当数あるのではないだろうか。

データ上はもっとも23区への転入が多い若者層でも「大学がオンライン授業ばかりになったからアパートを解約して実家に帰った」とか、「バイトがなくなり23区内から私鉄沿線の郊外に引っ越した」といった声も聞く。このほかにも都心からの転居には、さまざまな事情があるだろう。

2021年1年間に東京23区から人口が流出したのは紛れもない事実だ。しかし、その一方でタワマンをはじめ新築マンションが年間に1万3000戸以上も販売され、22年の予測はそれを上回る。そして結果として、コロナ前と比べた23区の日本人人口は、依然として減少には至っていない。今年に入り感染拡大が続くなかでも、テレワーク実施率は低下傾向にある。

「都心を去る人」には2種類ある

「テレワークで移住進む」といった分析は、働き方改革や東京一極集中是正を掲げる政府にとっては、なんとも耳当たりのいいものである。しかし、現実はそんなに甘くはない。テレワーク環境が整備された企業で働き、都心から離れても生活できる人と、もはや暮らしていけないから都心を離れざるを得ない人のどちらが多いのか。今後の人口対策、少子化対策のためにもきちんとした分析、検証が必要だろう。