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「社員150人」超えで効率性や結束力が下がる理由

コンサルやベンチャーが直面する「150人の壁」

コンサルティング会社などのプロフェッショナルファームは、社員数が150人を超えると分裂などが起こりうまくいかなくなるといわれてきました。

また、ベンチャー企業も社員150人くらいまでなら創業者の力だけで引っ張ってこられますが、それを超えたあたりから経営をシステマチックなものに変えることが必要だと、多くの経験者は語っています。

なぜ150人が限界なのでしょうか。

現代人とほぼ同じ大きさの脳をもっていた弱いホモ・サピエンスは、体が大きく強い敵からの攻撃を防ぐため、そして食糧を効率よく見つけるため、比較的大きな集団で守り合って生活する必要がありました。その集団の規模が約150人だったそうです。

イギリスの人類学者ロビン・ダンバーは、人類の歴史上のさまざまな集団を調べ、最も密に協調し合える集団の上限は約150人であることを発見しました。この数を超えると結束力や効率性が低下し始めるといいます。ちなみに、現代に暮らす狩猟採集民の村の平均的人数もやはり150人程度だそうです。この人数には「ダンバー数」という呼び名がついており、集団の基本単位と考えることもできます。

ホモ・サピエンスが登場したのは20万年前。そして約7万年前、ホモ・サピエンスは大きな変革を遂げました。言語をもったのです。面白いのは、言語をもったために情報処理量が増大しその結果脳が大きくなったのではなく、先に脳が大型化しその後に言語をもったことです。

では、なぜ脳が大きくなったのか。霊長類ではそれぞれ種がつくる集団が大きくなればなるほど、脳に占める新皮質の比率が増え、脳容量も大きくなると考えられています(これを社会脳仮説といいます)。日常的に接する仲間の数が増えるほど集団内の個体間の関係が複雑になり、それを処理するために脳が大きくなる必要があったのでしょう。

ヒトが噂話好きなのはホモ・サピエンスの時代から?

われわれ現代人が、職場で関わる人が増えれば増えるほど人間関係で悩まされ、気苦労が増えるのと同じかもしれません。現代のサラリーマンが会社の愚痴や噂話で盛り上がるように、ホモ・サピエンスも仲間同士で愚痴や噂話をしていたのかもしれません。

居酒屋で酔っぱらいながら上司や部下の噂話で盛り上がる現代のサラリーマンの姿は、いつの時代にも見られます。また井戸端会議にも代表されるように、男女問わず私たちは噂話をしています。なぜ私たちはそれほどまでに、噂話がやめられないのでしょうか。

実は人類進化のターニングポイントである言語能力の獲得は、そうした噂話をするためだったと考えられています。生存率を高める150人程度の集団で生活するためには、家族以外の誰が味方になり、誰が敵になりうるかといった情報が非常に貴重になります。誰が信頼できるかの情報が得られれば、比較的大きな集団に属しても安心できるわけです。こうして、情報収集のうえで緊密な個体間関係を結び、協力し合うことで生き延びてきました。

また、私たちは噂話と同様に、視線によっても他者とコミュニケーションをとっています。

「目は口ほどに物を言う」といいますが、相手の眼の動きや変化を捉えることで感情や思考を推し量っています。それもやはり、ホモ・サピエンスから延々と続く性質です。他人のことを気にする人類は、言語だけでなく白目もつくり出したと考えられています。人類は、眼裂(がんれつ)を横に広げて黒目の左右に白目が見えるようになりました。これは人類固有の特徴です。

ところで、ベンチャー企業などが成長し、ダンバー数(150人)を超えるような規模になる際には組織としての脱皮が必要になります。1つはハード面の整備。それまで、なんとなく接ぎ木のようにしてできあがっていた社内のルールを、より精緻化することが必要になります。いろいろな社員が増えてくるので、評価や報酬、役割定義といった人事制度をより性悪説に基づいたものにつくり変えたり、部門の業績をよりくわしく把握するために部門会計システムを導入したり、さまざまなルールによる統制を強化します。

しかし、それでは社員の気持ちはだんだん離れてしまいます。「自由に楽しく仕事していたのに、なんだかルールに縛られて何のためにこの会社で働いているのかわからない。チームの仲間と仕事すること自体は面白いんだけど」という声が聞かれるようになります。

集団が150人を超える

そこでソフト面の脱皮も必要になります。それまで創業時のエネルギーが社内に伝わって、社員もそれを肌で感じ同じ方向を向いていたのが、新しい社員も増えてそうもいかなくなってくる。

そこで、あらためて会社の意味を確認し、明文化が必要になります。

たとえば、幹部が合宿して企業ビジョンや「わが社のバリュー」をつくったり、それをリトリート(都会から離れた、隠れ家的な場所)などで全社員に理解してもらうイベントを開いたり、バラバラになりがちな気持ちをつなぐ「何か」を創出する必要に迫られます。つくるのは概念であり、いわば「幻想」なのです。ですが、幻想だけに社員が共感さえできればどれだけ社員が増えても接着剤となりえます。この段階の経営者には、そうした幻想をつくり共感を得る能力が求められます。

人類も同じでした。目に見えないものを表現し共有するために、言語が使われるようになりました。神話や信仰、掟といった抽象概念を人類は獲得し集団内で共有するようになって、はじめてダンバー数の150人を超える集団を形成することができるようになったのです。

150人を超えてしまうと、人が多すぎて噂話だけでは信頼できるかどうかわからなくなります。しかし他人であっても、同じ信仰をもつ仲間であると認識できれば協力することもできます。ある概念を共有することで、相互依存関係を結べるようになったため、一気に集団は拡大していきました。

複数の集団を重複構造で束ねる「組織」もこうして発生しました。このように人類は、遺伝的進化のみならず文化的進化をも遂げてきました。最も重要なのは、人類は集団なくして生き残ることはできないということです。それゆえ、集団内での関係性がとても大切になります。関係性を良好に保つために、言語を使って噂話をしたり、視線を使って意図を読み取ったり発したりして、コミュニケーションをとるようになります。

そして、さらにより強くなるために集団の規模を大きくしようとしました。そこで使ったのが言語による共同幻想です。モノではなく、概念で多くの人々をつなぐ技術を進化させました。それが現在の組織の起源なのです。