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データで検証「IT就職」は本当に自由で稼げるのか

2021年も早いもので終わりに差し掛かってきた。この2年間、コロナ禍によって世の中は大きく変わってしまった。若者の就職に対する考え方、環境もそれ以上に大きく変わったと言える。

筆者はUZUZという会社で、20代の若者向けに就業支援を行っている。現場で就業支援に携わっていると、にわかにIT就職のニーズが上昇していると感じる。

9月30日の配信記事「コロナ禍で急増している「未経験IT就職」の実態」でも言及しているが、IT業界の業績はコロナ禍でも好調で、就職希望者が増えている。

IT企業への就職希望者が増えている

UZUZは、コロナ禍の2021年6月12日~8月3日にかけて、既卒、第二新卒といった若者計866人を対象に、「IT業界への志望意欲」を調査した。その結果、就業経験のない既卒では51.0%、3年以内の就業経験がある第二新卒では50.5%が「意欲が上がった・どちらかと言えば上がった」と回答している。

この背景としては、次のようなことが考えられる。

安定性を求めて、コロナ禍で業績が悪化した業界からの転職が増えている
エンジニアのような「手に職がつく仕事」に就くことで、安定したキャリアを手に入れたいと考えている
IT分野は現在もニーズがあり、今後の成長性も高いと期待している

IT就職がこれからの時代に合っており、安定したキャリアを手に入れるためには有効な手段であることは筆者も賛成だ。ただ、現場で感じている違和感がある。それは、IT就職に対するイメージが実態とずれている点だ。

IT就職を希望している未経験者と話すと、「誰でもなれる」「稼げる」「自由な働き方ができる」というイメージが強い。採用現場で就業支援をしていると、決してこのようなイメージ通りにはなっていない現状がある。

「ITエンジニア」と一言で言っても、さまざまな職種があり、未経験者をほとんど採用していない職種、未経験者は新卒枠のみというものもある。年収も、未経験者として就職した場合、そこまで高くない。リモートワークを期待して就職を希望する人も多いが、入社時点からリモートワークできる職場も限られている。

このような「IT就職のイメージギャップ」が生じてしまうのは、SNSやネット上で情報収集していることが関係していると思う。ITスクールやインフルエンサーが発信している情報には、「商業的に誇張されている情報」も多く、実態とは異なるイメージを抱いてしまう人もいる。IT就職の実態を把握し、現実的な就職活動を行うことが就業後のミスマッチを避けることにもつながると考えている。

この記事では、そのようなギャップを解消するため、現役エンジニア102人にアンケートを取ったデータを基に、IT就職の実態を解説していく。

【アンケート調査概要】
調査対象人数:102人
・調査対象者の職種(複数回答):フロントエンドエンジニア55.9%、サーバーエンジニア65.7%、スマホアプリ開発16.7%、インフラエンジニア27.5%、データベースエンジニア27.5%、その他2.0%
・調査対象者の雇用形態(副業等による複数回答を含む):正社員49.0%、フリーランス・副業55.9%、経営者9.8%、派遣社員・契約社員4.9%、アルバイト2.0%
・調査対象者の経験年数:3年未満12.7%、3~5年13.7%、5~10年12.8%、10年以上60.8%

「誰でもなれる」が、事前学習は必要

ITエンジニアには「誰でもなれる」という情報をよく目にする。たしかに未経験者向けの求人があることからもそれは事実だと言える。未経験者の採用は、新卒枠ではほぼすべての職種が対象、中途枠ではインフラエンジニアのような職種で採用が活発だ。

ただ、「誰でもなれる」とは言っても、就職するためには「ITの専門学習」が必要となる。さすがに人手不足とはいえ、全く勉強もしていない未経験者を採用してくれる企業はまれで、学習をしていないと入社後のミスマッチの懸念もあり、企業は採用を見送るケースが多い。

IT就職のための学習時間として、最も多かった学習時間は「週35時間以上(31.4%)」だった。一方、「勉強したことはなかった(8.8%)」「3時間未満(11.8%)」「3時間以上~6時間未満(14.7%)」と回答している人も一定数いる。これは「そもそも勉強が得意な高学歴」や「大学などでIT分野を専攻した人」が多く含まれていると考えられる。現場で未経験者向けのIT就職を支援していると、事前学習せずに内定を獲得できている人はほとんどいない。

また、学習方法として最も多かった回答(複数回答)は「書籍(77.5%)」となっており、YouTubeを中心とした「動画学習(eラーニング)」が普及しているとはいえ、やはり書籍を使った学習スタイルが大半を占めている。

これは幼少期より書籍(教科書)を使って勉強してきたことからの慣れもあるが、Webサービスや動画だと「情報が流れてしまう(頭に残らない)」ことも影響していると感じる。やはり、自分のペースで学習を進める上では書籍のような情報が流れず、書き込める媒体が適しているようだ。

一方、学習方法として「プログラミングスクール(11.8%)」と回答した人は、思ったより少ない印象だ。エンジニア経験5~10年の方の場合、当時はプログラミングスクール自体がまだ少なかったこともあるが、スクールを利用した就職率がそこまで高くない可能性もある(未経験者が就職しづらい分野の学習コースが巷には多く存在している)。

次に、IT就職を目指す人にとって最も気になる「年収」はどうだろうか? 結論から言うと、ITエンジニアが「稼げる」というのは、事実だ。

調査対象者のほとんどがエンジニア歴5~10年以上とはいえ、3分の2が年収450万円以上稼ぎ、750万円以上と回答した人が、全体の約3割もいる。

ただし、ITエンジニアが就職した当初から高年収だったかというと、そうでもない。エンジニアとなった初年度の年収は、「250~350万円(34.4%)」が最も多く、次に多いのは「350~450万円(31.1%)」となった。最初から稼げるわけではないが、年収は着実に上がり、5~10年で平均年収を超えることは十分可能だと言える。

リモートワークが「できる」労働環境

最後に「自由な働き方」というイメージについて検証してみる。「自由な働き方」が指す働き方は多岐にわたるが、ここでは求職者が「自由な働き方」を希望する場合に最も該当することが多い「リモートワーク」について考える。

ITエンジニアと言えば、たしかにリモートワークで働いている人が多い。アンケート結果を見ても、「フルリモートで働いている」と回答した人は71.6%を占めており、「部分的なリモート」まで含めると実に90%以上に達する。

しかし、現場で就業支援をしていると、この調査結果と実態は異なる。未経験者として入社した場合、業務レベルが低いため、出社勤務で働くケースが大半を占める。

また、未経験者を新人として受け入れる場合、教育が必要となる。座学での研修もあるが、社員育成のほとんどはOJT(On-the-Job Training、現場での実務訓練)となる。その場合、教育担当社員とコミュニケーションが取りやすい環境で働いてもらうほうが効果的なため、自ずと出社となるケースが多くなる。

ちなみに、昨年のコロナ禍では感染対策が十分取れない状況から、新入社員でもフルリモートで働いている人が多くいた。しかしフルリモートでは、質問がなかなかできず、上司や先輩のフォローも不十分となってしまったことから、短期離職となるケースも見られた。一概に最初からリモートで働くことがよいとは言えない側面もある。

アンケート調査の結果を軸に、現場を通じて得られるIT就職の補足情報を追加すると、次のような考察となる。

未経験者を対象とした求人も多く、「誰でもなれる」のは事実。
・ただし、年齢制限(多くは20代、インフラエンジニアの場合資格を保有していれば35歳まで)もあり、限られた未経験枠を勝ち取るためには、事前学習によるアピール材料の確保が重要。
学習する場合は、「書籍」が最も有効。Webサービス、プログラミングスクール、YouTubeといった学習ツールを補完的に使うこともおすすめ。
エンジニア経験を積めば、平均年収を大きく超えることは可能であり、「稼げる」のは事実。
ただし、初年度の年収は平均年収と比較しても突出して高いわけではない(経験が浅い状態で稼げるわけではないが、経験を積んでいけば確実に上昇)。
リモートワークが普及していたり、フリーランスとして働いている人も多く、「自由な働き方ができる」のは事実。
入社当初からリモートワークできる環境はまれ(入社後の定着やOJTを考慮するとリモートワークにもデメリットが)。

このように、働く人にとってメリットが多い「IT就職」ではあるが、どのように活動すれば就職できるのか? その人の経歴によって就職難易度も変わるため、成功方法を一概に提示することは難しいが、一般的な就職活動ノウハウを解説したい。

年齢やキャリアで狙う分野を絞る

① 自身の経歴を考慮して、就職率が高い求人分野に絞る

IT就職と言ってもさまざまな職種がある。プログラマー、SE、Webエンジニア、インフラエンジニア、アプリ開発エンジニア。職種キーワードを挙げ出したらキリがない。

大きな分け方としては、その人の年齢、専攻分野によって分かれる。専攻分野というのは、「情報工学」や「IT」を大学や専門学校で専攻していたかどうかということだ。もちろんこのようなIT就職に関連した専攻を取っていれば就職率は高くなる。

年齢においては、次のような対応方針がおすすめだ。

20代前半:どの分野でも可能性があるので、興味がある分野に絞って事前学習を実施(その分野の就活における資格の有効性を調べてみて、有効性があるなら取得を目指す)。
20代後半:人気がある「Web系エンジニア」などは避け、就職倍率が低い分野に絞る(就職メリットがあっても目立たない分野を探す)。
30代前半:専門資格を取得して「インフラエンジニア」に絞る
30代後半以降:書類選考通過率がかなり低いので、年齢制限がない「ITエンジニア」全般に応募する(分野をあえて絞らない)。
②目標を決めて、自分に合ったツールで事前学習

就職を目指す求人分野が決まったら、次にやることは事前学習だ。事前学習を行う目的は、「選考時のアピール材料を作る」「最低限の職業適性チェックをする」ことだ。

 

選考において、未経験者がアピールできる材料は限られる。「実務経験」がない分、ポテンシャルで判断されてしまうため、「学歴」「年齢」「コミュニケーション能力」といった要素で判断されてしまう。しかし、これらの評価要素は努力で変えることが難しいため、事前学習を行うことで「専門知識(入社後の教育コストを削減できる)」をアピールすることが有効な手段となりうる。

また、一定の事前学習が済んだ人であれば、学習分野に対する「アレルギー反応(勉強してみたら合わない)」を起こさなかったことは判断できる。そのため、入社後の短期離職リスクを減らしたい採用企業側にとって、事前学習を行うことは安心材料となる。

事前学習をする際には、どのような方法で学習を進めるのかもよく考える必要がある。勉強に対してモチベーションが湧かないという人も多く、自分に合わないやり方を採用してしまうと、結果が出ないことで、すぐに学習を止めてしまう。

最後におすすめの学習ツールを紹介する。各ツールを実際に試してみて、自分に合う勉強方法を探り当ててほしい。

自分にあった勉強方法を選ぶ

■参考書

資格取得を目標とするのであれば、資格試験対策本を購入して学習。資格試験対策本が難しいと感じる人は、「◯日でわかる」「初心者向け」といったタイトル、かつイラスト解説が多い初級者向け参考書も合わせて利用するのがおすすめだ。

■動画学習

UdemyやYouTubeで公開されている動画教材も初心者向けにはおすすめだ。書籍よりも学習内容をイメージで捉えやすく、文字で知識を理解することに苦手意識がある人にとっては学習しやすい。UZUZでもIT学習動画を公開しており、評価も高いので、これからIT学習を始める方には利用してもらいたい。

■ITスクール/メンターサービス

費用をかけてでも短期間で学習を進めたいのであればITスクールも有効な手段だ。ただし、スクールを選ぶ際に注意したいのは、「就職率が高い分野のコースがあるか?」という点だ。

ITスクールの中には「就職が目的」ではなく「受講生獲得が目的」となっているコースを提供しているところもあり、せっかくお金と時間を掛けても就職できないなんてケースがある(受講料が80~100万円のITスクールもある)。UZUZでも就職率の高い「インフラエンジニア」「プログラマー/SE」を目指すITスクールを運営している。

ITスクールとは少し異なるが、「MENTA」のようなメンタリングサービスを利用すれば、現役エンジニアから学習サポートだけでなく、IT就職のアドバイスをもらうこともできる。

このように、コロナ禍で盛り上がっている「IT就職」。就職を目指す人にはしっかりと「分野の選定」と「事前学習」を実践して、「稼げ」て「自由な働き方」ができるIT就職を成功させてほしい。