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「週休3日制」の導入で生産性が落ちるリスク

「従業員のウェルビーイング(幸福感)を担保する」

1月6日、パナソニック楠見雄規社長が、投資家向け説明会で「週休3日制」導入について説明した。

週休3日制導入を検討しているのは、パナソニックだけではない。塩野義製薬も2022年4月に希望者対象で導入する。みずほフィナンシャルグループにいたっては、2020年に、こちらも希望者対象で週休3日制を導入している。

「週休3日制」の導入で生産性が落ちるリスク

政府も昨年6月に、週休3日制の普及について閣議決定した。週休3日制は、政府の後押しと、日本を代表する企業の決断により、このまま普及段階に入っていくのだろうか。

しかし、大多数の日本企業にとって時期尚早ではないか。焦って導入すると、生産性アップどころか逆にダウンするのでは、と私は危惧している。

欧米の企業では一定の成果を上げているようだ。週休3日制を導入し、英企業の6割が生産性を改善させたらしい。が、海外の事例は参考にしづらい。あらゆる面でステージが違いすぎるからだ。成功させるためには前提条件がある。

まずは、日本企業の現状を整理したい。デジタル競争力を見てみよう。スイスの国際経営開発研究所が発表した「世界デジタル競争力ランキング2020」から引用する。

1位)アメリカ
2位)シンガポール
3位)デンマーク
4位)スウェーデン
5位)香港
6位)スイス
7位)オランダ
8位)韓国
9位)ノルウェー
10位)フィンランド


27位)日本

欧米のみならず、日本の順位はアジアの中でも低い(しかも2019年の23位から4ランクダウンさせている)。

 

日本の時間当たり労働生産性はOECD加盟38カ国中23位。日本の一人当たり労働生産性は28位。デジタル競争力と労働生産性は密接な関係があるから、当然の結果なのかもしれない。

まずここから言えることは、生産性を上げない限り週休3日制の導入なんて、夢のまた夢ということだ。そのためのデジタルシフトが相当遅れているのだから、優先順位が間違っている。

それどころか、いまだデジタルシフトを妨げる要因もある。それが長時間労働である。働き方改革関連法が施行され、2019年から時間外労働の上限規制ルールが適用された(中小企業は2020年から)。

長時間労働があたりまえの組織が、デジタルシフトなどできるはずがない。ところが政府肝いりの取り組みも、なかなか認知度が高まらない。いまだに「月45時間、年360時間を超えてはならない(原則)」というルールを知らない人もいる。

私がコンサルタントとして支援する企業でも、「上限規制ルールは聞いているが、具体的な内容までは知らない」と呑気なことを言う経営者も少なくない。いったい、なぜか? 2020年初頭からコロナ時代に突入し、それどころではなくなったからだ。

日本企業が直面する課題とは

組織文化も、なかなか変わらない。多様な働き方の象徴的な存在として「テレワーク」があった。しかしテレワークも、なかなか普及しない。コロナ禍になって、慌ててテレワーク環境を整備した企業も多かった。が、緊急事態宣言が解除されると、「出社するのが基本」と手のひらを返した企業も多い。

多様な働き方を推進させていかなければならない時代だ。それなのに、これでは若い社員の心が離れていくのは当然。従業員エンゲージメントが落ちれば、生産性がアップするはずがない。

さらに昨今は好業績でもリストラするという「新種リストラ」も、大企業を中心に広がる。昨年は「45歳定年制」というキーワードがTwitterでトレンド入りするなど、中高年をターゲットにしたリストラは、さらに増える見込みだ。

ここで、日本企業が直面している課題をざっくりとまとめよう。

①超少子化による人材不足→労働人口の減少
②産業構造の変化による新種リストラ→労働人口の減少
③働き方改革による長時間労働の是正→労働時間の減少

 

日本企業は「一企業当たりの総労働時間」を激減させている状況がある。そんな中、「週休3日制」を導入すれば、労働日数まで減ることになる。労働時間が売り上げや利益に直結するサービス業、製造業にとっては死活問題だ。

日本企業の最大の問題は、組織が硬直化していることだ。この問題は、日本人気質が密接に関わっている。「事なかれ主義」がまかり通るので、変革がなされないまま長い年月を過ごせてしまう。経済大国にまで昇りつめた過去に、長い間すがってしまったのだ。

3年や5年周期で変革を経験している組織なら、環境が変化するたび柔軟に対応ができた。しかし日本企業は20年も30年も変革を先送りにした。その結果、

・10年前に変化させなければならなかったこと
・5年前に変化させなければならなかったこと
・今すぐ変化させなければならないこと

が一度に押し寄せることになった。だからこそ現場は混乱する。何から手を付けていいのか、わからないぐらいに問題が山積みになった。

先述したとおり、デジタル競争力は世界でも低いほうだ。10年前に経験しておくべきだったデジタルシフトが、いまだに十分ではない。働き方改革もそう。多くの負債を抱えたまま、変化させずに今がある。だからこそ、英企業の6割が「週休3日制」導入後に生産性をアップさせても参考にならない。

日本を代表する企業も存続をかける

一部の報道では、「週休3日制を導入することで、働き方にメリハリがつき、意欲の改善に繋がる」ともあった。そして余暇を充実させたい若者の採用に有利に働くというのだ。たしかにそうだろう。週休3日制はインパクトがある。それだけで魅力を覚える若者は多いはずだ。

パナソニックは昨年10月に、1000人以上の希望退職者を募った。そして2021年1月には、「従業員のウェルビーイング(幸福感)を担保する」と公言し、「週休3日制」を導入しようとする。

加速する企業の“新陳代謝”。血の入れ替えをしながら組織変革できなければ、たとえ日本を代表する企業であろうと存続ができない。

 

産業構造そのものが変化していく時代に、労働環境もまた異次元のスピードで変化していく。失われた時間を取り戻すために、日本企業は一つ一つの問題を、順序を間違えることなく解決していくほかない。