営業コンサルティングをしていると、必ずと言っていいほどクライアント(依頼主)から「もっと売れるようにするには、どうしたらいいのか?」と、ご相談を受けます。
こうしたときに私がお伝えするのは、「〝売り方〞を考えるのは、もうやめましょう」というメッセージです。
もちろん、販売実績やその商品が売れた理由に意味がないとは言いません。売れた理由の分析は大切です。しかし、売れた理由には、運やタイミングといった「再現できない偶発性」が含まれます。
「ちょうど検討していたタイミングだった」「共通の知人がいて会話が盛り上がって信用してもらえた」といった、ラッキーパンチが存在するのです。そうした成功体験を追いすぎると、得てして再現性の低い案件ばかりを追う罠にハマってしまいます。
大事なのは「買う理由」よりも「買わない理由」
一方で、買わないと決断したお客様には、何かしら〝明確な理由〞があります。あなたがこれまで失注したケースを思い返してみてください。
「この製品を買っても問題が解決できるかはわからない」「いきなり高い製品を買わずに、まずはもっと安い他社製品から試してみる」「僕はこの製品を導入したいけど、上司の許可が下りない」
そんな見送り理由がありませんでしたか? こういった「買わない理由」は、別のお客様に営業をしても再び障害になることがあります。あなたも同じような買わない理由を突き付けられて、「またか……」と頭を抱えた経験があるはずです。
こうした「買わない理由」を、営業のプロセスで一つずつ細かく排除していくことを私は重視します。
例えば、「この製品を使っても問題が解決できるかどうかわからない」「いきなり高い製品を導入するのは怖い」といったケースなら、「お客様のお悩みと、商品の効能がフィットしている点」を示すことで、失注する可能性は減らせます。営業プロセスの顧客事例や導入シミュレーションを通じて、具体的な活用イメージを浮かべてもらうのです。
営業を科学し「成果をコントロール」するカギは再現性です。あなたがまず始めるべきは、偶然性や運といった再現性が低い「ファンタジーな要素」で営業成果を高めようとするのをやめることです。
頭と時間をかけるのは、あくまで「自分がコントロールできる部分」に絞ってください。
82%のお客は買わない
「買わない理由」の重要さを、具体的にデータで見ていきましょう。下記の図表は、アウトバウンド営業で、3カ月間の新規営業をかけた際のプロセスごとの変化です。
商品の属性によって受注率が変わるので、「低単価の即決型商材」と「企画が必要な提案型商材」という2つに分けて数値を出しています。
ご覧の通り、即決型商材であれば商談受注率が27%なので10件商談しても受注は3件に満たないわけです。
提案型商材の場合はさらに低く、商談受注率が18%なので、たったの1、2件です。実に82%のお客様は「買わない」のです。
つまり、新規営業では「売れた」より「買われなかった」という数のほうが、圧倒的に多いわけです。
それぞれの商材の受注率を、コール数(電話をかけた数)からも見てみましょう。提案型の商材はコール受注率が0.4%で、1200件の電話をかけても5件の受注しかありません。大雑把にいえば、1195件は失注したか、もしくはまだ決着がついていない状態です。
多くの人が「新規営業は難しい」というイメージを抱いていると思いますが、改めて数字を見ると、相当な〝無理ゲー〞をしていることがわかるでしょう。
なぜ、これほどまでにアウトバウンドの新規営業が難しいのかというと、その商品を「買おうとしていないお客様」を相手にしているからです。
考えてみてください。お客様がその商品を買おうと思っていれば、すでに問い合わせをしているか、購入しているはずです。現時点では、「買おうと思っていない相手」だからこそ、アウトバウンドで攻めの新規営業が必要なのです。
買うつもりのないお客様を相手に営業していれば、買われないケースが多くなるのは、ある意味、自然なこと。買われなかったという結果でムダに苦しむ必要はないのです。
「買わない理由」ほど改善しやすい
また、「買わない理由」に着目する意義はほかにもあります。先ほどのデータでも明らかですが、新規営業において「買われなかった数」は「売れた数」よりも、はるかに多くのサンプルが集まります。サンプルが多いということは、データの信憑性が高まるわけです。営業はどこまでいっても確率論です。対策も改善できる可能性が高い部分に時間や労力をかけるべきです。
加えて、「受注」というイベントは、営業プロセスの最後にやってきます。つまり、売れた要因を分析して次の営業活動に反映させるまでには時間がかかるのです。
一方で「買わない」というイベントは、営業プロセスにおいて受注より前のすべての行程で発生します。改善活動は早いに越したことはありません。
このように、買わない理由を集めることができれば、営業活動において成果をコントロールするための切り札になります。
これからはアポイントの場面や商談のなかで、お客様から発せられた「買わない理由」を記録に残すようにしましょう。もし失注しても、「今、ご導入いただけないのはどのような理由でしょうか?」「弊社が選ばれなかった理由を率直に教えてください」と確認してみてください。
その一言一言が、のちにきっと大きな財産になります。
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