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郵便局が「地方銀行」を買収し成長するシナリオ

銀行は構造不況業種

残念なことであるが“銀行業”は構造不況業種になってきているようである。支店の大幅な削減が進行中である。当面の目標としてメガバンクは4割、地方銀行は2割の支店が削減される。ATMも同様に削減される。

 

銀行の経営悪化の主たる原因は、金融政策として行っている“超低金利”のためである。銀行業には固有業務として、預金・貸出(預貸)業務と為替業務がある(ほかにも付随業務がある)。とりわけ預貸業務の収益が、超低金利のために低下した。このマイナス金利まで含めた超低金利は長期化しそうで、半ば常態化している。短期的な問題ではなくなっている。

またもう1つの固有業務「為替業務」であるが、例えばこの分野は、ネット銀行を中心として、振込手数料の引き下げ競争がたけなわである。そもそもこの為替(決済)分野であるが、顧客にとって商売・信用の根幹なるもので経済の根幹をなす。

とくに国内為替(振込)の部分の銀行協会を中心とした決済システムの発展は著しい。今や日本では、振込ではほとんどの銀行に“瞬時”に入金され、引き出しも可能である。これは全国銀行協会が運営する「全銀システム」という決済システムによって可能になっている。このような対顧客の高度な決済システムはほかの国にはない。

この銀行協会が運営する「全銀システム」に関しては、銀行の損得でなく、機能を共通化し決済システムを強化していったのである。これは日本の銀行は、先にも述べたが為替(決済)の重要性を十分理解し、また銀行の公共サービスとしての使命を果たそうとしているためである。

そのためとくに為替(振込)業務に関しては、ほとんどの銀行で差がない。すなわち、経営上の強みとすることは難しく、収益の柱とすることも難しい。

金融(Finance)とIT(Technology)の造語(合成語)でフィンテック(Fintech)という言葉がある。経済産業省が担当した「キャッシュレス」政策の根幹をなす部分である。日本は現金の使用が多く、それが非効率で生産性を押し下げているという考え方に基づいている。

またフィンテック、キャッシュレスとは、突き詰めて言うと「スマホ決済」のことである。マスコミなどもよく間違っているが、スマホ決済という「決済手段」はない。キャッシュレス政策を進めるときに、筆者も参加して制定した資金決済法にもあるが、決済手段としては、①前払い式支払い手段(電子マネー)、②同時式支払い手段(デビットカード)、③後払い式支払い手段(クレジットカード)がある。

いわゆる「スマホ決済」といわれているものは、前記の3つの決済手段のどれかに当たる。「スマホ」は正確には、単なる決済を行う「媒体」にすぎないのである。

また、スマホ決済の代表的なサービスである「~Pay」というものはほとんどが電子マネーで、資金決済法によって「資金移動業者」という新業態を作った。しかしこの分野は、収益性はそれほど高くなく、銀行は当初より本格的な参入はしない予定であった。この「~Pay」という新たな決済インフラは、銀行の決済(為替)業務をさらに弱めることになる。

銀行のATMも導入が進んだが、コンビニエンスストアとともに「コンビニATM」といわれる業態が伸びている。ATMの手数料収入は銀行業界を支えるほどには大きくない。ATMは基本的には“現金”の利用がベースとなっている。そのため、キャッシュレスが進んでいくとATM業務も縮小していくことになる。未来永劫に続くビジネスではない。

郵便局による地銀の統合

現在、地方銀行はちょうど100行ある。最近の再編の動きは、2020年9月に、菅首相(当時官房長官)が「地方銀行の数が多すぎる」と発言したのがきっかけだ。バブル崩壊前まで、メガバンクは13行あったが、最近までに4行に減っているが、地銀の数は2割程度の削減にとどまっている。

先にも述べたが、再編とともに支店数の削減も行われている。支店の削減は「統廃合」という形で行われている。とくに地方の場合であるが、銀行がなくなってしまうこともありうる。その場合、現在の方向性であるが、なんと「一般企業」に「銀行代理業」の免許を取得してもらい、顧客も含み銀行業務を引き継ぐという方向に進んでいる。しかし、筆者は、銀行業務を一般企業に引き継ぐことには無理があると考える。

それならば、ゆうちょ銀行という銀行の業務を行っている郵便局/JPグループが引き継ぐ(買収する)ほうが無理がなく展開しやすいということを、筆者はJPグループや所管官庁にもすでに提言している。人員や建物や手続きも含め、自然な感じで業務に取り込むことができる。銀行はそのようなことはよくある。

ゆうちょ銀行とすれば、そのエリアの地方銀行や信用金庫を統合し、その貸し出しを吸収することによって、悲願の法人貸し出しを無理なく開始することができる。

銀行は単純に削減するだけではなく、新業務も行わなければならない。新業務の一案が商社機能である。

その商社機能の目標が郵便局(JPグループ)である。実は現在のJPグループは銀行から目標とされているのである。ちなみに、郵便局の商社機能の最たるものである物販サービス「ふるさと小包」は、日本の政策として、現在導入されている「ふるさと納税」のベースとなったアイデアである。郵便局のお客様の商品を、郵便局を経由して販売しているのである。

さらに、郵便局は公共サービスも行っている。銀行も同様にその信用度をベースに公共サービスの導入も検討されている。そういう意味でも、JPグループが進んでいる基本的な方向性は間違っていないと言うことができる。

郵便局の資産やインフラを活用

銀行などは削減が進む。とくに地方では支店の削減(廃止)が進んでいくが、その支店を郵便局が引き継ぐことが現状望ましいと考えられる。ゆうちょ銀行は悲願である法人貸し出しを開始することができる。それは、ゆうちょ銀行が、地方銀行など同じ「銀行」業を買収することによって可能となる。

業務と離れた買収(M&A)であれば、オーストラリア物流大手のトールの買収の4000億円の損失のような可能性も低くなる(3月に1500億円を出資した「楽天」が、すぐ7月に投資不適格になったのは非常に気になるが)。

そのときに最も大事なのは、銀行や信用金庫に勤務する方々が、今後郵便局に勤務することになるが、そのときの、マインドリセットが最も重要ではないかと考える。

日本の経済や金融を考えると廃止される地方銀行は郵便局に買収させて、お客様や経済に影響が出ないというこのスキームが望ましい。そして、このスキームは信用金庫でも活用ができるのは言うまでもない。