従来の仮想通貨ブームと「NFT」の決定的な違い

この1年で大きく話題となっているNFT。ユーキャン新語・流行語大賞候補でも「SDG's」「ジェンダー平等」「Z世代」「フェムテック」といったキーワードに並んで「NFT」がノミネートされるなど、認知が広がってきました。

2020年に約300億円程度だった市場規模も2021年9月までに約1.5兆円を超えたとされ、通年では6〜7倍の成長を遂げつつあります。

はじめはデジタルアーティストBeepleの作品が約75億円で落札されたことや、Twitterの創業者であるジャック・ドーシーの初めてのツイートに2億円の価値がつくなど著名人の参加による話題性で火がついたように見えますが、小学3年生が夏休みの自由研究として作ったドット絵が約80万円で売買されるなど、それだけではない可能性を感じさせます。

しかし一方で、拡大し続けるNFTの売買に対して2018年の「暗号資産(仮想通貨)」ブームを彷彿とさせ、投機バブルなのではないかと懸念する声も聞こえてきます。たしかに、アメリカの調査会社ガートナーによる「先進テクノロジのハイプ・サイクル:2021年」では「過度な期待期」の最高潮にあるとも指摘されています。

IT大手だけでなく出版業界やアーティストも参入

新興市場では、たいてい無名の企業や個人発のプロジェクトが乱立し、既存企業の多くは一歩引いて静観していることが多かったように思われます。

ところがNFTの場合では、早い段階からGMOや楽天、メルカリ、mixiといったIT大手企業だけでなく、村上隆や小室哲哉、Perfumeなどの著名アーティスト、出版業界からは集英社や講談社、トーハン、ゲーム業界からはスクウェア・エニックス、スポーツ業界からもNBAやNFL、欧州サッカーリーグなど、参入が相次いでいます。

こういった動きを踏まえると、一過性のブームで終わるのではなく、今後定着していく新しいテクノロジーが想像を超えるスピードで普及している過程とも考えられます。

NFTとは「Non-Fungible Token(非代替性トークン)」の略称で、ブロックチェーン上のデジタル資産の一種です。ビットコインなどで知られる暗号資産の兄弟のような存在とも言えます。

NFTを活用することで、本来いくらでもコピーできるデジタルデータに替えの効かない固有の識別情報を持たせ、希少性や唯一性を与えることが可能です。

暗号資産とNFTの違いは代替性、つまり「取り替えが効くか否か」と説明されることが一般的です。この違いについて私たちが日常的に利用するお金で考えてみましょう。

皆さんの財布の中に1000円札が10枚あるとしましょう。単に支払手段としてコンビニやお店などで利用する場合は、どの1000円札を使おうとも違いは生まれないかと思います。しかし、その10枚のそれぞれのお札の識別番号や発行年度に着目すると、10枚それぞれが代替がきかない唯一無二のものとなります。

とくに、識別番号がゾロ目であったり発行年度が元号の変わり目である場合などは、希少性が高くコレクションとして額面以上の価値を持つことがあります。

しかしそういった違いは、デジタルの世界では判別がつかないのが現状です。例えば、古典の名作小説をアナログな本として手に入れようとする場合、初版本には高い希少価値がつきます。

一方、電子書籍で購入する場合、それが初版であろうとなかろうと金額は変わりません。同じ情報が載っている媒体であっても、アナログかデジタルかで消費者が感じる価値がまったく異なるのです。

NFTがデジタルデータに希少価値を持たせられる理由

アナログの世界では、限定生産のブランド品、宛名とサイン入りのグッズ、オーダーメイドの衣装などのように、非代替性を生かした商品が多数取り扱われています。

こういったアナログな購入体験をデジタルの世界にももたらすものが、NFTといえるでしょう。NFTを活用することで、本来いくらでもコピーできるデジタルデータに替えの効かない固有の識別情報を持たせ、希少性や唯一性を与えることが可能です。

流通・在庫コストも低く、さらに国内外を問わずグローバルに流通し、誰もが平等に購入できるデジタルデータとしてのメリットも備えています。

まさにアナログとデジタルのいいとこどりを実現する技術なのです。

さらにNFTを活用すると売買に関わる複雑な処理をあらかじめプログラムしておくことが可能です。例えば、中古本が売買された場合に、二次流通では出版元や作者への還元するのは困難です。

しかし、NFTの場合は「制作元へ販売額の10%の利益を自動支払する」という条件を設定しその通り実行できます。これは従来のバリューチェーンに対して大きなインパクトがあります。これもNFT活用の魅力といえるでしょう。

まるで「ビックリマンシール」のデジタル版

以下では、そんなアナログとデジタルのいいとこ取りを実現するNFTのユースケースを見ていきましょう。

現在、NFTの中心的ジャンルは「コレクティブアイテム」です。これは言わば「プロ野球カード」や「ビックリマンシール」のデジタル版のような商品です。NFTブームの牽引役となった「NBA Top Shot」もこの最たる事例です。

NBA Top Shotは、アメリカのプロバスケットリーグのスーパープレイシーンをショートムービー単位でNFT化したもので、従来のカード紙面では実現できない迫力ある表現となっています。また、ローンチ時からグローバル展開を実現し、何十万人のバスケットボールファンがサービスを利用しています。

これをゲーム的に発展させたものが「Sorare」という事例です。Sorareは「パワプロ」や「サカつく」といったゲームと同様に実在選手のIPを利用するスポーツゲームです。最近では、ソフトバンクがリード投資家となり約745億円の資金調達を達成したことでも話題になりました。

スペインのリーガ・エスパニョーラやドイツのブンデスリーガなど、世界140以上のサッカークラブとライセンス提携を行い、実在の選手データをNFT化して試合結果をシミュレーションし勝敗を争うことができます。

ゲーム業界のユースケースで興味深いのは「どうぶつの森」や「マインクラフト」のような箱庭(メタバース)で遊ぶサービスです。直近では「The Sandbox」というNFTゲームプラットフォームが約100億円の資金調達を実現しています。

メタバースゲームではプレイヤーが所有する「土地」や「惑星」がNFTとして販売されます。The Sandboxの場合、プレイヤーは土地の中で3D CADのようなエディタを利用し、さまざまなアイテムや建物、モンスターなどをクラフトでき、これらをNFTとして他のプレイヤーに販売することも可能です。

日本では豊富なコンテンツを保有するIPホルダーが続々とNFTへの参入を表明しています。ゲーム事業者のカプコンやスクウェア・エニックス、セガ、バンダイナムコらが自社IPを利用したNFTの販売を発表しました。

出版業界では、メディアドゥとトーハンが雑誌や書籍とセットで提供する付録としてアイドルの写真などをNFT化し、リアルな書籍のマーケティングにデジタルなNFTを組み合わせています。

音楽業界では、著名アーティストの取り組みのほかにも、さまざまなアーティストが楽曲とアートワークを組み合わせた限定作品のNFTをファンに直接販売できる「次世代の音楽レーベル」のようなNFTサービスが誕生しています。

このように、デジタル表現の魅力や流通性を利用してアナログコンテンツの再発明を図るものや、アナログの専売特許だったリアリティや実利を伴う体験をデジタルの世界で再現するものなど、双方の穴を補うように長所をかけ合わせたユースケースが誕生しています。

NFTブームが起こった背景にあるもの

実際のところNFTブームの原動力の1つは、2020年にPayPalの参入などをきっかけに増加した暗号資産投資家が「利便性」や「価値の実感」を求めた結果、多額の資金がNFTに流れ込んだことにあります。

もう1つの原動力は、さまざまな業界がコロナ禍の影響を受け、現実の顧客接点の喪失や流通逼迫によるコスト増大などの事情から、既存のアナログな商流をデジタル化する必要に迫られたことです。そのため、アナログに近い取り扱いが可能なデジタルデータとしてのNFTの魅力に注目が集まりました。

デジタルとアナログの隙間、どちらとも異なるちょうどいい場所に、NFTがあったこと。それが以前の暗号資産ブームとNFTとの違いであり、2021年のNFTブームの正体ではないでしょうか。