クラウドファンディングの光と闇

すでに亡くなっていた愛犬の治療費をクラウドファンディングで募り、約185万円を騙し取ろうとした26歳の女が逮捕された。

「クラウドファンディング」とは、群衆(クラウド)と資金調達(ファンディング)を組み合わせた造語だ。自分の活動や夢を発信し、共感した人や応援したい人から少額ずつ資金を募る仕組みのことであり、「READYFOR」「CAMPFIRE」「Makuake」など、様々なプラットフォームがある。

このクラウドファンディングで詐欺や詐欺まがいの行為が起きているという。クラウドファンディングにおける被害実態とは。

今回の事件は「人の善意を踏みにじる行為」

「(クラウドファンディングで)猫の治療費プロジェクトに寄付したことがある。治療費は保険がきかないから高額になるし、自分も高齢の猫を飼っていて飼い主の気持ちもわかるから応援したくて。こういう事件は人の善意を踏みにじる行為だし、こういうことがあると本当に困っている人が疑われるかもと思うと悲しくなる」と、この事件を知った愛猫家の男性はいう。

昨年10月、「重度の肺動脈狭窄症と敗血症・関節炎と戦う7ヵ月の愛犬を元気にしたい」というクラウドファンディングが立ち上がった。重篤な心臓病などに苦しむフラット・コーテッド・レトリバーの命を救うためには手術が必要だが、そのためのお金がなく、やむなくクラウドファンディングを立ち上げたという。

 

子犬の命を救うためーー。そのプロジェクトは多くの愛犬家の善意を集め、目標金額の85万円は開始からわずか3日間で達成。最終的に1ヵ月半で約185万円もの金額が集まった。374人ものユーザーが「手術がうまくいって楽しく遊んで過ごせますように」「わが家にも愛犬がいるので、力になりたくて応援させていただきました」など、心のこもったメッセージを寄せたのだ。

ところが犬は支援金を募る2ヵ月前に亡くなっており、たまたまプロジェクトを見かけた病院関係者が警察に相談して発覚したというわけだ。容疑者の女性は、多額にかかった治療費を取り戻そうとプロジェクトを立ち上げていたという。病気の犬がいたことは事実だが、すでに亡くなっている犬を生きていると偽ってお金を集めた時点で詐欺に当たるだろう。

クラウドファンディングは、リターンがある「購入型」、リターンがない「寄付型」、分配金や株式が受け取れる「投資型」の主に3種類に分けられる。購入型は支援金で作成した商品やサービスなどをリターンとすることが多く、新しい商品などをいち早く手に入れられるメリットがある。被災地支援などに使われる寄付型は基本的にリターンがないものの、お礼の手紙などがあることも。投資型は、その名の通り投資先として機能する。

なお、All-in方式は目標金額の達成・未達成に関わらず支援金が入るが、All-or-Nothing方式は目標金額達成時のみ支援金が入るという違いがある。

クラファンで救われた人も

クラウドファンディングによって生まれたものや助けられた人は多い。たとえば、2016年11月に公開されたアニメ映画『この世界の片隅で』が、購入型クラウドファンディングで3900万円を集めて制作、公開されたことは特に有名だ。

 

鍵が要らず、スマホアプリからドアのロックが解除できるスマートロック「SESAME」は、クラウドファンディング上でこの商品をリターンにして人気に。8000人以上から1億1800万円以上を集め、材料費やカスタマーサポート、機能改善、開発費などの資金調達に成功している。

その他、クラウドファンディングによって、令和2年7月豪雨の災害復興プロジェクト、令和元年台風19号緊急災害支援金プロジェクト、被災した熊本の災害救助犬・警察犬訓練拠点の再興など、多くの被災者が支援を受け、助けられてきた。

矢野経済研究所の「国内クラウドファンディング市場調査」(2021年6月)によると、2020年度の国内クラウドファンディング市場規模は、新規プロジェクト支援ベースで前年度比17.6%増の1841億円にも上る。

クラウドファンディングはこのように意義ある仕組みである一方、残念ながら冒頭の事件のような詐欺被害も起きている。

和歌山市が、2019年オープンの「(仮)和歌山市動物愛護管理センター」で犬猫殺処分ゼロを目指し、クラウドファンディングを行ったことがある。ふるさと納税で資金を募る、ガバメントクラウドファンディングの利用だった。

その結果、1464人が応募し、目標の1800万円を大幅に超える約2500万円、市に直接届けられた分を含めると約2800万円が集まった。ところが、犬や猫の不妊去勢手術をする設備充実を図るためという名目で調達したにも関わらず、そのうち半分を「印刷製本費」「自動車保険料」「火災保険料」などに使用しており、批判を集めてしまった。

このように、寄付金型クラウドファンディングの中には、確実にその用途で利用されるかが確認しづらいものもある。各プラットフォームがプロジェクトの審査を行い、詐欺に該当しそうなものは除外するなどの対処を行っているが、このようなケースまで把握することは難しいだろう。

事業が失敗するケースも

リターンがある購入型クラウドファンディングでは、事業が失敗すれば当然リターンはなくなるが、ただの失敗ではなく詐欺同然と批判を浴びている例も存在する。2015年、ZANOという小型ドローンのプロジェクトで英国の会社が233万ユーロ(約3億6千万円)を集めた。ZANOはスマートフォンで制御でき、写真や動画の撮影も可能な手のひらサイズの小型ドローンだった。

製品はほぼ完成しており、量産するだけという話だったが、製品の出荷は延期に延期を重ねてしまう。さらに先に一部出資者に向けて出荷されたドローンは飛行の安定性が低い上、撮影された動画の画質も悪く、当初うたわれていた追尾機能も搭載されていないなど問題あるものだった。

結局、同社のCEOが健康上の理由により辞任、破産申請したため、投資者には製品も返金もない状態となってしまったのだ。購入型はプロジェクトがうまくいかない場合は返金があるものだが、このように返金もリターンもないということもある。

2017年、米国であるカップルがガソリンが無くなり困っていたところ、当時ホームレスだった元海兵隊員が偶然通りかかり、なけなしの全財産を出してくれ、帰路につけた。カップルはお礼にそのホームレスの生活再建のためにクラウドファンディングをしたところ、いい話に胸を打たれた出資者たちから約40万ドルものお金を集められたのだ。ところが、この話はすべてまったくのウソだったことがわかり、3人とも詐欺罪と共謀罪で書類送検されている。

投資型クラウドファンディングでも、出資して集めたお金を運用して還元すると言いながら、以前からの出資者に配当金として渡す手口などが行われることがある。これは「ポンジ・スキーム」と呼ばれ、当然詐欺行為に当たる。

このように、クラウドファンディングでは様々なプロジェクトが成功につながっている一方で、詐欺行為も行われているのだ。

どうすれば悪質クラファンを見極められるか?

では、詐欺や問題のあるクラウドファンディングプロジェクトは、どのように見分ければいいのか。

まず、プロジェクト自体の具体性や写真など内容を吟味することはもちろん、プロジェクトオーナーのプロフィールやホームページ、SNSなどはすべて確認しよう。事前に質問などコミュニケーションすることで、ある程度の信頼性は確認できるだろう。たとえば犬の治療費を集めている場合は、別の新しい写真を送ってもらうことで、実際にいる犬のプロジェクトであることが確認できる。

内容の割に支援金額が高額に設定されていたり、出資金の使途や見積もりが曖昧だったりする場合は要注意だ。また、写真にフリー素材がそのまま使われていたり、画像検索すると他の画像が転用されていることもあるので、画像で検索すれば判断できることもある。

しかし、冒頭の詐欺事件のプロジェクト概要には、治療中の愛犬の写真やレントゲン写真、治療時に渡されたらしき資料なども掲載されていた。実際にすべて本物であり、それだけでは真偽を疑いようがないケースもあるだろう。

クラウドファンディングプラットフォームでも、事前審査やトラブルが起きたときのサポート、公開終了後もリターン送付や終了報告を促したり、プロジェクトオーナーが倒産などによりリターン不履行などを行った場合に支援金の80%を上限に保証金を支払う制度を用意するなどの対策をとっているが、完全に詐欺やトラブルが防げるわけではない。

リターン品が届かないなどの場合は、まずプロジェクトオーナーに連絡をし、詐欺が疑われる場合は、プラットフォーム事務局などに問い合わせよう。消費者ホットライン(188)なども利用するといいだろう。

繰り返すが、完全に詐欺を防いだり見抜くことは難しい。最終的には自分の見極めが大切なので、しっかりと見極めて利用するようにしてほしい。