「水ETF」投資がやたら注目されるようになった訳

9月に入ってから、アメリカの株式市場はいま一つパッとしないが、そんな中でも注目を集めているのが水ビジネス関連企業への投資だ。もともと「SDGs(持続可能な開発目標)」の一環であり、気候変動や世界の人口増加に伴って、水不足が深刻になっていることが背景にある。

例えば、つい最近もアメリカのカリフォルニアが干ばつに見舞われ、チョコレートの原料となるアーモンドの不作が話題になった。

言うまでもなく、水は食料問題と密接な関係がある。一方、近年は工業用水の需要が大きく、そして急激に増加しており、水を取り巻く環境は大きく変化しつつある。そこで、水をはじめとして環境重視のテーマなどに投資ができる「ETF(上場投資信託)」をいくつかピックアップ。その将来性について紹介してみよう。

水資源の枯渇は人口増加、気候変動、水紛争の原因?

水資源が枯渇するかどうかは、これまで国や地域によって大きな格差があったために、世界共通の課題にはなりづらい面があった。しかし近年、水資源の維持に重要な影響をもたらす「気候変動」が急速に表面化し、今や水資源の維持は世界共通の認識になりつつある。周囲を海に囲まれ雨が多い日本でさえも、将来的には慢性的に水資源の枯渇に悩むのではないか、とさえ言われるようになった。それほど気候変動の影響は大きいとみていいのかもしれない。

経済協力開発機構(OECD)の「OECD Environmental Outlook to 2050(2012年版)」によれば、深刻な水不足に苦しむ人は2000年から2050年にかけて南北アフリカだけで23億人増加し、2050年には世界の人口の約4割にあたる39億人が深刻な水不足に陥る河川流域の人口になると予想されている。そのうち2億4000万人以上の人が上水道すら利用できない状況になる見込みだ。

2000年時点の世界の水需要は約3600立方キロメートルだった。このうち農業用に使われる灌漑(かんがい)用水が3分の2を占めていた。ところが、水需要の構造は2000年から2050年の半世紀の間に大きく変化。製造業の工業用水がプラス400%、発電用水でプラス140%、生活用水プラス30%がそれぞれ増加すると見込まれ、地球全体で水の需要は55%増加すると見込まれている。

もともと、農業用水を中心としてきた水需要の構造が、この50年で大きく変わり、工業用水、発電用水の需要が主体になると予想されているわけだ。人口増加による、生活用水の増加を大きく上回る勢いで伸びるとみられている。人類が豊かになり、さまざまなハイテク機器を使うようになり、それに伴って電力使用も増えていることが原因だ。

水力発電を主なエネルギー源としているブラジルでは、今年100年ぶりの水不足に見舞われて、水力発電から火力発電への切り替えで代替燃料として使用している液化天然ガス(LNG)の国際価格が急騰した。

半導体生産に欠かせない「超純水」の需要が増加

そして工業用水の中でも、半導体生産に欠くことのできない純度の高い「超純水」の需要がとくに大きく増えている。今後、半導体生産によっても水不足が深刻化するのではないかと懸念されている。きれいな水が必要とされる工業用水のニーズは年々高まる可能性が高い。

一時期、北海道などの水源地を中国などの海外の投資家が買いあさっている、という報道があったが、水不足の将来を考えれば当然の投資行動といえる。

昨年4月にはエチオピアが進めているナイル川のダム建設をめぐって、エチオピア、エジプト、スーダンによる国際紛争が巻き起こっている。2019年には、インドとパキスタンの間に流れるインダス川が、国際紛争の武器に使われたと報道された。

「世界の水紛争:報道されていない事実(GNV、2020年11月26日配信)」によると、「パシフィック・インスティチュート(Pacific Institute)」の調べでは、2000年から2019年までの20年間で起きた水をめぐる紛争や暴力事件は676件あり、そのうちの3分の2が2010年以降に起きているそうだ。水をめぐる争いは年々増えている、ということだ。

水先物市場まで登場! 変化する「水ビジネス」

こうした水に対する意識の高まりからか、2020年12月には「シカゴ・マーカンタイル先物取引所(CME)」で「水先物市場」が取引を開始している。水価格指数「ナスダック・ベルス・カリフォルニア・ウォーター指数 Nasdaq Veles California Water Index(NQH2O)」の価格に基づいて、取引される先物市場の1つだ。

同指数は、農家や企業などが、カリフォルニア州で売買されている水の使用権価格を加重平均した価格で、約123万リットル(25メートルプールの2倍強の容量)当たりの価格を示している。現在の価格は、872.93ドル(9月21日現在)だが、この1年半で約4倍近くに跳ね上がっている。先物市場の開設以降、価格は急騰している。

まだ取引量は少ないが、いずれは石油市場に匹敵するマーケットになる可能性もある。21世紀が「水の世紀」と言われていることでも、水ビジネスの将来性の高まりが予想できる。

長い間、「日本人は空気と水はタダだと思っている」と言われ続けてきたが、いまや水は立派なビジネスであり、貴重品といっていいだろう。

そんな状況で、日本経済新聞が「水ETF価格 急騰」(9月8日朝刊)でも報道したように、水関連のETFが価格を急激に押し上げている。

水ETFとは、アメリカのナスダック市場やイギリスのロンドン市場に上場されている銘柄で、実は以前から上場されていたETFの1つだ。その水ETFが2021年3月以降ほぼ一直線に上がり始めたことから注目されるようになった。水ETFの代表的な銘柄を簡単に紹介していこう。

<インベスコ・グローバル・ウォーターETF(Invesco Global Water、ティッカーはPIO)>

アメリカの投資運用会社「インベスコ」が運用する上場投資信託で、2007年6月13日上場。現在の価格は42.35ドル(2021年9月18日終値)。ここ数日、利益確定売りなどに押されてやや価格を下げているものの、最高値の価格ゾーンに位置している。

水関連の株式指数「NASDAQ・OMX グローバル・ウォーター・インデックス」に連動する投資成果を目指しており、総資産の90%以上を株式や配当収益を目指して投資している。具体的には、工業用水の節約や浄化のための商品を製造する企業に投資している。SBI証券、マネックス証券、楽天証券などのアメリカ株口座を開設することで投資ができる。

純資産総額は、2021年8月末現在で326億8900万ドル。すでに運用開始から14年が経過しているものの、ここに来て急に注目され始めたETFの1つだ。株価の騰落率を見ると、この1年では34.43%(9月18日現在)、年初来でも21.60%(同)となっており、S&P500やダウ平均よりも高いパフォーマンスを出している。

ロンドン証券取引所に上場するETFも

<iシェアーズ・グローバル・ウォーター UCITS ETF(iShares Global Water、アメリカドルクラス、ティッカーはIH2O)

イギリスのロンドン証券取引所に上場されているETFで、運用会社は「ブラックロック・アセット・マネジメント・アイルランド」。世界の水関連の事業を行う大手企業に分散投資を行い、ベンチマークの「S&Pグローバル・ウォーター50指数」と同程度の投資成果を目指している。組み入れ銘柄は、指数を構成している50銘柄でおおむね構成されており、2007年3月16日に設定されている。

 

ロンドン証券取引所に上場しているため、日本から直接投資できる証券会社や金融機関に限定される。こちらも運用実績はこの1年で44.75% (2021年7月21日現在)、急速に価格が上昇していることがわかる。株価は、9月22日終値で58.50ユーロ。

ちなみにETFではないが、水をテーマにした投資信託も発売されている。簡単に紹介しよう。

<三菱UFJ グローバル・エコ・ウォーター・ファンド(愛称:ブルーゴールド)>

運用会社は「三菱UFJ国際投信」、現在SBI証券や楽天証券、PayPay銀行が扱っている。主として、日本を含む世界の水関連企業の株式に投資する投資信託。水ビジネスから計上される売上高が、全体の過半数を占める企業を中心に組み入れられており、そこに水関連分野で高い技術力を持つ企業が含まれている。

ファンドのトータルリターンを見ると、1年で47.08%(8月末現在)、3年でも12.29%(同)、日本の投資運用会社が運用しているファンドであるため、組み入れ銘柄の中には日本企業が多く、ベスト3を見ると荏原製作所、オルガノ、酉島製作所となっている。

世界中で「SDGs関連」のETFにも資金が集中?

水ETFと並んで、投資家の注目を集めてきたのが冒頭でも紹介した「SDGs」だ。水ETFと並んでSDGs関連のETFも、このところ大きなパフォーマンスを上げている。SDGsの理念に基づくビジネスを行っている企業を集めたファンドで、アメリカのナスダック市場には、このSDGsを基本理念とするETFが上場されている。こちらも、簡単に紹介しておこう。

<iシェアーズ MSCI グローバル・インパクト ETF(iShares MSCI Global Impact、ティッカーはSDG)>

SDGsの理念に沿った世界の企業の株価を指数化した「MSCI ACWI サスティナブル インパクト指数」という株価指数に連動するように設定されている。21年3月16日には50.42ドルだった株価が、9月初旬には100ドルを超えている。水ETF同様に、投資家の注目を集めているといっていいだろう。 

ちなみに、日本国内にSDGsの名がつくETFはないが、SDGsの概念に共通する「ESG」関連のETFは数多く上場されている。ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の頭文字を合わせたもので、ESG関連のETFに投資するのも1つの方法といえるだろう。

新型コロナウイルスによる経済の落ち込みを防ぐために、各国の中央銀行や政府が積極的な財政出動を実施したことが原因で、2020年以降の金融市場には莫大なマネーが入ってきた。水ETFにもそうしたマネーが入ってきたことは事実だが、水ビジネスは気候変動などの影響がストレートに反映されるテーマといっていい。

 

しかも、ハイテク関連銘柄などと異なり、コロナの収束によってその業績に影響が出る可能性は少ない。最近になって、コロナ禍によって集中的に投資されたハイテク関連セクターの資金が徐々に流出しつつあるといわれる。金融市場は、その受け皿として「水」や「環境」を選択しつつあるのかもしれない。