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会議の「冒頭2分は雑談」ルールが効果絶大な理由

生産性を落とす「過剰な気遣い」

「心理的安全性」があるチームは出勤していてもテレワークをしていても、チーム目標を達成しやすいことは、2019年〜 2021 年の調査で判明しています。心理的安全性とは、何を話しても自分は安全であるという心理状態です。過剰な気づかい、忖度は生産性を落とします。

例えば、クライアント企業826社で作成されたパワーポイントの資料を調べてみると、作成された資料のうち23%が上司や顧客に対する過剰な気づかいのために作られていました。上司から指示をされていないのに作成されていた資料です。

追跡調査すると、なんとその忖度資料の約8割が使われていませんでした。「おそらく必要だろう」「きっと重要だろう」と思って作成した資料の8割は必要ではなかったのです。

さらに、クライアント企業25社に協力してもらい調査しました。本人を特定しない匿名アンケートで「心理的安全性がある」と答えるメンバーが7割以上いるチームと、「心理的安全性がない」と答えるメンバーが7割以上いるチームで比較しました。

すると、「心理的安全性がない」チームは、会議時間が長いことがわかりました。各社平均の20〜30%も多く打合せが入っているのです。また、会議のための打合せが多く入っていました。「定例会議に向けて確認する、会議のための事前打合せ」といった形です。

上司に怒られないように、必要であろう情報を片っ端から集め、多くの人に確認を求めて本番の会議に臨んでいました。「課長、このような資料を作っていますがイメージ合っていますか?」と聞くことができないので、さまざまなパターンの資料や、データの用意に時間をかけていたのです。

気づかいをしながらチームミーティングに臨む状態だと、自ら率先して意見や質問をするメンバーはいません。「発言しないほうが安全である」と考えてしまっているからです。「心理的安全性」がないと、上司と1on1ミーティングでも、うまくコミュニケーションが取れません。メンバーは怒られないように、ボロを出さないように口数を少なくします。

自分からアイデアを出すことはなく、上司からの指示を待ち構えます。メンバーが自分から話さないので、上司が一方的に話しまくります。上司の過去の自慢と上司からのダメ出しで時間が過ぎていく最悪の時間です。
これではメンバーが士気を高めて仕事に取り組むことはできません。

雑談でチームの結束を強化

一般的な管理職は、メンバーと信頼関係を構築するのに「ほうれんそう(報告・連絡・相談)」を重視します。隙を見せると馬鹿にされるのではないか、と強気の姿勢をとりマウンティングする管理職もいます。

しかし、上司と部下が上下関係になり、命令型の階層組織になってしまうと、メンバーが自主的に考えて行動する「自走する組織」を作ることはできません。

トップ5%の優秀なリーダー(以下、5%リーダー)は、「ほうれんそう(報告・連絡・相談)」よりも、まず「ざっそう(雑談・相談)」を目ざし、メンバーと雑談・相談(ざっそう)し合える関係を作ろうとします。5%リーダーは行動が継続するように仕組化するのが得意です。そこで、雑談することも仕組化してしまいます。

情報通信サービスおよび製造業の5%リーダーは、チームの定例会議で冒頭2~3分の雑談をルール化していました。仕事とは関係ない話しをして、場を盛り上げるのです。

会議冒頭での雑談は、対面集合型よりもオンライン会議のほうが場を温めることができていました。リーダーが一人で話すのではなく、なるべく多くのメンバーに発言させるようにカジュアルな話題を振っています。

例えば、「お昼って自炊しているの? コンビニで買ってくる派? 私はコンビニの塩おにぎりが好きでね……」と食に関する話題だと、誰もが話しやすいようです。

自分のことも披露するので、双方向の会話になります。プロ野球やゲームなどの趣味の会話には参加できないメンバーもいますが、飲食や天気の話は誰でも参加できます。

5%リーダーは、雑談をすることが目的なのではなく、雑談を通じてメンバー同士の共通点を探っているのです。何か共通点を見い出せたら一気に距離感を縮めることができるからです。

会議冒頭の雑談をふる役は、チーム内で順番に回していました。メンバーたちに順番に会話をリードさせ、自ら発言もすることで、「ファシリテーション力アップ」と「メンバーの孤立化防止」の2つの効果を狙っていました。

「雑談ルール」の効果を検証してみると…

雑談ルールを、クライアント企業25社に展開しました。定量的なルールのほうが実行しやすいと考え、「社内会議の冒頭2分は雑談をする」ということにしました。

ある流通業のクライアントでは、雑談で家族の話をしたくない人が24%いたので、他のクライアントでも家族の話題は避けるようにしてみました。比較効果を検証するために、雑談をしない会議もランダムに織り交ぜました。検証前に会議の様子を録画した企業もあるので、ルール適用前後の比較もしました。

2か月にわたるトライアルを行い、以下の結果が出ました。雑談ありの会議は、雑談なしの会議に比べて、発言数が平均1.7倍多く、発言者数は1.9倍増加。それでも予定された時間内で会議が終わる確率が45%高かったのです。

冒頭2分の雑談を入れたにも関わらず、時間内に終わるということは、以前よりも効率的に運営できているということです。

はじめに空気が温まれば発言しやすく、アイデアも出るので、意思決定が進みます。会議後に発言して、改めて議論をすることも減り、腹を割って話せる状態になると、時間効率が高まることもわかりました。

空気を読まずに発言して場を凍らせてしまうケースもありましたが、デメリットよりも、会議の効果・効率が上がるというメリットのほうが大きかったのは事実です。

「冒頭2分」という数字を入れたことで、実践しやすく、多くのクライアント企業で定着・浸透しました。

「雑談をしてください」と依頼するよりも「最初の2分だけ雑談してください」のほうが精神的ハードルが下がり、実行に移しやすかったようです。そして、この効果が口コミで社内で広がると、ルールではなく文化になっていきます。