「Web3.0」の説明にピンとこない人が多い根本原因

近年、「Web3.0」というキーワードが急速に注目されている。多くの人が慣れ親しんだ現在のインターネットをWeb2.0と定義し、そこから脱却することを提唱する概念だ。

Web3.0というキーワードを目にする機会が増える一方で、「わかったようでわからない」という声を聞くことも増えた。

実際にWeb3.0のコンセプトを実現可能にするブロックチェーンは大変わかりづらい技術である。さらに、具体例やユースケースのイメージも沸かないため、現在のインターネットとの違いを比較してもピンとこない。実際に普及する現実的なイメージが湧かないという意見もよく耳にする。

そこで今回の記事では、Web3.0というコンセプトがどのように生じ、私たちにどのようなメリットをもたらすかを、なるべく簡単に解説したい。

Web3.0の究極のメリットは?

Web3.0とは何か、それが過去のインターネット(Web1.0/Web2.0)とどのように異なるか、という点について語るべきことは多い。しかしながら、筆者の経験上、これらをどれだけ丁寧に説明しても「わかったようでわからない」という状態を脱することは困難だ。

それは、インターネット自体が目に見えないインフラであり、水面下で私たちの生活を支えるものだからだ。Web3.0に対する理解を深めるための近道は、インターネットを通じて提供されるサービスや、サービスに支えられた自分たちの生活がどのように変化するのか、という観点からひもといていくことだ。

結論から言えば、Web3.0とは「ユーザーをサービスの株主(のような存在)とみなし、運営と成長に参加してもらおう」というコンセプトでインターネットサービスのあり方を再構築するものだ。

Web2.0の世界では、一般ユーザーは魅力的なサービスをどれだけ利用し積極的に応援していたとしても、そのサービス運営母体の株式を未上場の段階で購入したり、サービスの運営方針の決定に参加することはできなかった。

一方、Web3.0の世界では、トークンを購入するなどの方法で金融商品化されていないステーク(利害関係)をサービスの最初期から得ることができる。そのため、キャピタルゲインに相当する先行者利益を得ることや、サービスの運営方針の決定に関与する権利を持つことができる。

これをもう少し身近な体験に落とし込んでみよう。

既存のインターネット世界の欠陥

例えば、とあるSNSがITスタートアップの手によって開発され、サービスが始まったとしよう。

影響力のあるユーザーがこのSNSを魅力的に感じ、コンテンツを生み出しながらフォロワーに紹介して、コミュニティーを盛り上げていったとする。このコミュニティーはSNSの成長の原動力となり、潜在ユーザーへのマーケティングやPRにつながる活動を次々に繰り広げていった。

そうして、SNSが毎日数千万人が利用するものとなり、企業価値が数百・数千億円に達するプラットフォームになった頃、ふと以下の点に気づくことになる。

  • ● 自分のコンテンツやコミュニティーがサービス運営企業の管理下にあり、ビッグデータとして利用されたり、企業の一存で削除されたりすること。
  • ● サービスの成長に社員以上の貢献を見せたにもかかわらず、その実質的な恩恵を受けられないこと。
  • ● サービスの重大な意思決定に関与できず、自らの望まぬ変化(機能や仕様の変更など)を受け入れさせられること。

これは、UGC(User Generated Contents)が主流のWeb2.0のインターネットにおいて現在進行形で発生している日常風景だ。

今やITサービスの成長にコミュニティーの存在は不可欠となりつつある。実際にAirbnbやUberといったユニコーン企業の誕生秘話には、資本市場の原理にとらわれない多様なステークホルダーが登場し、出資金以外のさまざまな貢献や応援を行っている。

にもかかわらず、こうしたステークホルダーは企業の生み出す富の恩恵にあずかることはできず、むしろ、望まぬサービスのアップデートに苦しめられることもある。

この不満を解決しようという願いがWeb3.0への原動力となっている。

Web3.0を生み出すブロックチェーン技術

これまでのインターネットの発展がつねにテクノロジーの進歩による課題解決を通じてもたらされたように、Web3.0への発展もまた新しいテクノロジーをきっかけとしている。そのテクノロジーこそがブロックチェーンだ。

ブロックチェーンはビットコインに端を発する新しいインターネット世界のインフラである。このインフラの特筆すべき特徴は以下の4つである。

  • ● ネットワークが特定の管理者ではなく分散的なデータ共有システムによって維持される。
  • ● ネットワーク上のデータを書き換えることが困難で、不正の検証が容易。
  • ● 個人がそれぞれの認証情報(ウォレット)を利用し、自身のデータ所有権を自由に行使できる。
  • ● 決済や投票といった特定の処理をプログラムコードのみで自立分散的に執行できる(スマートコントラクト)。

これらの特徴により、ブロックチェーン技術は、特定の管理者ではなく自立分散的に稼働するプログラムコードに依拠して、個人間の価値や権利のやり取りを実現する。

これまで企業やプラットフォーマーを介して行われてきたさまざまな取引が、インターネット上のプログラムコードに置き換えられるということだ。

これにより、技術的には、企業の得てきたマージンがサービスの提供コストから引かれ、安価で魅力的なサービスを生み出すことが可能となる。また、サービス運営資金の管理や分配、貢献者へのインセンティブも自動化しうる。

ブロックチェーンにより、これまで企業が担ってきたサービスの提供機能と、ストックオプションや株式市場が担ってきた利害調整とガバナンスの機能を、プログラムコードとトークンに置き換えることが可能になったこと。

この事実がWeb3.0を夢物語ではない新しいビジネストレンドたらしめている。

インターネットの民主化ではなく、資本市場の二層化

Web3.0について、「インターネットの民主化」という言葉を見かけることもあるが、これは事実との乖離が大きい。プラットフォーマーの存在を敵視しすぎているとも言える。

筆者は、Web3.0の実態は、民主化というよりもむしろ、資本市場の二層化であると考えている。

資本市場の基本的な投資体験は金銭的出資によって株式を購入し配当と株主総会への参加権を得る、というものだ。この機会を社会に提供するのが株式市場であり、証券取引所である。

これに対し、Web3.0の世界で提供されるのは、非金銭的な応援・貢献を通じて利害関係を得るためのトークンや、少額・小口の出資でガバナンスへの関与権を得るためのトークンだ。これらは既存の資本市場の裾野に参加ハードルの低いエリアを設けるものといえる。

例えば、特定の「コレクティブNFT」を購入したユーザーは、コミュニティー活動を通じてNFTの価値を高めることでキャピタルゲインを得ることが可能だ。これはベンチャーキャピタルがスタートアップのPRや採用を支援して企業価値を高めるアプローチに近い。

また、サービスの開発方針を問う「ガバナンストークン」を購入したユーザーは、サービスに関わる意思決定に関与することが可能になる。これは株式投資型クラウドファンディングに参加しユーザーヒアリングを受ける体験に似ている。

これらのトークンは配当の有無など有価証券該当性に関わる要件を回避して、既存の資本市場と一線を引いて発行される。しかし、より多くを有するもの・より多く貢献したもの・より先行して活動に参加したものが優位になるといった点で、資本市場の性質を色濃く受け継いでいることは否めない。

Web3.0の世界に「公平さ(Fairness)」はあっても、民主主義的な「平等(Equality)さ」は担保されていない点には留意が必要だ。

Web3.0は、既存のインターネット世界における不満や疑念を解消し、中間マージンを削ぎ落とした魅力的なサービスを実現するアイデアだ。

Web2.0を生み出したクラウドプラットフォームであるAWSが発表される際、ジェフ・ベゾスが語った「Your margin is my opportunity(あなたの利益は私のチャンス)」という言葉のとおり、Web3.0はWeb2.0の世界で当たり前に存在する企業利益というマージンを機会に変えて急速に発展する可能性が高い。

また、海外ユニコーン企業株のようにキャピタルゲインの期待値が高い銘柄への投資機会を持たない一般層にとって、Web3.0の発展が魅力的な金融マーケットへのアクセス機会を広げるものにもなりえる。

より安く、より共感性の高いサービスに、より多くの資金を集めるファイナンスエンジンを備えたWeb3.0サービスの成長は、人々の想定を大きく上回る場合がある。

その実例として、最も成功したWeb3.0サービスと言われるビットコインは誕生から10年足らずの間に時価総額7500億ドルを突破している。現在これを上回る時価総額の日本株銘柄は存在していない。

しかし、これは同時に「サービス(またはそのコミュニティー)が成長するか否か」という丁半博打的なリスクマーケットへのエクスポージャー(投資機会)を一般向けに広げるという側面を持つ。

運営企業が不在だと何が起こるのか

運営企業が不在のサービスでは、重大な瑕疵や開発主体のプロジェクト放棄といったトラブルが容易に生じうる。過去にブームとなったICO(イニシャル・コイン・オファリング、新規暗号資産公開)の際には、運営企業がいたにもかかわらず、トークンによる資金調達を行った後に資金を持ち逃げするケースも多発した。

従来の世界で運営企業が得てきた利益とは、サービスに対して企業が引き受けてきたレスポンシビリティ(責任)の裏返しでもある。責任主体が不在となり、すべてがユーザーコミュニティーに委ねられたとき、そこで起こるあらゆる出来事は「ユーザー(であり投資家)の自己責任」になる。投資家保護を旨とする規制当局がこうした事態を看過するとは考えがたい。

Web3.0の世界が予想を上回る発展を遂げる前に、人々が少しでも多くの恩恵を享受できるよう、事業者、ユーザー、規制当局が真剣な議論を行う必要があろう。