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「攻めの経営」ばかり説く社長が会社を潰す必然

「PL思考」から「BS思考へ」

「PL思考」というのは、会社を経営するときにPLを重視することです。PLはProfit and Lossの略で損益計算書に表されます。BS思考は、BSを重視することです。BSはBalance Sheetの略で貸借対照表に表されます。

多くの経営者はPL思考が中心なので、あまりBSを気にしていません。PLも重要ですが、会社の守備力を上げていくためには、BSを重視するほうにシフトしていかないといけません。BSを意識することが守りを強化していきます。

PLは、たまたま偶然、いい年があったりします。しかし、BSはごまかしようがなく、偶然でいい状態にすることは不可能です。「PLに偶然は、ある」けれども「BSに偶然は、ない」のです。

ですから、BSをいい状態に持っていける経営者が本当に優秀な経営者です。一時的な成功者はPLしか見ていませんが、成功し続ける経営者はBS思考です。

まずは、BSのことを正しく知るところから始めましょう。PLとBSでは、下の図のような違いがあります。

BSは「資産の目録」とも言えます。自社がどんな資産を持っていて、その資産の元になった資金の出所が明確にされています。

下の図のように、左側に資産、右側に資産の元になった資金の調達方法(原資)が表されていて、左側の資産と右側の調達元の合計が同じになるようになっています。左と右の合計が同じになってバランスが取れるようになるのでバランスシート(BS)と呼ばれます。

BSで最初に着目すべき4つの領域

PLとのつながりは、次の図のようにPLで最終的に会社に残った税引き後の最終利益が利益剰余金として④の直接資本の中に入ってきます。

 

BSで最初に着目すべきなのはこの図の4つの領域です。

① 流動資産
② 固定資産
③ 他人資本(負債)
④ 直接資本(純資産)

 

これらの4つの領域で自社のBSの優劣がわかります。会社としての「地力」がわかるとも言っていいでしょう。

BSのいい例は次の図です。変化の激しい時代は、このように「流動資産が多くて、直接資本が多い」状態が大事です。

資産が多くあっても、土地建物などの固定資産が多ければ、それらはすぐに現金化できません。変化の激しい時代は即時対応が求められますから、素早く現金に交換できて必要な資産を買えないといけません。

守りを固めるためには流動性も重要です。昨日の成功の方程式が、今日、通用しなくなったりするからです。そんなときは、素早く新しく必要になった設備などを購入して、新しい方法に挑戦していかないといけません。ですから、売りにくいものを資産として持っていても防衛資産にはならないのです。

また借金よりは、自前のお金で資産を用意できたほうがいいので、この図のように③負債よりも④純資産が多くなっている状態がいいです。

BSが「悪い状態」とは?

反対に悪い状態は、この図の反対になることです。固定資産が多くあって、借入金(負債)も多くあるようなパターンです。こうなると自由に動ける幅が狭く、ピンチに対応するにしても時間がかかります。

一度、自社の「BSがどのような状態なのか?」を、これら4つの領域のバランスで分析してみてください。 

「経営はスピードが大事」という話を聞いたことがあると思いますが、このスピードには、2つの意味があります。

1つめは、変化のない一定の条件下という安定した環境の中で、車がスタートから400メートルの間に「最高時速何キロメートル出すことができるのか?」というスピードです。こちらは大企業的なスピードと言えるかもしれません。

会社に必要なのは、スピードではなく、アジリティー

もうひとつは、そのときの状況に応じて「最も適した形に俊敏に変化していく」スピードのことで、「アジリティー」と言います。中小企業ではスピードではなくアジリティーが重要です。

端的に言うと、スピードは「一定の方向で、速い」ことで、アジリティーは「変化度が大きくて、早い」ことです。

変化する可変性の高さと、クイックな早さというのは、会社経営において強い武器になるということです。アジリティーは中小企業が大企業に勝てる少ない要素の1つでもあります。ですから、この要素は「守り」としても重要ですし、「攻め」としても重要なことです。

大企業にアジリティーを求めるのは、とても難しいです。船を想像してもらえるとわかりやすいですが、大きな船は簡単には方向転換できません。大型タンカーなどであれば15分もかかることはザラです。しかし、数人で乗っているようなモーターボートやヨットであれば、方向転換は一瞬のうちにできてしまいます。

同じ方向で、どれくらい速いかということであれば、大企業には絶対に勝てないです。しかし、行動するのを早く、大胆に大きく変化するという点では、中小企業のほうが有利です。ですから、社会の変化によって新しく生まれた市場を、大企業がもたもたしている間に中小企業が獲得できる可能性は高いのです。

大企業は「速い」です。そのスピードでは勝負できません。中小企業は「早さ」と「大胆さ」で勝負することです。アジリティーを大切な行動原則の1つとして持ってもらえたらと思います。

以上のことは、基本中の基本ではあります。しかし、それが徹底されていない企業がほとんどだということも事実です。ぜひ皆さんもご自分の企業の「守り」について、いま一度見直してみてください。