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圧倒的に「食える」仕事なのに満足度が低い理由

データサイエンティストといえば、以前は「社内で育成」が中心だった。データサイエンティストを外部から招集しても、分析の精度だけを追い求めてしまい、あまり成果につながらないことが多かったからだ。自社ビジネスを理解している社員に、データサイエンスを教えることで、人材を確保しようとしていたのだ。

しかし、最近では、社内での人材確保に限界を感じ「中途採用」に軸足が移っている。データサイエンスやエンジニアリングの専門知識を持つ外部の人材に対して、自社ビジネスを教えた方が効率的と考える企業が増えている。

転職市場で”引く手あまた”のデータサイエンティストなら、希望通りの企業を選べ、さぞかし仕事の満足度も高いだろう、と思うかもしれない。しかし、意外と実情はそうではない。

高い将来性、低い満足度

一般社団法人データサイエンティスト協会の調査結果によると、データサイエンティストが業務に対して「将来性を感じている」割合は81%と高い水準になっている。特に若年のデータサイエンティストで将来性を感じている割合が高く、若者たちが、データサイエンスという武器を使って、自らがビジネスを変えていけるという手応えを感じている。

一方、現役のデータサイエンティストが現在の業務に満足している割合は42%にすぎない。データサイエンティストの平均年収については700万円台という推計結果もあり、一般的な職種と比べると高い水準にある。にもかかわらず、業務の満足度は低い水準だ。

満足度の低さの原因は何なのか。先ほどの調査によると、現役のデータサイエンティストが困っていることとして“3つのない”があるという。「手本がない」「上司の理解がない」「スキルアップのための時間がない」だ。

「手本がない」 データサイエンティストという職種の歴史は浅く、社内にロールモデルがいない。どのような仕事をすべきか、どのような役割をすべきなのか、手本となるデータサイエンティストがいない。

 

「上司の理解がない」 データサイエンス業務という専門性・特殊性を管理職が理解していない。自身でデータサイエンスを経験してこなかった上司も多く、データ処理や精度向上に莫大な時間がかかることなどが理解されない。

 

「スキルアップのための時間がない」 データサイエンスの分野は技術革新の途上であり、アップデートされる情報に追いつくために時間がかかる。分析手法やアルゴリズムなどの最新情報を幅広く収集するための時間がない。

3つの「ない」は、いずれも、データサイエンティストという職種が新しく、かつ、専門性が高いことに起因している。新しいアルゴリズムの革新性を上司に説明しても、結局、ビジネスにどれぐらい寄与するのかだけを問われて、まったく理解されないという悩みを聞くことも多い。

データサイエンティストの仕事≠「データ分析」

さらに、データサイエンティストと企業の間の意識ギャップも問題だ。例えば、マーケティング関連のデータサイエンスを担当する目的で採用されたものの、工場ラインの最適化を担当することになった話をきいたことがある。企業側としては、データサイエンスという点では同じで、短期間で成果を出しやすい業務の担当に変えたという程度の認識かもしれない。

しかし、データを分析することがデータサイエンティストの仕事ではない。結果として、担当業務が変わったことで、データサイエンティストのモチベーションが大きく低下してしまうことになった。

 

企業としては報酬という形だけではなく、データサイエンティストの高いモチベーションに応えることが重要だ。データサイエンスに対する企業側のビジョンを明確にし、本人たちが望むデータサイエンスの機会を提供することが重要になってくる。

データサイエンティストを集めた全社横断的な組織を作る日本企業も増えてきた。ヤフーの「サイエンス統括本部」や、日立製作所の「Lumadaデータサイエンスラボ」などだ。ノウハウ、人材、技術を1つの部署に集約することで、データサイエンスを高度化しようという意識がうかがえる。

一方、企業として受け皿は用意したものの有名無実化している場合も多い。データを分析することだけを考えたり、現場の意識と離れたR&Dを繰り返すなど、組織として浮いてしまうこともある。ただデータサイエンスの組織を作っただけでは機能しない。企業側には、ミッションをはっきりとさせたデータサイエンスの組織づくりが求められる。

結局「基礎知識」は全社員に必要

「データサイエンスの民主化」という言葉をご存知だろうか。これからのビジネスを考える上で、データサイエンスは一部の人にだけ必要な能力ではなく、全社員がデータ活用に取り組むことができるようにすべきという考え方だ。博士号をもつ一人のデータサイエンティストだけが必要なわけではなく、多くの社員が基礎的なデータ分析ができるようになることを求めるものだ。

データサイエンスの民主化が進めば、データサイエンティストの採用ではなく、社内の人材育成・教育が重要になってくる。全社員がデータサイエンスの基礎知識を持つことができるように社内教育できる仕組みが必要になるのだ。

日本の場合、最終学歴の理系比率を見た場合に、欧米諸国と比べると低い水準にある。そのため、データサイエンスと聞くだけで、「私は文系なので」とか「数式は苦手なので」と毛嫌いする人が多い。このような人たちに、データサイエンスは特別なものではなく、データをもとに客観的に考えるという基本的な概念を浸透させることは至難の業だ。しかし、データサイエンスを社内に浸透させるためには避けて通れない道なのだ。

データサイエンスで企業を変えるためには、優秀な人材の確保と、社内リテラシーの底上げの2点が必要となる。底上げがなければ、優秀なデータサイエンティストを採用しても意味がないのだ。