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消費者物価指数から読み解く「数字の裏側」超基本

日銀は物価の安定を目的としている

日銀総裁は金融政策決定会合の終了後に定例記者会見を行う。この際のやり取りは文字起こしされていて、日本銀行のホームページで確認することができる。本稿では執筆時点での最新版にあたる今年の1月18日に行われた会見の内容をみていきたい。全部で15ページにおよぶが、ほとんどが物価、インフレについての内容だ。

そもそも日本銀行の目的は「物価の安定」を図ることと、「金融システムの安定」に貢献することと自ら掲げているので当然といえばそれまでなのだが、やはり昨今の世界的なインフレ懸念が影響を与えていることには間違いないであろう。

本題へ入る前に前提知識として、日本のインフレ動向を確認しておこう。昨年12月における日本の消費者物価指数は総合が前年同月比+0.8%、生鮮食品を除く総合が同+0.5%、生鮮食品及びエネルギーを除く総合は同−0.7%だ。数字だけを見ると世界的にインフレが懸念されるなか、日本だけは物価上昇の勢いは弱く、エネルギー価格を除けば依然として物価は低下傾向にあるように見える。

 

それでは、早速内容を見ていこう。現在の物価についての認識と今後の見通しについては以下のように述べている。

物価ですが、生鮮食品を除いた消費者物価の前年比は、携帯電話通信料の引き下げの影響がみられるものの、エネルギー価格などの上昇を反映して、小幅のプラスとなっています。また、予想物価上昇率は、緩やかに上昇しています。先行きについては、消費者物価の前年比は、当面、エネルギー価格が上昇し、原材料コスト上昇の価格転嫁も緩やかに進むもとで、携帯電話通信料下落の影響も剥落していくことから、振れを伴いつつも、プラス幅を拡大していくと予想しています。
(出所)日本銀行「総裁記者会見要旨」

「携帯電話通信料の引き下げ」に言及

エネルギー価格の上昇が全体を牽引しているということは前述のまとめのとおりだが、気になるのは「携帯電話通信料の引き下げ」について言及していることだ。

菅義偉政権時に携帯電話の通信量が大幅に引き下げられ、その後も断続的に引き下げられたことから、消費者物価指数の内訳をみてみると「通信料(携帯電話)」は前年同月比−53.6%と大幅なマイナスを記録しており、全体を1.48ポイントも下押しているのだ。つまり、この特殊要因がなければ、日本の消費者物価指数はすでに前年同月比で2%近くまで上昇していることになる。

冒頭で知人が経済指標の結果だけを見ていてもよくわからないという話をしていたと紹介したが、引用したこの部分だけからも、発表された経済指標の結果を基に日銀総裁が現在をどのように認識していて、将来をどのように見通しているのかがわかるだけでなく、消費者物価指数を見る際は内訳の品目まで見ることの重要性を学ぶことができるのだ。

物価が日本でも上昇していく見通しであり、携帯電話の通信料という特殊要因を除けばすでに前年同月比で2%の上昇となっているのであれば、金融緩和をやめて政策金利を引き上げていくと考えるかもしれないが、その点についてはこのように述べている。

景気が拡大し、あるいは需給ギャップがプラスに転化していく中で、賃金・物価が上昇していくという好循環のもとでの2%の「物価安定の目標」の達成を目指しており、そのようになるように、必要な金融緩和を粘り強く続けていくつもりです。
(出所)日本銀行「総裁記者会見要旨」

旺盛な需要に供給が追い付かずに物価が上昇し、賃金も上昇する。賃金が上昇するので家計の消費が増え、企業の売り上げが伸び、さらに賃金が……。という好循環の中で物価が上昇しているのではなく、現在はあくまでエネルギー価格が全体を押し上げているだけであり、賃金が上がらないままに物価だけが上昇すると、それは結果的に消費を冷やし需要を減退させるため、物価上昇が一時的なものにとどまる。

それゆえに、好循環下における2%の「物価安定の目標」の達成をするまでは金融緩和を続けるということだ。ちなみに、需給ギャップはGDPギャップとも呼ばれるが、下図が内閣府の発表している需給ギャップの推移である。

為替と物価の関係

経済指標と同様にニュース番組や新聞でよく目にするのが為替相場だ。実はこれも数字の変化だけを見てもよくわからないだろう。昨日よりいくら円高になったと言われても、これもまた「へぇ」とだけ思っておしまい、ということになる。為替相場がどのように経済に影響を与えるのかについても会見要旨から学んでいこう。

為替相場は経済や金融のファンダメンタルズを反映して、安定的に推移するということがきわめて重要であると思っています。そのうえで一般論として申し上げますと、為替相場の変動というものは、財・サービスの輸出の数量、輸出採算や海外事業の収益、そして輸入原材料のコストなど、様々なルートを通じてわが国の経済に影響を及ぼします。

これらの影響は、わが国の経済・貿易構造の変化に伴って変化しているわけですが、為替円安が全体として経済と物価をともに押し上げて、わが国経済にプラスに作用しているという基本的な構図に今のところ変化はないと考えています。従って、悪い円安ということは考えていません。ただ、為替円安の影響が、業種や企業規模、あるいは経済主体によって不均一であるということには十分留意しておく必要があると思っています。
(出所)日本銀行「総裁記者会見要旨」

ここからわかることは為替相場が貿易や物価などに影響を与えることで、企業業績や家計にも影響を与えるということだ。具体的にいえば、円安になると輸出競争力が高まり輸出企業には追い風となるが、原材料を海外から輸入する場合は輸入価格が高くなり、コストも高くなることで家計の負担も上昇するということである。

とはいえ、単純に円安傾向だから輸出企業の株へ投資をすればいいとはならない。実際には為替については予約をしたりヘッジ取引をしていたり、そもそも生産工場を海外に持っているケースもあるからだ。

 

経済指標や株価、為替相場などを表示されている数字だけ見たり、ある時点と比較して上下したという認識で終わるのではなく、その数字たちが経済のあらゆる部分にどのような影響を与え、それが全体にどのように波及していくのかという流れの中でデータを見る能力を身につけていきたいものだ。