子どもつい正解へと導いてしまう親に欠けた視点

親が子どもに与える2つの影響

「子どもの心は、〝植えるな、耕せ〞」

子育てに悩んでいる人は、今日からこれを意識して子どもに接してみてください。多くのケースで、子育てがうまく回り始めるはずです。

では、具体的にどういうことか、説明していきましょう。

子育てにおいて、親が子どもに与えられる影響には2種類あります。1つは、知識や制限、禁止事項、マナーなど、親の頭の中にあるものを、子どもに植え付けることです。これをここでは、「(親が子どもに)植え付ける」と言います。

もう1つは、子どもが発した何かしらの表現を、親が受け止め、共感や反応として、子どもにフィードバックすることです。これを「(子どもの心の畑を)耕す」といいます。

あなたの子どもの心の中に、1つの畑をイメージしてみてください。

その畑(子どもの心)の「土の豊かさ、軟らかさ」というのが、その子の今の、そして将来の、「生きやすさ」になります。他方で、その畑に植えられている植物は、その子が生きるためのツール(道具)にすぎません。

ところが、多くの親は子どもに対して、自分が望む植物(ツール)を植え付けようと躍起です。なぜなら、その親自身のセンスで選んだ植物が植えられているほうが、わが子が生きやすくなるだろうと、思っているからです。

でも実は、人の「生きやすさ」というのは、そういう仕組みではありません。人の生きやすさは、あくまでも、その人の「心の畑の軟らかさ」のことであり、その上に植え付けられた植物は、その人が社会で生きるための道具にすぎません。

そして、この点が最も重要なのですが、この畑というのは、他人によって、強制的に「植え付け」られると、そのたびに、どんどん干上がって硬くなり、生きづらさはどんどん増していき、どんな種類の植物も育たなくなってしまうのです。

しかし、世の中の多くの親は、そのようには考えていないと思います。わが子が発する子どもじみた意見をわずらわしく思い、それを無視して、自らが考える正解を、子どもに「植え付け」たくなるのです。

まるで、粘土細工をつくるように、自分の好みに合わせて、子どもという作品をつくろうとし、それによって子どもの見た目は親好みになっていきます。親がそれに満足する一方で、人知れず生きづらさを増していく子どもたちはたくさんいます。

「植え付け」は子どもの心を硬くする

もちろん、「植える」行為が一概にダメなわけではありません。それどころか、実際には「植え付け」が必要な場面はたくさんあります。

例えば、道路を歩いているときは車の前に飛び出さないように、その怖さを植え付けないといけないし、お菓子ばかりを食べていると体を壊してしまうことも、ある程度の学問も、日本の文化や慣習も、植え付ける必要があります。

こういう知識やセンスを植え付けないと、その子が将来的に生きづらくなるのも確かです。ただし、そのときは親として、次の点をつねに意識しておきましょう。

「その子が、今のあなたの年齢になるころ、あなたは何歳になっていて、世の中の環境や、人々のライフスタイルが、どのくらい変化していると思いますか? それでもなお、あなたはそのセンスをわが子に植え付けますか?」

あなたが普段から、この点を明確にイメージし、自覚しておけば、そのつど、「子どもの心の畑が干上がるリスクを冒してでも、そして、私自身の膨大な労力を費やしてでも、この考えを子どもに植え付けるべきかどうか?」という判断がつきやすくなると思います。

とにかく重要なことは、大人から子どもへの「植え付け」は、子どもの心の畑を干上がらせ、硬くしてしまうリスクがあるということです。そして、それらの「植え付け」は、いつでも必要なときに子ども自身でも習得できるし、友達や学校の先生でも、可能だということです。

変化の激しい世の中では、自分という畑に植え付けられる植物は、時代や環境の変化に合わせてコロコロと植え替えることができるようにしておくことのほうが重要で、植え替えるためには、土台となる「心の畑の豊かさ、軟軟性」をつくっておく必要があります。

ここまで、「耕し子育て」が子どもを生きやすくすると説明してきました。ここからは、「耕し子育て」の枠組みとなる「放牧システム」について解説していきます。「放牧システム」とは、文字どおり「放牧」をするように子どもを育てる方法です。

日々、子どもに対するしつけとして親が細かいことをいちいち指図するのではなく、子どもの生活全般を、あなたが定める「守るべき最小限のルール」で囲ったうえで、「このルールの中でなら、好きに育ってよし!」というスタンスをとって、子どもを自由にさせながら、親子ともどもストレスなく過ごす子育てスタイルです。

このときの、あなたが定める「子どもに守らせる最小限のルール」のことを、放牧システムでは、「柵」と呼びます。

「柵」の役割

この「柵」とは、例えば、「保育園には行きます」「お昼寝はします」「おやつはこの量です」「夜は〇時までには寝ます」など、子どもの安全と、家庭の秩序と、母親自身の精神を守るために設定する、わが子に守らせるべき最小限のルールのことです。

こうした「柵」として定めたルールだけは、明確に子どもに守らせますが、それ以外は基本的に、子どもに対してそれ以上の技術を身に付けさせようとしたり、何かの能力を伸ばそうとしたりはしません。

あなたが定めた柵(ルール)の中にいる限り、子どもがどう成長するかは、基本的に子ども自身に任せながら、親であるあなたは、ただただ温かく見守ったり、肯定的なリアクションをしたり、時間があれば一緒にふざけたり遊んだりしながら楽しく過ごします。

そうすることで、子どものメンタルは驚くほど安定していき、親子関係がよくなるとともに、子どもの心は耕され、自己肯定感の高い、生きやすい体質へと成長していきます。その結果、その子は、自分に必要な能力を自分の意思と自分の力によって向上させられる人になっていきます。

このことは、今までずっと「“私”この子に生き方を教え込まなきゃ!」と焦りながら、必死で「植え付け子育て」をしていた人にとっては、直観的に理解しにくいことかもしれません。でも実は、これにはカラクリがあるのです。

そもそも人間は、持って生まれた「適性」がそれぞれ違います。だから、どういう能力が伸びるのか、また、どういう伸ばし方をしたら伸びるのかも、その人によって違います。それは当然、あなたの子どもも同じで、その子自身の適性に合った能力を、適性に合ったやり方で伸ばしてあげないと、能力も才能もうまく伸びません。

だから子どもの能力や才能を伸ばすためには、親であるあなたが焦って、子どもにあれこれ強引に「植え付け」ようとするよりも、まずはできるだけその子に自由を与えながら、本人の「適性」をあぶり出してあげるほうが、あなた自身の子育てがラクになるだけでなく、子どもの成長にとってもはるかに効率がいいのです。

また、子どもが自由に育つ様子を見守ることで、その子独自の「特徴」や「適性」が見えてきて、その能力や才能を伸ばしてあげやすくなります。

しかも、あなたの放牧する姿勢によって、子どもの心はどんどん耕され、学習に対する「吸収力」も上がるので、結果的に、その子自身の力によって、必要な知識も吸収できるようになっていきます。