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ヒットが出ない人に教えたい「リサーチの仕方」

商品サービスは素晴らしさが伝わってこない

「もったいない……」

あるクライアントに自社の商品を紹介してもらったときに思ったことです。非常に画期的な商品であることは間違いのですが、その価値やよさを誰に届けたいのか、まったく伝わってこなかったのです。だからこそ「もったいない……」と思ってしまったのです。

現在、私は、広告代理店のマーケティング部署に所属しています。そこではクライアントの商品やサービスを売るための戦略づくりをしています。このとき、最も必要となるのが「リサーチ」のスキルです。

マーケティングに必要なリサーチとは、一言でいうと、ヒットをつくるための「調べ方」です。マーケティング活動は、このリサーチを起点にしてビジネスを伸ばすことだといっても過言ではありません。つまり、ビジネスを成功させるためのリサーチなのです。

ただ、今でこそクライアント業務の傍ら、毎年、新入社員向けにマーケティングリサーチを指導している私ですが、初めからこのリサーチが得意だったわけではありません。むしろ、入社当初は、ド文系でろくにエクセルも使ったことがなく、リサーチは大の苦手分野だったのです。

入社直後は、「ネットで情報を拾うくらいなら私にでもできる」、そう高を括っていました。しかし、実際に業務にあたるようになると、その考えは脆くも崩れ去りました。

業務に関わる情報を集めようとすると、なぜか上手くいかないのです。膨大な情報の山に埋もれ、何からどう調べればいいのか皆目、見当がつかなかったのです。時間とお金をかけても何も見つからないということが多々ありました。

2日がかりで情報を調べたのに…

入社してから間もない頃、とある商品に関連する情報を集めるよう先輩から指示がありました。ネット検索で引っかかったサイトを中心にとりあえず情報をかき集めました。

よかれと思い、2日間ほどかけてかなりの量の情報を集めました。しかし、やっとの思いで集めたその情報を先輩に提出したとき、「これ、全然、使えない。こんなにたくさんの情報、どうやって使うつもりだったの?」、そう突っ返されてしまったのです。

情報を自分なりに絞り込んで集めたこともあったのですが、「で、そのデータから何が言えるの?」、そう先輩に突っ込まれ、何も返答できないことも一度や二度ではありませんでした。

「このままでは、仕事が回ってこなくなるかもしれない……」

調べ方が未熟であるがために仕事が減っていくかもしれないという恐怖が私を襲うようになったのです。調べ方1つでクライアントの商品やサービスの命運を左右してしまう可能性が大きい業務だったこともあり、調べることに対するストレスやプレッシャーが日増しに大きくなっていきました。「この状況をどうにか変えないといけない……」、意を決し、リサーチのスキルを一から身につけることにしました。まず、学生時代からやっていた自己流の調べ方をいったんすべて忘れることにしました。

そして、成果をバンバン出している社内の先輩からひたすら教えを乞いました。とにかくビジネスの現場で成果を上げることだけに特化した調べ方を徹底的に磨き上げたのです。

その中で見出したのが、ヒットを生み出すリサーチの「2つの視点」だったのです。この視点を持つことで、高確率で商品やサービスをヒットさせられる、いいスタートを切れることがわかったのです。その視点というのが以下の2つです。

視点① ターゲット:商品やサービスを買ってくれるお客さん
 視点② セールスポイント:買い手(=ターゲット)の「買いたい欲求」に刺さる商品やサービスのポイント

ヒットしている商品は、適切な「ターゲット」と「セールスポイント」が明確に設定されています。一方、売れない商品は、「ターゲット」がズレているか、「セールスポイント」がズレているか、その両方がズレていることが多いことがわかりました。

だからこそ、適切な「ターゲット」「セールスポイント」を明確にするためのリサーチ手法を突き詰めたのです。そして、「ターゲット」「セールスポイント」を明確にするためのフレームワークを開発するに至りました。

なんとなくの感覚で「仮説」を立てる

次図が、「ターゲット」と「セールスポイント」を明確にするリサーチのフレームワークです。

まず、Step1で「なんとなくの感覚」で構わないので、「ターゲット」と「セールスポイント」がどのようなものか「仮説」を出します。仮説がない情報は無駄打ちになります。ここで出した仮説から、リサーチによって「明らかにしたいこと」を設定し、リサーチの「手段」を決めていきます。

次に、Step2のようなサイクルで、その仮説を検証・ブラッシュアップします。具体的には、商品やサービスに関わる「最新の情報」に絞って調べます。職場の机でパソコンを開いたりして調べる「デスクリサーチ」、実際に商品が並べられている現場に赴いたりサービスを体験したりする「フィールドワーク」があります。これは1人でもできるリサーチです。

ここで得られた情報を使って、「ターゲット」と「セールスポイント」にズレがないかを検証します。例えば、ある食品において「ターゲットは30~40代女性」と仮説を立てていたけど、調べてみたところ「本当のターゲットは20代女性かもしれない」のように、仮説をブラッシュアップします。

その後に、今度は多様な人に話を聞きます。これは、「ターゲット」に該当しそうな人にインタビューやアンケート調査を行います。ここでは主に、「どこがターゲットに刺さるポイントか?」を検証します。

例えば、「美容に良い」と仮説を立てていたけど、調査をするうちに、「免疫力が高まることのほう刺さるポイントかも!」のように仮説をブラッシュアップしていくのです。

最後に、Step3で、その仮説を「打ち手」として実行に移すのです。

たかが「調べ方」を磨く重要性

このフレームワークに沿ってリサーチを行うことで、「なんとなくの感覚」から生まれた「ターゲット」「セールスポイント」がどんどん明確になり、その結果、ヒットを量産できるようになるのです。

このようなリサーチができるようになってからというもの、商品やサービスをヒットさせられる提案ができるようになりました。例えば、益若つばささんがプロデュースしている老舗化粧品メーカーコージー本舗さんのブランド「DOLLYWINK」が2019年に発売した「10秒マツエク」(新部分用つけまつげ「EASY LASH」)は通常8万個売れたらヒットと言われる中、発売1カ月で30万個の売上を記録しました。

ビジネスで成果をあげることを最優先に考え、フレームワークに沿って調べさえすれば、正しい「ターゲット」「セールスポイント」を設定することがきます。ド文系でエクセルすら使えなかった私でも、ヒットを生み出すリサーチ技術を身につけることができたのです。つまり、誰でもビジネスを成功させるためのリサーチ技術は習得できるはずです。

たかが「調べ方」かもしれません。ただ、その「調べ方」が上達するだけで、「ターゲット」「セールスポイント」を明確にすることができます。その結果、商品やサービスの本来の価値を、届けたい人に伝えられるようになるのです。それって、素晴らしいことではないでしょうか?

ぜひ、「調べ方」を磨き、あなたの商品やサービスを、本当に必要としている人に届けてください。