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「思いつきで話す上司」が激変するスゴイ会議術

 

社長の言うことがわからないまま終わってしまう会議

あるオーナー企業の経営会議に初めて出席したときのことです。創業者の社長は、話しながらいろいろとアイデアを思いついてしまう人で、「こんなことをしてはどうか」「こういう人が買うと思う」「こんな技術を使えないだろうか」と頭に浮かんだことを次から次へと話しました。

私には、社長のアイデアが断片的でつながりも見えないことから、思考の全体像をイメージできませんでしたが、会議に出席している役員や経営企画の人は、社長の話に時折頷きながら「それは面白いですね」と言い、「なるほど」と相槌を打っていました。私は「よく話の内容がわかるものだ」と感心していました。

そこで会議終了後、役員の一人に「みなさんは社長の話をよく聞かれていましたが、私にはまったく理解ができず肩身の狭い思いでした」と伝えたところ、その役員は恥ずかしそうに「実は私にもよくわかりませんでした」と小声で言いました。

このようにせっかく面白いことを思いついても、相手に理解されなければいいディスカッションにはなりません。

そこで会議の方向性を示すべき社長やリーダーは自分のイメージを相手に理解してもらうために、ストーリーで素案を整理しておくことが有効です。その方法として次の3つのステップを踏むといいでしょう。

  • ステップ1: 思いつきから必要な要素を洗い出す
  • ステップ2: 各要素のイメージを膨らませる
  • ステップ3: 相手がイメージできるように各要素をつなげてストーリーを構成する

 

ステップ1は、例えばある商品を思いついたら、「売る要素」と「作る要素」に分けて、売る要素として「顧客」「提供価値」「価格」などを洗い出します。

このとき、要素を意識せず思うがままイメージを膨らませると、「こんな機能を付け加えたらどうだろう」や「開発資金をどうしよう」と売る要素以外のことまでいろいろ考え始め、収拾がつかなくなります。

大事なのは、要素をメモ帳やスマホに書き出して可視化すること。このとき、要素を分解する手段としてロジックツリーやマインドマップを用いてもいいでしょう。頭の中だけで考えていると、すぐに忘れてしまい「あれ、何だったかな?」とモヤモヤしてしまいます。

ステップ2は、ステップ1で出した各要素について、自分なりのイメージを膨らませます。例えば「顧客」について、「こんな状況にある人で、こんなニーズを持っている人」といった具合です。企業によっては、顧客イメージを膨らませるために年齢や性別、年収やライフスタイルなどを具体的に考える「ペルソナ」を使うこともあります。

イメージできたら、そういうイメージを持つに至った理由も考えましょう。自分の頭の中のイメージを整理することで、自分が考えていることの全体像を認識できるようになります。

「要旨」「主張」「結論」をハッキリさせる

ステップ3は、各要素をつなげて全体のストーリーを作ります。ストーリーを作るときのポイントは、骨子となる「要旨」「主張」「結論」をハッキリさせることです。

例えば、「商品を売りたい」ということを伝えるなら、

  • 要旨:「売る商品はこれです」
  • 主張:「この商品のコンセプトと想定顧客、価格はこうです」
  • 結論:「3年で売り上げ5億円を目指します」
  •  

といった具合です。これらを明確にしてつなげることで、相手の頭に素案のイメージが浮かびやすくなります。

素案のイメージが粗いときには、A4用紙1枚のメモ程度でまとめれば十分です。素案の解像度が高く相手に詳細なイメージまで伝える必要があるときには、パワーポイントなどで細かく作りこみます。

会議では素案をもとにディスカッションを重ね、イメージの解像度を上げていきます。このとき大事なのがイメージの出すべきところに「狙い」をつけることです。その準備として会議に参加するメンバーは事前に素案のチェックを行うとよいでしょう。ここで強力なチェックツールとなるのが「違和感」です。

素案を読んだり、聞いたりして、「変だな」「しっくりこない」と感じるところを直感で構わないのでチェックしその理由を考え、イメージを伝える次の段階に備えます。ここでは、代表的な違和感とその対処法を6つご紹介します。

6つのチェックポイント

●チェック1 イメージが湧かない

例えば、「○○をキャッチアップする」といった抽象的な表現や専門的な言葉が使われていたりすると思考の混乱や停止が生じ、具体的なイメージをつかむことができません。

このようなときには素直に「ここのイメージがつかめないから、具体的に教えてもらうことにしよう」や「もしかすると、こういうイメージをしているのかもしれない」と相手の頭の中のイメージを確認する準備をしましょう。

●チェック2 漏れやダブりの要素がある

顧客や提供価値など考えなければならない要素が漏れていたり、顧客イメージの一要素としての「年収」が抜けていたりすると疑問が生じ、その先の情報が頭に入りづらくなります。そのようなときには「この要素とこの要素が抜けているな。後で確認しよう」と頭を働かせます。

また、販売商品に「A商品は20代~30代の女性を、B商品は30代~40代をターゲットにしています」のようにターゲットの年代にダブりがあると、気になって漏れと同様に思考が止まります。

 

「A商品は20代女性が中心、B商品は30代女性が中心ということだろうか? 話が終わったら聞いてみよう」とダブりの要素を解消する準備を行いましょう。

●チェック3 ストーリーがちぐはく

ストーリーがちぐはぐなときは、素案の作り方で説明した「要旨」「主張」「結論」のつながりが弱い状態になっていることが多いです。

例えば要旨に「抹茶風味のフレーバーを利かせたアイスを出す」と言っているのに、結論で「抹茶風味のフレーバーは難しい」とまったく反対のことを言ってしまうケースや、「1年で売り上げ3億円を目指し、新たな取扱店の開拓を進めます。

しかし、担当できる営業が1人であるため、ある程度の時間はかかると思います」と言っていることとやろうとしていることがかみ合わないケースなどが挙げられます。

このようなときには、自分なりにストーリーをつなげ、それを相手に確認するようにしましょう。後者の例であれば「1年で売り上げ3億円を目指すなら、営業1人で月10社の販売店を開拓する、と言おうとしているのかな」といった具合です。

拒否反応を示さず段階的に考える

●チェック4 イメージに飛躍がある

例えば、まだ商品すらできていないのに「3年で売り上げ100億円を目指す」とあまりにも現実離れした目標を置いてしまうケースです。

会社の中期経営計画を作るときや、社運をかけた新商品に取り組むときなどによく見られるケースです。このように考えに飛躍があると感じる場合は、「段階的に考える」ようにしましょう。

具体的には「3年先の話をしているが、1年目と2年目のイメージを聞いてみよう」や「3年で100億円の売り上げとすると、1年で10億円、2年で50億円くらいのイメージだろうか」となどとイメージを年単位で分割する質問を考えます。

 

くれぐれも「そんなのムリ」といきなり拒否反応を示さないようにしましょう。分けて考え、ディスカッションからどのあたりにムリがあるのか明らかにするプロセスを踏むようにしてください。

●チェック5 イメージの方向性が違う

イメージの方向性に違いがある場合に、「それは違う」と頭ごなしに否定するのではなく、「どうして違うのだろうか」と違いの要因を探るようにします。その多くは、お互いのイメージの「前提の相違」から生じることが多く、「前提のすり合わせ」を行うことで解消されます。

例えば、上司から「顧客は30代の働く女性だと思う」と言われたことに対して、自分は小さな子どもを持つ主婦だと思ったとすると、「30代の働く女性だと考えた理由を聞いてみよう。何かのデータを見たのだろうか? それとも感覚値だろうか? その前提を確認したうえで、自分の意見を伝えよう」と考えます。

イメージが違っていても感情的にならず、チェックすることに集中してください。

●チェック6 イメージがありきたり

他社の商品を模倣する、ものすごく現実的な目指す姿など、考えにオリジナリティやユニークさが欠ける場合でも、「つまらない」「面白くない」と考えるのではなく、「もっと面白くするにはどこを変えるとよさそうだろうか?」や「ここにこれを足すことでさらに面白くなりそう」と、素案を読み聞きしながら考えます。

大事なのは「もっと面白くできないか」「もっと素敵な目指す姿にならないか」と思考をストレッチさせて、誰もがハッとするようなアイデアを思いつけるよう頭を動かすこと。くれぐれも「これでいいや」とすぐに妥協や満足をしないでください。

 

ゴールイメージを共有することから始まる