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新規事業に苦戦する人々がわかってない失敗法則

ビジネスモデルを具現化する

新規性の壁を乗り越え、素晴らしいビジネスモデルを描き切り、関係者からも大きな期待を受けて鳴り物入りで始めたものの、実際にやってみると赤字が続き、ほどなく打ち切ったという話をよく聞く。やってみて想定外の状況に直面した、都度対応しているうちに推進チームもチームを支える上層部も疲れてしまい、打ち切りになってしまうこともある。

ビジネスモデルは大きく3つの要素、戦い方(価値提供)、ケイパビリティ、商品・サービス体系が精密機械のように関連しあっていることを前回お話しした。

戦い方(価値提供)、ケイパビリティ、そして商品・サービスの3つが一貫性をもってお互いを支えあうときにビジネスモデルは利益を生むようになる。とはいえ、実現されないビジネスモデルは価値を生むことはない。新しいビジネスモデルの具現化フェーズも簡単ではない。やってみないとわからない、そして、やりきらないといけないのである。

しかし、ご安心あれ、ここにも対応策はある。

新規事業に取り組むのにはいくつもの理由がありうる。この理由や背景を明確にし、どの程度の成果を期待するのか、そして、どの程度の投資や時間を要するのかを明確にする。

前提条件を明確にする

まず、常に新しい事業を模索して取り組み続ける場合。社内ベンチャープログラムに積極的なケースがこれに該当する。一定のKPIによる投資やスピンオフの方針を決めておく。これにより関係者も取り組みの方向性が明確になる。(新築型)

次に、本業の今後の行く末が明るくないとわかっている際に、移行先のビジネスを立ち上げて準備しておく場合。この場合、新規事業を実現するチームは独立してビジネスを立ち上げていくが、ある程度の時間軸を想定しつつ、旧来の事業からの主役交代を目指す。(別棟建て増し・引っ越し型)

最後に、本業は残るものの大きな変革をしないといけない場合。従来の本業に取り組みつつ、同じ組織が従来の事業と連携しつつ全体として新たなビジネスモデルを目指す。実現においてはいちばん難易度が高いケースである。新しいビジネスモデルの構築と、従来のビジネスモデルの変革が同時に起きなくてはならないからである。チーム全体に然るべき 危機感とビジョンが共有されていなければならない。(改築型)

大きく以上の3の目的、役割を明確にすることで相応の体制、進め方を確保し、想定される期待値で取り組むことが重要である。短期的に成果を期待するものと、我慢して長期的に大きく育てなくてはならないものとでは取り組み方が異なる。この切り分けを明確にすることで、本来であれば試行錯誤しつつ続けるべきであった、あるいは、早期に撤収するべきであったという後悔が少なくなる。

新規事業にもトレンドはある。例えば、サービス化やソリューション化、PaaS (Product as a Service)、SaaS(Software as a Service)、MaaS(Mobility as a Service)など多くの略語もある。あるいは、デジタルビジネスに関連して、プラットフォーム化、DTC(Direct to Consumer)などもある。

 

わが社も流行りに乗ってと新規事業化を志向するが、元来商品を販売することを中心に事業を構築してきた場合、急にサービスで身を立てろと言われても難しい。また、従来顔の見えている法人を相手にしてきたのに、急に個人の消費者向けのビジネスをするのも大きな変化である。儲けの型が全く異なるからである。この場合、多くの新しいケイパビリティの構築が必要となる。その時に強い味方になるのは、自社のカルチャーである。

カルチャーを活かす

企業文化やカルチャーというと、新規事業や事業の変革においては変革するべき対象として語られることが多い。実際、伝統ある企業においては特に、新しいことに挑戦する、あるいは、顧客と正面から向き合うという新しい行動を喚起していくことは必要であろう。

しかし、その企業が長年継続してきた土台となってきた企業文化は大きな味方になりうる。質実剛健な文化、何事も楽しくやりたい文化、研究熱心な文化、多様な企業文化がありうる。これらは深く組織に根付いているだけに、ビジネスモデルの構築において、そして何より実現において上手に活用することができれば新しいビジネスモデルの実現を本質的な取り組みとすることができる。

逆に、自社のカルチャーと本質的に相いれないビジネスモデルを実現させようとするのはあまり得策ではない。どうしても必要な場合には、従来の組織とは別の新しい組織によって新規事業を実現させることを検討するのが良い。

ビジネスモデルの実現は、可能な限りビジネスモデルの設計に関わったメンバーが望ましい。また、同時に、さまざまなバックグラウンド、経験を持つメンバーを選びたい。パーパスで結束する多様性のある組織は強いからである。

新しいことを始めるのには大変なエネルギーが必要である。超えなくてはならない難題も多い。その難題を超えるためには、ビジネスモデルへの思い入れや熱意があると大変に強い。例えば、自らやりきることができると確信するビジネスモデルを構築し、自らその実現に関わることができれば心強い。これだけでビジネスモデルの質は格段に上がるだけではなく、パーパスでもある価値提供の背景や思いで結束したチームでの取り組みができるようになるからである。

何が起きるかわからないなら多様性が大事

また、新規事業の立ち上げはやってみないとわからないことだらけである。さまざまなバックグランド、経験、性質を持つメンバーをそろえることで、その対応の幅は広がる。やるべきことがある程度決まっており、早く確実に正確に進めることが重要なのであれば、機械のように互いに「あ・うん」の呼吸で動くことができるチームが力を発揮するかもしれない。

しかし、何が起きるのかわからない中では、多様性(ダイバーシティ)が力を発揮する。何が起きても何らかの知恵があるからである。従来の経験や得意分野、年齢、人種、性別などの属性、色々な個人が互いに尊敬しあってパーパスで結びつき、チームとして一体となったときに、大きな成果を上げることができるチームが完成する。

実務上は、大きな方針を決めた後に、ビジネスモデルの構築に関わった役職者の庇護の元、実際にビジネスを長く担っていく若手に具体的な推進を任せるというアプローチがあろう。昨今、I&D(インクルージョン&ダイバーシティ)の取り組みの機運が高まるが、この動きは本質的な個の多様性の取り組みにまで昇華させることができれば、組織の実行力を大きく拡大させる期待が持てる。

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最後に、ビジネスモデルの実現においても柔軟、臨機応変であることは重要である。少しやってみる、起こったことを見つめて一歩引いて修正点を考える、これを繰り返す。これを繰り返しているうちに、気づいたら新規の事業が立ち上がっているはずである。