間違った情報を信じ込む人に決定的に欠ける視点

「Aを原因として、Bが結果として表れる」という原因と結果が特定される結びつき、これが因果関係です。「Aの結果、Bが起きる」と明確に言い切れる関係です。

対して相関関係は、「AとBの間に何らかの関係が見られる」関係。「Aが増えた結果、Bも増えた」というように、Aは必ずしもBの原因とは限りません。「なんらかの関係がある」ことを示しているだけなのに、私たちはそこにないはずの「因果関係」を認め、しばしば事実を誤認します。

「コウノトリ・ベビー」神話のカラクリ

「コウノトリが赤ちゃんを運んでくる」言い伝えはその一例です。根拠のない神話かと思いきや、データを取るとたしかに「コウノトリが屋根にたくさん巣を作る家には、子だくさんの家族が住んでいる」傾向が見られます。

コウノトリが巣を作る家に住む家族は、子どもが多い――この事実から「子だくさんの原因=コウノトリ」と導かれ、有名な「コウノトリが赤ちゃんを運んでくる」説が生まれました。一見、順序立っているようですが、この説の裏にあるものこそ、因果関係と相関関係の混同です。

当然ながら、コウノトリは赤ちゃんを運びません。コウノトリと赤ちゃんの数の間には相関関係はありますが、因果関係はありません。

この現象を起こしているのは、「家のサイズ」。家が大きければ、そこに住む家族は大所帯、つまり子どもの数は多くなります。そして、この話はヨーロッパ由来で、大きな家にはたくさん煙突があります。コウノトリは煙突に巣を作るので、大きな家ほど巣の数も増える。結果、子だくさんの家族は大きな家に住み、屋根の煙突にはコウノトリが巣を作る。これがカラクリです。

こういった「つながりがあるように見える」現象から、実に多くの間違った結論や推論を私たちは生み出します。因果関係と勘違いしやすい相関関係は、大きく3つのタイプに分類することができます。

① ただの偶然

あるレシピ本に載っている50種類の食材を医学研究アーカイブ「PubMed」で調べたところ、うち40種類は1つかそれ以上の研究で「がんのリスクを高める」とも「がんのリスクを下げる」とも言われていました。たとえば、ある研究ではワインは体に良いとなっているのに、別の研究ではワインは飲まないほうがいいとされている、という具合です。

この矛盾を解くのが、「研究結果は、ただの偶然だった」可能性です。

2010年のサッカーW杯で話題になった予言ダコ・パウルを覚えているでしょうか? 対戦するチームの国旗が描かれた箱を2つ並べて餌を入れたところ、パウルが最初に餌を食べた箱の国が次の試合で必ず勝利し、8試合すべての勝敗を的中させたのです。

予言ダコとして世間を騒がせましたが、単に運がよかっただけだとしたら? 8試合すべての結果を的中させる確率は、コインを8回投げてすべて表になる確率と同じで256分の1、0.4%です。かなり低い確率ですが、ロトを当てる確率はこれよりも20万倍ほど低く、4500万回に1回です。

とはいえロトに必ず当選者がいるように、どんなものであっても、調べる対象や回数を増やせば何らかの結果に行き当たります。ただひたすら探し続ければ、たいてい何らかの関係が見つかるのです。つまり、ある食材を何度も調べると、「がんにいい」という結果になることもあれば、「悪い」結果が出ることもある、ということです。

偶然の相関関係は、一見関係のなさそうなもの同士の間でしばしば見つかります。たとえば、「1年間でプールで溺れる人の数」は「ニコラス・ケイジ主演映画の公開本数」とほぼ相関します。「アメリカにおけるチーズ消費量の増減」も、「ベッドシーツに絡まって死亡する人の増減」と恐ろしいほど一致します。

これらはナンセンスでファニーな相関関係ですが、「ただの偶然である」可能性を頭から排除してしまうと、まったく因果関係のない現象に強い結びつきを勝手に作り出してしまうこともあるので、注意が必要です。

② 「原因は1つ」という思い込み

因果関係と相関関係を混同する2つ目のケースは、「原因と結果の両方に影響を与える第3の要素を見落としていた」場合です。

先ほどの「コウノトリ神話」では、「広い屋根」という要素が見落とされていました。家が大きく屋根が広いから大家族が住み、広い屋根だからコウノトリが巣をたくさん作れる、つまり「大家族」と「コウノトリ」をつなぐ第3の存在「大きな屋根」がこの関係を解く鍵だったわけです。

2015年、オランダで行われた乳がん研究でこの「見落とし」が起き、人々の混乱を招きました。3万7000人の乳がん患者を対象にした研究で、乳房温存手術を選んだ患者(放射線療法を組み合わせることが多い)は、乳房切除術を選んだ患者より長生きする傾向があると判明すると、オランダ乳がん協会には心配した女性から問い合わせが殺到。「乳房切除術を選んだのは間違いだった?」「放射線療法を選ぶべきだった?」という心配の声が相次ぎました。

しかし、研究者たちはのちに「因果関係を発見したわけではない」と弁解しています。たとえば、ある患者に乳がん以外の病気もあれば(心臓病など)、乳房切除術が選ばれる可能性が高くなります。心臓病ですでに弱っている体では、過酷な放射線療法に耐えるのは難しいからです。

乳房切除の集団の生存率が低いのは、手術そのものが原因ではなく、そもそも「健康状態が悪かった」のが原因の可能性があるのです。

「ただの偶然」「別の原因の見落とし」で因果関係と相関関係を見誤るケースを見てきましたが、もう1つ、気をつけるべきポイントがあります。次のシーンを想像してください。

雨が降っていると、傘を差している人をたくさん見かけます。この現象から、「傘が雨の原因になっている」という結論は導けるでしょうか?

もちろんそんなことはありません。雨が原因で人は傘を差します。これが3つ目の混同要因、「原因と結果を逆に見る」パターンです。

③ 「原因」と「結果」が逆

原因と結果の関係は、「雨と傘」のようにいつでもはっきりしているとは限りません。

お金持ちがたくさん株を持っている場合、その人は株を持っているおかげでお金持ちになったのでしょうか? それとも、お金持ちだから株をたくさん買うことができたのでしょうか? どちらの可能性もあります。どちらが原因で、どちらが結果でもおかしくありません。

また、肥満は健康に良くないとされますが、一方で太っているほうが「標準体重」の人より長生きだという研究結果もあります。「肥満パラドックス」と呼ばれる現象で、脂肪には体を守る何らかの役割があると唱える研究者もいます。

しかし、ある視点が抜けています。「病気になると体重が減る」という見方です。低体重が不健康の原因になっているのではなく、不健康だから低体重なのではないか――この考えのもと、2015年に体重減少を調整した研究が行われた結果、不健康が低体重につながるという因果関係が確認されました。

相関関係があるからといって必ずしも因果関係が証明されるわけではありません。その関係は単なる偶然かもしれないし、何か欠けている要素があるかもしれないし、あるいは原因と結果が逆になっているかもしれません。

因果関係と決めてかかる前に、

・両者のつながりがまったくの「偶然」である可能性は?
・「他の要素」が関係していないか?
・原因と結果が「逆」になっている可能性は?

の3つを意識してほしいと思います。