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背が伸びない中高生に多い「NGな睡眠習慣」の中身

背を伸ばすために必要なのは、「背、伸びなさい」と命令する成長ホルモンと甲状腺ホルモンです。これらを順調に出すために欠かせないのが栄養と睡眠です。今回は睡眠の話をしましょう。

成長ホルモン分泌に必要な「闇の時間」

私たちの脳は、昼と夜の繰り返しの中で進化してきました。このため、光と闇のスイッチが脳の中にあるのです。そのスイッチをうまく作動させないと、必要なホルモンが分泌されません。成長ホルモンは、「闇のスイッチ」で分泌が順調になります。夜は、まぶたを閉じて眠る。これが、高身長への第一歩となります。

ホルモンの中枢司令塔である、脳の下垂体や視床下部は、視神経の先端を取り囲むようにして格納されています。視神経に直結しているのです。目(網膜)に光が当たれば、視神経は緊張し、目が暗さの中にあれば、視神経は緊張から緩和されます。この視神経の緊張と緊張緩和が、ホルモンの中枢司令塔に刺激を与えて、そのときにふさわしいホルモンの分泌へと切り替わるのです。

真夜中、目が光の刺激から解放されると、成長ホルモンへ分泌命令が出されます。

つまり、「真夜中、ちゃんと寝ること」。こんなあたりまえの生活習慣が、背を伸ばすための必要条件となります。「寝る子は育つ」は、科学的にも真実なのです。

そもそも、中学生は眠いはず。何時間だって眠れるし、寝ても寝てもまだ眠い。身長が伸びようとしているとき、脳は「まぶたを閉じて、闇のスイッチを入れてほしい」からです。

しかし、現代の生活では、自分を律して死守しないと、この条件がクリアできません。手元に「明るい光を発する画素で構成された画面がクルクル動く」、あまりにもおもしろい道具=スマホがあるのですから。

闇のスイッチが最も入りやすいのは、真夜中てっぺんの4時間(22時~2時)といわれています。受験生ともなれば22時に寝るというわけにはいかないでしょうけれど、22時を過ぎたら電子機器を見ることは最小限に自粛して、0時就寝を目ざしてほしい。せめて、塾のない日にはそうしてほしいと思います。

そして、たまには強化週間を作り、23時就寝を!

上質な眠りにこだわろう

さて、「真夜中、闇のスイッチ」が作動し、分泌命令が出るのは、成長ホルモンだけではありません。上質の眠りをつくり出すメラトニンも、「真夜中、闇のスイッチ」がいちばん効きます。メラトニンは、上質の眠りをつくり出すとともに、脳の進化を助けます。

実は、脳は、眠っている間に進化します。起きている間の経験(勉強した成果や、運動で体が覚えたこと)を脳に定着させ、センスを作り上げるのも、眠っている間なのです。起きている間に脳に叩き込んだことは、眠っている間に定着します。眠りの質が悪ければ、せっかく100回書いた英単語が、するりと脳から抜け落ちてしまう。

眠りの質がよければ、ちらりと見た英単語を覚えておけるのに。眠りの質は、脳の質。身長のみならず、頭のよさも、眠りがつくり出します。眠りをバカにしていると、たいへんなことになります。

22時以降は電子機器を凝視することを控えて、0時にはまぶたを閉じる。これに、人生がかかっていると思って。

また、夜のお風呂習慣(バスタブにつかる)も、メラトニンの分泌を促進することがわかっています。体表面の温度を一気に40度以上に上げると、脳の内部や内臓の温度を必要以上に上げないために(脳や内臓は高温に弱いから)、深部体温が下がります。これがきっかけとなって、神経回路が興奮系から鎮静系へと切り替わります。眠りへと向かいやすくなるわけですね。さらに、「真夜中、闇のスイッチ」は、生殖ホルモンにも関わっています。

真夜中、ゲームやSNSに興じて眠らないと損をすることばかり。それって、人生を懸けてすることかしら? まぁ、たまにはいいけどね。

朝日が網膜に当たると、セロトニンと呼ばれるホルモンの分泌が促進されます。朝日は、目にとって特別な光です。朝日は東からさしてきます。地球は東に向かって自転しているので、朝日には光のドップラー効果が加わります。

救急車のサイレンは、向かってくるときには高く(ピーポー)、遠ざかっていくときには低く聞こえますね(ヘ~ホ~)。あれと同じ現象が光にも起こっているのです。朝日は緊張度が高く、脳を目覚めさせる大事なスイッチというわけ。セロトニンは、脳内全体の信号を活性化し、さわやかな寝覚めをもたらすとともに、一日中、意欲を下支えし、脳の学習能力を高めます。生きる力の源となるホルモンなのです。

朝寝坊して、朝日を見逃すなんて、本当にもったいない。また、セロトニンは、上質な眠りをつくり出すホルモン・メラトニンの材料にもなります。早起きすれば、夜、自然に眠くなる。「早寝、早起き」とよくいいますが、科学的には「早起き、早寝」でワンセットです。

13~17歳の過ごし方が重要

先に述べたように、「背、伸びなさい」と命令する成長ホルモンと甲状腺ホルモンがしっかり効いていてはじめて、背が伸びる可能性を手にします。

これらは胎児のときから成人になるまでふんだんに分泌されますが、特に大人体型の下で最大限に働くのが、男子の場合、13歳から17歳くらいまで。160センチの身長を180センチにまで押し上げるのが、この時期なのです。このタイミングを逃してはいけません。

前に記した2つのホルモンの分泌を促し、上手に背を伸ばすには、

1.上質な眠り
2.脳神経回路への過度のストレスを避ける
3.適度な運動

の3つが不可欠になります。

運動は、物理的に骨端線を刺激し、骨の成長を加速させます。同時に基礎代謝が上がることで、甲状腺ホルモンと相乗作用を起こします。

上質の眠りのためには、0時(真夜中てっぺん)を寝て過ごすこと。脳神経回路への過度のストレスの筆頭は、日没後の、パソコンやスマホの電子画面の視覚刺激です。くよくよ悩むのも、背のために避けてください。

とはいえ、現代の中高生は、ストレスがゼロというわけにはいかないでしょう。受けてしまった脳神経系のストレスを解消するカギが、ビタミンB群です。肉に多く含まれるビタミンB群は、背を伸ばしたい男子の強い味方。と同時に、脳を活性化するので、勉強の強い味方でもあるのです。肉食は、男子の基本ですね。

ただし、せっかくとったビタミンB群も、炭酸飲料やジャンクフードの中の糖質が、その代謝に使うために奪ってしまいます。肉・魚・卵・乳製品をしっかりとること。これは基本ですが、せっかくとった栄養素を捨てないために、糖質過多の間食を避けることも大事な知恵です。当然、骨の材料になる栄養素も、しっかりとらなければなりません。