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プレゼンが全然響かない人に通じる残念な共通点

話したいことを並べただけでは伝わらない

プレゼンやスピーチなど「まとまった話」を「確実に相手の心を動かすように」話したい場合、大事な要素は「話すテクニック」3割、「話す内容」5割、「スライドを含めた見せ方などの演出」2割。これらの要素をしっかりと区別して磨くこと、特に話す内容はいったん原稿に書くことが大切であることを、前回お話ししました。

今回はプレゼンの際、重要度5割を占める「話す内容」の磨き方のコツです。

これまで何千件ものビジネスパーソンのプレゼンを仕事で聞いてきましたが、いつも思うのは「調べたこと、言いたいことを、ただ並べただけ」のものが多いなぁということ。例えばこんな感じです。

「今日は、新サービス○○についてお話しします。その前に自己(自社)紹介をさせていただきます。(自分の職歴や部署の変遷、会社の沿革や概要などを数分かけて話す)
次に、○○が生まれた背景とその課題についての現状認識をお話しします。(ここが短くても3分。長いと10分以上のケースも)
では、新サービス○○についてご説明します。(ここが思いのほか短い。3分ほどで終わるケースも)」

何がおかしいの?と思われたでしょうか。もしそうだとしたら、少し注意が必要かもしれません。説明していきましょう。

最初の「新サービス○○についてお話しします」。これはいいんです。問題はその次。「その前に自己(自社)紹介をさせていただきます」。これがダメなんです。

なぜこうなるのか、私は不思議でなりませんでした。プレゼンした人に聞くと

「だってふつう、まず自己紹介は必要ですよね」

こう答えられることがほとんどです。

この「ふつう」が問題なのです。なんとなく、「ここは自己(自社)紹介だよねー」と話しているのではないでしょうか?

聞き手の立場に立ってみましょう。「新サービス○○についてお話しします」と言ったら、次は何を聞きたいと思いますか?

「○○はどういうものなのか」「どれくらい画期的なものなのか」などを、まずはざっくりと説明してほしいはずです。そんな思いを持っている人に、

「その前に、自己(自社)紹介を……」

なんて言われるとどうでしょう。何かはぐらかされた感じがしませんか?

「背景」や「現状認識」を長々話されるのも退屈

そもそもプレゼンターの自己紹介や会社紹介に関心があるでしょうか?

早く本題について話を聞きたいはずです。

同じように、本題に入る前に「背景」や「現状認識」を長々と話されるのも聞き手にとっては退屈です。しかし、話す側にとっては逆。話し手にとって非常に話しやすいのが、この「背景」や「現状認識」なのです。理由は簡単。ちょっとネットを検索すれば、自分が話したい内容に関する事例やデータはすぐ手に入るから。それを話しておけば、もっともらしい話をしているような気分になれるからでしょう。

プレゼンでもスピーチでも大切なのは、最初にひきつける部分、いわゆる「つかみ」があるか、です。「つかむ」ためには、長い自己紹介や現状認識など「余計な前置き」は不要。とにかく最初に、「へー、面白そう。この先も聞いてみたい」と思わせるのです。

そのあと、何の話をどの順番で話すか、いわゆる「話の構成」の正解は、話す内容や聞き手がその時何を求めているかによって、無限にあります。少なくとも、「ふつうはこうだから」といった思考停止の状態で構成を決めることだけは避けるようにしましょう。

構成のしかた、今度はスピーチを例にお話しします。例えば結婚披露宴。スピーチの目的は、新郎新婦のすばらしい人柄を知ってもらい、一緒に門出を祝うというものですね。

そんな披露宴でよくあるスピーチはこんな感じです。

「新郎の○○さんは、大学時代、体育会のラグビー部で一緒に過ごした仲で、非常に責任感が強く、誰にでも優しく、背中で皆を引っ張っていってくれるような男でした。社会人になってからも、忙しいスケジュールを縫って皆が集まれる機会を調整し、毎年同窓会の幹事をやってくれるなど、面倒見のいい男で……」

確かに、「責任感がある」「誰にでも優しい」「皆を背中で引っ張る」「面倒見がいい」なんて、すばらしい人物であることはわかります。でも、何かが足りない……。

「広く浅く」ではなく「狭く深く」

それは「具体性」です。「責任感がある」などの特性、特徴を表すことばは、なんとなくイメージは浮かびますがぼんやりしていませんか。だって、世の中に「責任感がある人」はいくらでもいますから。ここは、やはりその人ならではの性質としての具体的な説明が必要なのです。

もちろんその説明のためには時間が必要です。そうなると、ほかの「誰にでも優しい」「皆を背中で引っ張る」「面倒見がいい」などが時間的に言えなくなります。どうすればいいのか。

私ならこうします。彼の人柄でいちばん伝えたいことが「責任感がある」ということなら、そのほかの特徴を伝えるのをきっぱりあきらめるのです。そのかわり、「責任感がある」ことを、具体的な例を出しながら丁寧に語っていくようにします。「責任感がある」と感じたのは、どんな場面だったのか。そこで彼は何を話し、どんな行動をとったのか。そこに自分が感動したのは何が原因だったのか……。自分で実際に見聞きし、心が動いたのですからきっと語れるはずです。そうすることで、ほかの誰でもない「責任感がある」彼の物語が語れるのです。

「責任感がある」「誰にでも優しい」「皆を背中で引っ張る」「面倒見がいい」など、こんなにいいところがたくさんあるなんて素敵! なんて思う方も中にはいるかもしれません。

しかし、誰にでも言えるような浅いことばをたくさん並べるよりも、その人を最もよく表した性質に絞って、その話を具体的に深く説明していく。こちらのほうが、聞いている人の心にひびくスピーチになることは間違いありません。

「広く浅く」ではなく、「狭く深く」語っていくのが有効なのは、ビジネスのプレゼンでもいえることです。もちろん、全体像や定量的なデータを示すことが基本的に大切であることは言うまでもありません。そうした客観的な情報が聞き手の論理的な部分に訴えるものだとすると、狭く深く具体的に語っていくのは、聞き手の感情の部分にふれるやり方です。ビジネスでは特に、この2つの方法をうまく使いこなす必要があります。

感情を動かすカギ=エピソードの語り方

たとえば、社内での新商品の提案。街角でお客さまにアンケートを行った結果をプレゼンするとしましょう。よくあるプレゼンはこんな形ではないでしょうか。

「駅前のスーパーでアンケートを行いました。こちらの円グラフをご覧ください。答えてくれたのは20代から40代の主婦50人。実に67%の方がパッケージをほめてくれました」

客観的データとして理解できますね。そこにこんなエピソードを入れたらどうでしょう。

「私、スーパーのレジ横で商品を持ってたんです。そうしたら赤ちゃんを抱っこした20代くらいのお母さんが来たんです。その方、私の持っていたパッケージを見て、『これいいわね。これだったら赤ちゃんが間違って飲み込まないから』って言って、すっとひと箱買ってくれたんです。ほかにも『手が汚れなくて使いやすいそうね』とか『買い置きしておいてもデザインがかわいいから邪魔にならないかもね』と話す人もいたんです。パッケージを手にとってほめてくれる人が2時間で17人もいたんですよ!」

頭の中に情景がありありと浮かんできませんか。これができると数値では出せない説得力が生まれます。エピソードを語るときのコツは、次の3つ。

 

①自分のいた場所やそこで何をしていたかなど状況説明する

②その場に出てくる人の様子、動きなどを実況描写する

③実際に行われた会話を再現する

この要素と順番を意識してエピソードを語るようにすると、聞き手の頭の中にイメージがわきやすくなります。昔話の話の始まりも①から始まりますよね。そして話が展開するにつれ、②と③が入ってくる。これがストーリーに没入させる最もシンプルな形なのです。

心を動かすプレゼンやスピーチをするには、とにかく聞き手の気持ちになること。聞き手の脳内に「具体的なイメージを見せる」こと。これが大切なのです。