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新しい価値生み出せない企業の「人材採用の問題」

「起承転結」4タイプのイノベーション人材

「イノベーションで新しい価値を生み出したければ、起承転結4タイプの人材を活用しなさい」

ここ数年、講演などでお話しさせていただく機会があるたびに、私はそう言い続けています。新たなイノベーションを起こすには、まさに次に挙げる4つのタイプの人材が適材適所で活躍することが必要不可欠だと思うからです。

 

【起】──0から1を仕掛ける人材
【承】──0〜1をN倍化(10倍、100倍、∞倍)する構造をデザインする人材
【転】──1をN倍化する過程で目標指標を策定し効率化かつリスクを最小化する人材
【結】──最後に仕組みをきっちりオペレーションする人材

まず、イノベーションで新しい価値を生み出す「起承転結」型の人材は、クリエーションを担う「起承」型人材と、しっかりオペレーションを回していく「転結」型人材の2つに分けられます。

どちらかと言うと「転結」を担当する部門が「ヒト、モノ、カネ」を持っているので、「起承」の人たちは「転結」の人たちの有するアセット(経営資源)をいかにうまく使いこなすかを考えるとイノベーションは加速します。しかし、往々にして「起承」対「転結」の対立構造になってしまい、イノベーションがうまく回らないことが多いんです。

だから、「起承」の人はクリエーションしたあと、「転結」の力を借りてどうやってオペレーションをうまく効率的に運用するかを考えたほうがいい。一方、「転結」側でオペレーションを担う人は、「起承」人材が持ってくる情報や機動力を、いかに活用するかを考えることが大切です。

最終的に、イノベーションというのは、「起承」の人たちと「転結」の人たちが仲良くしたときに生まれるのではないかと考えています。ですから、新しいモノをクリエーションするから「起承」が偉いというわけでもなく、アセットを握っているから「転結」が偉いというわけでもないんです。

また、「起承転結」のタイプに、「私は100%『起』だ」とか、「私は100%『転』だ」という人もいないんですね。「起承転結」のうち、どの要素が強いかという話だけです。この「起承転結」の働きを理解しておくと、イノベーションを進めるにあたり、どんな人材が足りないのか、どんな組織をつくっていくべきか、イメージしやすくなります。

この「起承転結」理論を推進するようになったのは、いまから7年ほど前に、次の時代の人材育成について、友人たちとプライベートで話をした機会がきっかけです。その会は、事前に決めたテーマに沿って参加者それぞれが「いちばん面白いと思っている人」を連れてくるというものでした。

そのときに集まった1人のメンバーから提案されたのが、この「起承転結」理論という概念です。「起承転結」を切り口に、人材育成や組織改革を考えたら面白いんじゃないかと盛り上がり、以後、私は7年間ずっとこの理論に従って、自ら新規事業開発や事業の構造改革を進めながら発信し続けてきました。

その後、メンバーの1人であり、大手企業で人材育成や顧客との仕組みづくりをやっていた友人が独立して、起承転結社という会社を立ち上げて、とてもユニークな研修をやりはじめました。いまでは、彼とも連携して「起承転結」理論を広めているというわけです。

名経営者には、「転結」を担う名番頭あり

日本の企業発展の礎を築いた創業者も「起承転結」で分析してみると、多くの創業者を「起承」タイプに分類できます。戦後の焼け野原のなか、「日本を世界と戦える国にする。そのために○○の分野で世界一になるんだ」と熱く夢やロマンを語り、世の中を変えてきました。

日本の企業が面白いのは、「起承」を担う創業者には必ず「転結」を担う番頭さんがおられたことです。トヨタ自動車の豊田佐吉・喜一郎さんには石田退三さんが、ホンダの本田宗一郎さんには藤沢武夫さんが、そしてパナソニックの松下幸之助さんには高橋荒太郎さんが、ソニーグループの井深大さんには盛田昭夫さんという名番頭が、「算盤と実行力」で現場を取り仕切っておられました。

「起」と「承」を兼ね備えた創業者が「新しい軸」を創り、そこから派生したビジネスアイデアを、「転」の人間が指標を策定して、市場を分析し、具体的な事業計画を立てます。そうやって決まった計画を、「結」の人間がQCDを守ってやっていく。そういった仕組みで日本はこれまで成長してきたんですね。

「この領域なら勝てる」というところが見えてくると、その領域に特化した戦略を策定し、リスクをきっちり管理しながら事業を成長させていきます。領域が定まれば、「転結」をきっちり効率的に回し続けていくと利益は増えていきます。

このように創業者が見つけた市場を、「転結」の人材が効率的に回すことで日本の企業は成長してきました。ところが創業者がいなくなり、30年、50年と同じやり方を続けてくると、ビジネスモデルの賞味期限も切れてきます。これまでのように業績指標を策定してリスクの最小化をはかるだけでは、食べていくことができないことがわかってきました。

そこで、新しいことを生み出す「起承」の人材が再び必要になってきたんですね。ここ数年、「イノベーションが必要だ」「デジタルトランスフォーメーションに乗り遅れてはいけない」といったことが叫ばれているのは、「転結」的な従来の事業モデルでは生き残れないというのが本質的な理由なのではないかと思います。

「起承転結社」を立ち上げた私の友人の小柳津誠さんがやっている、1泊2日の「起承転結」理論に沿ったユニークな研修を紹介します。

まず事前に、研修に参加する各人の「起承転結」タイプを分類する「起承転結サーベイ」を受けます。そして、自身の「起承転結」タイプを認識してもらったうえで「Hot Spot研修」が実施されます。彼は、東京ディズニーランド(TDL)のような多くの人々が集まる場所を「Hot Spot」として研修会場に設定します。例えば、TDLであるならば次のような内容になります。

初日はTDLを「1人」で回ります。集合研修ですから参加者は共通体験をすることになるのですが、この研修では「起承転結」のタイプごとに異なる課題が与えられることになります。

「起」の方には、「TDLの新しいアトラクションを企画しよう」。
「承」の方には、「TDLの最適コラボレーション企業を探そう」。
「転」の方には、「TDLおススメ1DAY MAP(カップル編・家族編・おひとりさま編)をデザインしよう」。
「結」の方には、「もっとよくなる! TDLを治療するのはあなた」。

翌日には全員でレビューを行う

そのうえで各課題について気づいたり、感じたりした場所や風景・コメントを、そのつど事務局宛にスマホから送信します。そして翌日は全員でレビューを行います。

この翌日のレビューがこの研修の特徴であり、面白さでもあります。相互に意見交換を行うことで、わかりやすくお互いの「特性」が理解・共有できることになります。さらに、これらの課題はそれぞれが「得意な分野」なだけに、出てくるアウトプットは件数も多くなり質も高くなります。

レビューの場で、お互いに自分で考えるよりもタフで刺激になるアウトプットに出合えるというのは、「起承転結」が相互に大切な存在であることを実感する貴重な機会にもなります。

「起」の先のこと・新しいことを思いつく力、「承」のグランドデザインを描く力、「転」の論理的な思考に強い力、「結」の細かいことも飽きずに精緻に観察する力、それらを同じ風景の中で具体的に理解し合うことで、自然に仲間としてのリスペクトが生まれ、お互いのパフォーマンスを活用する場面がイメージできるようになります。

「起承転結」人材全員でディスカッションすることによって、横通しのダイバーシティーや情報の共有化が起こるので、お互いが触発されて新しいものが生まれます。普通、「研修」というと、例えば「論理分析」がテーマだったら、本人の特性に関係なくすべての人間が論理分析の研修を受けるわけです。

しかし、論理的に考えるよりも、それを超えたところで新しいモノを創造するのが得意な「起」の人材にまでそれを強いるのは、おかしいだろうと。そこで、いまお話ししたような研修をはじめた、と彼は言っていました。理に適った、面白い研修です。