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米国の経済成長源「イノベーション」を生む2要因

米国経済を後押しする「イノベーション」

近年、米国経済への関心が高まっています。安定して成長を続ける米国に、投資家のみならず、多くの方が注目しているのです。そんな米国経済の強さを支える最大の要因は、なんといっても人口増です。とはいえ、それだけではインドネシアやASEAN諸国などの新興国と比べた際に、頭一つ抜きん出ることはできません。人口増に加えて、今回お話しする「イノベーション」という後押しがあることで、米国経済の強さがより手堅いものになるのです。

 

ここでひとつ、最近米国で起きたイノベーションをご紹介しましょう。新型コロナウイルスのワクチン開発です。新型コロナウイルスが世界中に拡散する兆しを見せ始めた2020年1月時点で、ワクチン開発に関連した研究はひとつもありませんでした。そして、ワクチン開発には数年の時間を必要とするのが常識です。そのため新型コロナウイルスワクチン開発にも相応の時間が必要ではないかと言われていました。こうした予想をいい意味で裏切る形で、米国政府は2020年末、米国のファイザーに対して新型コロナウイルスワクチンの使用許可を出したのです。

こんなに早くワクチンが開発できたのには、米国内でSARSやMERSといったほかのコロナウイルス感染症の研究が進められていたため、という点はたしかにあります。それでもやはり、米国が持つイノベーティブな技術開発力には脱帽せざるをえません。

こうしたイノベーションを起こす力が米国経済の成長を促進しています。そして、イノベーションに関して米国に敵う国はほとんどありません。

米国がイノベーションを起こしたことでトップに立つことになった分野の例として、暗号資産で有名になったブロックチェーン技術が挙げられます。かつて、暗号資産やブロックチェーン技術に関しては、米国独占というわけにはいかないだろうといわれていました。当時ビットコインのホルダー数が世界一の日本や、ブロックチェーン技術についての論文を多数発表していたロシアが先行すると考えられていたのです。しかし、そこから米国でイノベーションが起こり、急激な巻き返しが進みました。いまでは米国がほかの国を圧倒的にリードしています。

ではなぜ、米国ではこんなにさまざまなイノベーションが進むのでしょうか。それには「規制のうまさ」「人材の分厚さ」という2つの理由があります。順番に説明していきましょう。

「規制のかけ方」がイノベーションを左右する

まず、米国は規制のかけ方がとてもうまいといえます。社会に悪影響を及ぼしそうなところについてはきちんと規制をかけながらも、イノベーションのために必要な部分については、規制を緩めて自由にやらせる。そのさじ加減がうまいのです。

イーロン・マスクで知られる宇宙ビジネスはその最たる例です。彼が率いるスペースXが、NASAから、月面に宇宙飛行士を着陸させるために必要な機体の製造の委託を受けた、というニュースが2021年4月16日に流れました。スペースXが単独で宇宙開発を行っているのではなく、NASAのような国の機関が、上手にイノベーターの能力を活用して、技術開発を推し進めるのです。

これらのケースからもわかるように、単なる技術力だけでなく、最先端技術を国として育てていく枠組みやコミットメント、気質、文化のようなものが、米国には根付いています。だから、ブロックチェーンはこれまで世界の流れに対して1周遅れくらいだったのが、一気に3周先くらいまで行ってしまったし、宇宙産業に至っては民間のイノベーターの力を上手に活かして、いまでは世界に対して5周くらい先に行っ

実は日本でも、規制を緩めることによって著しく技術が進化した分野があります。iPS細胞による再生医療です。この分野については、「やりたい放題」といえるほどに規制緩和を進めました。その結果、さまざまな治験が進み、日本は世界一といってもいいほど技術が進化しました。

新型コロナウイルスの感染が世界中に広がる前までは、米国やアラブ諸国、中国の富裕層がプライベートジェットに乗って日本に来て、若返りのための施術を行って帰国するということが、頻繁に行われていたくらいです。それは日本の再生医療分野における技術が世界一だったからにほかなりません。うまく規制を緩和させれば、イノベーションは物凄い勢いで進むことの好例です。

その日本がなぜ暗号資産、ブロックチェーン技術で米国の後塵を拝することになったのかというと、規制でがんじがらめにしてしまったからです。イノベーションを促す余地をうまく作らず、規制だけを先行させてしまいました。これが最大の敗因といえるでしょう。

米国を下支えする「人材の分厚さ」という強み

そしてもうひとつ、「人材の分厚さ」も米国のイノベーションがうまくいく理由です。

先般の大統領選挙において、ドナルド・トランプ前大統領は1期でその職を辞めることになり、代わってジョー・バイデン大統領が誕生しました。共和党政権から民主党政権へと体制が大きく変わったのです。

あまりいい例ではありませんが、日本でも自民党政権が野に下ったときがありました。古くは1993年から1994年までの非自民・非共産連立政権時代と、2009年から2012年にかけての民主党政権時代ですが、結局、それまでの野党が与党になった途端、政権は機能不全に陥りました。

ところが米国の場合、政権党が代わったくらいで機能不全になど陥りません。その背景には、政治家だけでなく、政治家を支えるスタッフの人材が非常に分厚いことが挙げられます。実際、2020年に行われた大統領選挙でも、トランプからバイデンに大統領が移り、共和党政権から民主党政権に移行したものの、何の問題もなく国が動いています。

この人材の分厚さは政治の世界だけでなく、軍隊から経済、金融に至るまで、あらゆるところに見られます。この人材の分厚さこそが、米国の底力といっても過言ではありません。そして、この人材の分厚さは、移民政策によるものです。皆さんが知っている米国の有名な起業家は、必ずしも米国生まれとは限りません。グーグルの創業者であるセルゲイ・ブリンはロシア生まれですし、前出のイーロン・マスクも南アフリカ共和国の出身です。

もちろん、その国に人が呼び寄せられる魅力がなければ、いくら移民政策を積極的に推し進めても無駄になります。移民が集まるということは、それだけ米国に魅力があるからにほかなりません。

魅力のひとつは教育です。とくに高等教育において、米国の右に出る国はないでしょう。世界の留学生に人気の大学を考えても、米国にはスタンフォード大学、ハーバード大学、マサチューセッツ工科大学(MIT)など、世界的に名高い大学がたくさんあります。教育水準が高いだけでなく、そこに集まっている学生が将来、世界のエリートになっていくため、そこで得た友人は貴重な人脈になります。そのため、政治や経済の分野でトップを目指す優秀な学生が、どんどん米国に集まっています。

米国は「相乗効果」でより一層強くなる

冒頭でも述べましたが、米国の強さの基盤は人口増です。それに加えて、イノベーションを促すうまい規制、移民政策、そして世界に冠たる高等教育があるからこそ、「一旗揚げよう」という優秀な人たちの多くが、世界中から米国を目指します。すると、当然人口はさらに増加し、イノベーションも起こりやすくなります。米国経済の強さを裏付ける要素が、互いに良い影響を及ぼし合い、より一層米国経済を強くしていくのです。

米国は間違いなく世界最大の経済大国であり、文字どおり、世界経済の牽引役でもあります。その国の経済が、これからも成長ののびしろがあるのですから、これほど魅力的な国はないといえるでしょう。みなさんも、ぜひ米国経済、そして米国株に注目してみてはいかがでしょうか。