幸福感の高い人とそうでもない人の間の意外な差

「脈拍」が上がると気分が上向く

体を動かすことは、身体にとってだけでなく、メンタルにも非常にいい効果があります。「体を動かす」といっても、激しい運動でなく、地下鉄の駅でエスカレーターを使わず階段を登るくらいの運動量でOK。事実、地下鉄のホームから地上に上がってきた数百人を調査したところ、階段を使った人ほど幸福感が高く前向きな気持ちである傾向にありました。

とはいえ、「すでにポジティブな気分だった人が階段を登る余力があった」可能性もあります。そこで、ストックホルム中央駅でランダムに通行人に近づき、その場で、あるいは一緒に歩きながら幸福度を調査すると、歩きながら受け答えをした人のほうが平均して少し幸せな気分になっていました。

階段を上ったり少し歩いたりするだけで幸福感が上がるのは、「心拍数」の上昇が関係します。

ある研究で、被験者に幸せな記憶を思い出してもらったり、感動系の映画を観てもらったりしたところ、幸福度の上昇に合わせて心拍数が上がることが判明しました。

幸福を感じると心拍数が上がる――これは逆方向には作用しないでしょうか?

そこで100人ほどの被験者に、心拍数が上がったり下がったりするようにさまざまな負荷をかけた状態でエアロバイクを漕いでもらい、1〜10の数字に丸をつける形で幸福感を調査したところ(数字が大きいほど幸福度が高い)、心拍数が高いときほど大きい数字を選んでいました。心拍数を高めれば幸福感も比例して上がる結果が出たのです。

加えて、体温も、メンタルに関係します。

研究者が被験者の顔や指で体温を測定したところ、陽気な気分のときのほうが体温はやや高いことがわかりました。心拍数と同様、体温も逆方向に作用します。

高齢者の運動を調査した研究では、どんな運動でも幸福感は増したのですが、なかでも水泳のときの増加率が最も低く(体温が最も低い)、ウェイトトレーニングで増加率が最も高くなり(体温が最も高い)、散歩はその中間という結果になりました。

数々の「いいホルモン」が分泌される

運動はホルモン分泌とも関係します。体を動かすと、エンドルフィンやドーパミンなど「幸せホルモン」と呼ばれるホルモンが一斉に分泌されます。また、体の成長や修復を担う「成長ホルモン」や心地よい睡眠に欠かせない「セロトニン」の分泌も促進されます。心身にとって様々な側面でプラスに働く「いい物質」が分泌されるのです。

また、すぐにはっきりと効果が出るのも運動の嬉しいポイント。1万7000人のカナダ人の運動習慣を15年にわたり測定した調査によると、1日あたりの平均運動量が上がると幸福度が上がり、運動量が下がると幸福度も下がることが示されました。

携帯電話に速度センサーを取り付け、どれだけ動いたかを測定したスウェーデンの調査でも同様の結果が出ています。前述の1〜10の数字に丸をつける幸福度調査を1日のランダムな時間に行い、調査の数字と携帯電話の動きを調べると、直前に動いていたときのほうが平均して少し高い数字に丸をつけていたのです。

とはいえ、日中体を動かす時間を確保するのが難しい人も多いでしょう。

そんな人にぜひお伝えしたいのですが、運動とメンタルの関係において、「場所」や「時間」は重要ではありません。

通勤でさえ、心を前向きにする時間に変えられる

あるスウェーデンの研究では、徒歩など運動をともなう通勤であれば、通勤時間が長いほうがより幸せな気分になることが判明しています。通勤でさえ、心を前向きにする時間に変えることができるのです。

毎日どこかで、エスカレーターやエレベーターではなく、階段を使うのはどうでしょう? なかなか普段運動する時間が取れない人でも、オフィス内を少し歩き回るだけで心が前向きになるのを感じられるはずです。

Joy of movement――「運動による喜び」は、あらゆる形で、毎日簡単に補給することができます。

「運動する気が起きない」という人は、運動と気持ちの順番を逆にして、「体を動かせば気持ちが上がる」と思ってほしいと思います。頭を空っぽにして、とにかくまず体を動かすのが賢明です。

スウェーデンをはじめ、デンマーク、韓国、イラン、そのほかさまざまな国の研究で、年齢に関わらず、体が元気になることで心も元気になることは証明された事実です。体を動かすことほど、効果と即効性を兼ね備えた「心を前向きにする方法」はないと言えるでしょう。