「論理的な上司」の話が部下に響かない納得理由

ロジックよりも「感情」を大事に

ビジネスの世界ではロジックが重要とされています。ロジックとは、ある結論に至るまでの理路整然とした思考の道筋(論理)のこと。ロジックから派生した「ロジカルシンキング」(論理的思考法)は、必須のビジネススキルとも言われており、仮説思考、三段論法、演繹法、帰納法、PDCAなどさまざまなビジネスシーンで活用されています。

ロジック(あるいはロジカルシンキング)がビジネスの世界で必要とされている理由は、主に2つです。

1つは、「課題解決のため」です。仕事をしていれば、ありとあらゆる場面で大なり小なりの問題が生じます。そのような場合、問題の原因は何かについて解決策を見つけ出していく必要があります。

たとえば、営業第一課の売上高が、営業第二課と比べて半分であった場合、営業手法に違いがあったのか? マンパワーの違いか? あるいはコントロールできない外部条件が発生したのか? など、原因を特定していきます。原因が特定できたら、具体的な解決策を検討することになりますが、原因分析や解決策の検討において、論理的に物事を考えるプロセスは極めて重要です。

もう1つの理由は「円滑なコミュニケーションのため」です。ビジネスシーンにおけるコミュニケーションでは、相手にわかりやすく伝えることが大切です。報連相やプレゼンなどの場面はまさにそうです。商談の場面であれば、論理的に説明することで、交渉を有利に進めることができます。ロジカルであれば、共通理解を得られやすいのです。

ロジックがビジネスの世界において重要であることに疑いの余地はありません。
一方、現実をよく観察してみると、人はロジックで動かないことが多々あります。たとえば、「〇〇だから、こうしたほうがよい」と論理的に正しいアドバイスを受けた場合、好きな上司と嫌いな上司とでは受け取り方がかなり異なるはずです。

好きな上司なら、素直にアドバイスを受け入れたくなりますが、嫌いな上司であれば、「なんでそんなこと言われなきゃならないの?」と反発したくなります。

お互いにアドバイスしている内容はまったく同じで論理的にも正しいのに、なぜこんなことが起こるのでしょうか?

「人は感情の生き物」

その理由は「人は感情の生き物」だからです。人は必ずしもロジックで動くわけではありません。突き詰めれば、人は感情で動きます。好きなことはやるし、嫌いなことはやらない。

「好きか嫌いか?」という、とてもシンプルな行動原理です。「好きか嫌いか?」というのは「価値観」です。人はさまざまな価値観を持っていて、価値観がフィルターとなり、さまざまな感情が起こります。

たとえば、「読書は大切」という価値観を持っている人は、本を見ると「読みたい!」という「快の感情」が発生し、本を購入するという「行動」を取ります。その結果、読書するという結果に至ります。「ある感情がある行動を引き起こす」というメカニズムですが、ある感情を引き起こすのは「価値観」というフィルターです。

このメカニズムを理解しておくと、ロジカルではない不可解に見える人の行動も理解できます。ロジカルに説明して、議論で相手に勝ったとしても、「相手が言うことを聞いてくれない」ことは多々あります。ロジックですべてうまくいくのであれば、誰も苦労はしないのです。

ロジックは非常に効果的なコミュニケーションツールである反面、ロジックだけでコミュニケーションが取れるわけではありません。「議論に勝って、勝負に負ける」ことが往々にして起こるように、論破できても、相手の感情を害せば、関係性を悪化させます。

とりわけ、直感的な人や感性で行動するような人とのコミュニケーションにおいては、ロジックが通用しないことも多々あります。そんな場合どうしたらいいのか?

重要なカギは「相手の心を理解すること」です。心とは、「感情」あるいは「気持ち」とも読み替えられますが、相手の心を理解することがロジックを超えたコミュニケーションのカギとなります。相手の心を理解するためには、相手をよく傾聴して、相手を受け入れることです。

お伝えしたように、感情を司るのは「価値観」ですから、「相手が大切にしていることは何だろうか?」と相手の価値観を理解しようという姿勢がとても大事です。相手を深く理解すればするほど、相手とのラポール(信頼関係)は深まります。

以前、「職場で部下にロジカルに説明してもなかなか言うことを聞いてくれない」と嘆いていた管理職のクライアントさんがいました。そこで私は「部下に本当はどうしたいのか?」をとことん傾聴してみるようお伝えし、その方に実際に試してもらったのです。

約1カ月後、その方から報告がありました。「部下のことを何も理解できていなかったことを反省しました。部下は自分の考えや思いを聞いてもらったことがとても嬉しかったようです。その後、私の説明にも耳をよく傾けてくれ、進んで行動してくれるようになりました」。ラポールが深まれば相手は心を開いて、こちらの話も受け入れてくれるようになるのです。

心の扉は「内側」からしか開かない

「心の扉は内側からしか開かない」。著名な臨床心理学者カール・ロジャーズの言葉です。外からロジカルに理解させようとしても、感情が邪魔をして受け入れてくれません。真のコミュニケーションというのは、外側からではなく、内側から働きかけることによって成り立つのです。

部下へのフィードバックにおいても、この原理は同じです。たとえば、目標値に達していない理由が、明らかに行動量の不足である場合、「行動量が足りてないので、もっと行動量をあげる必要がありますね」とロジカルにフィードバックしても、部下に反発される場合があります。

他方、心の内側に向けてフィードバックするとこのような言い方もできます。

「行動量を上げられるとしたら、どのような工夫ができますか?」あるいは「もし何か困っていることなどがあれば、教えてくれませんか?」。

部下は目標を達成できなかったことに「恥ずかしい」、「情けない」、「つらい」など何らかの感情を抱いています。部下の感情に寄り添いながらフィードバックすることで、部下の心の扉は開いていきます。

その結果、そのフィードバックは深く部下の心に届くのです。ビジネスの世界でロジックが重要な役割を果たすことは言うまでもありません。他方、お伝えしたようにロジックだけでコミュニケーションは成り立たないのも事実です。

「議論に勝って、勝負に負ける」では、相手との関係性を壊す可能性があります。関係性を壊してしまっては、ビジネスそのものができなくなります。

ロジックは大事です。ですが、感情を理解するということは、もっと大事なビジネススキルです。「人間は感情のいきものである」という原理を理解することが大切なのです。