高値圏「仮想通貨」始めたい人が絶対知るべき盲点

ビットコインは、今年4月に1BTC(取引単位で1BTC=1ビットコイン)約700万円という史上最高値をつけ、その後多少下げたものの、今も約505万円という高値である。1年前に70万円、5年前は4万円程度だったことを考えると、異様な暴騰ぶりだが、近い将来、1000万円を突破する可能性も否定できない。

理由は、アメリカ民主党政権の約200兆円に上るばらまき政策による過剰流動性、新型コロナ禍の財政出動による各国の法定通貨の信頼低下、米中関係の悪化やアフガニスタンの混乱といった国際的緊張の高まりなどだ。

一方、筆者が住む英国の金融監督当局FCAは、去る6月、世界最大規模の暗号資産(仮想通貨)交換業者バイナンス(香港)の業務を全面的に禁止した。同社は日本の金融庁、シンガポール中央銀行、香港証券取引委員会、オランダ中央銀行などからも、消費者保護対策の不備や無許可営業に関して警告を受け、各国でサービス停止などに追い込まれている。バイナンスに限らず、仮想通貨取引に関する問題や詐欺は非常に多い。

仮想通貨はパチンコ玉と同じ

そもそも仮想通貨には本質的な価値はあるのだろうか?

筆者は今般上梓した『カラ売り屋vs仮想通貨』(KADOKAWA刊)執筆のため、2年間にわたって資料を読んだり、関係者に話を聞いたりした。その結果、たどり着いた結論は、仮想通貨は「カジノのチップ」、あるいは「パチンコ玉」のようなもので、それを使って博打を張る人がいなくなれば、ゴミになるということだ。

仮想通貨が10年以上にわたってこの世に存在しているのは、パチンコ屋がこの世に存在しているのと同じで、博打を張りたい人たちがおり、博打を政府が禁止しないからだ。

なぜ本質的な価値がゼロなのか説明しよう。仮想通貨は「マイニング」によって生み出される。マイニングは、仮想通貨の売買などさまざまな取引情報(最近は不動産取引や食品の原産地・材料のトレースなど)を「ブロックチェーン」と呼ばれる分散型台帳につなぐのに必要な計算作業だ。

具体的には、それまでの取引を暗号化して新たなブロックを作り、既存のブロックにつなげるのに必要な「ナンス」と呼ばれる数値を見つけ出す作業で、何組ものマイナー(採掘業者)が競争し、最初に見つけた者に報酬として一定量の仮想通貨が与えられる。

それならば、ブロックチェーンの利用者から仮想通貨の保有者に対して、配当や金銭が払われてしかるべきだが、驚くべきことに、そんなものは支払われず、仮想通貨は発行された時点で、ブロックチェーンと完全に切り離される。いわばマイニング作業に対する「感謝状」にすぎない。

世界的投資家のウォーレン・バフェット氏は、「仮想通貨は基本的に価値がない」「ほかの人に売る以外は何もできない」と述べている。

バンク・オブ・イングランド(英国中央銀行)のアンドリュー・ベイリー総裁は「仮想通貨には本質的な価値はなく、投資する場合はすべてを失う覚悟が必要である」と述べ、大手米銀JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEOはビットコインを「(17世紀にオランダで起きた)チューリップバブルよりたちが悪い」と述べている。

一方、世の中には、仮想通貨に対して好意的なコメントをする人々もいる。しかし、よく見てみると、そういう人たちはたいてい業界と何らかの利害関係を持っている(取引所の経営者、アナリストなど)。彼らは、仮想通貨をブロックチェーン、デジタル通貨、キャッシュレス決済などのメリットとともに語り、有用性を印象づけようとする傾向がある。

なぜそういうことをするかというと、儲かるからだ。仮想通貨の取引所のマージン(手数料)は、資産の種類や取引量によって異なるが、だいたい取引額の2%から10%という他の資産の取引とは比較にならないほどの高水準である。

肝に銘じておくべきことは3つある

仮想通貨の取引を始めるにあたって肝に銘じておくべきことは3つある。

1つ目は、いずれどこかの時点で価値がゼロになる可能性があるということだ。したがって長期のホールド(保持)という投資戦略はありえず、つねにバイかセルの短期の取引に徹しなくてはならない。

米系投資銀行ゴールドマン・サックスのロイド・ブランクファイン前CEOは、「(一晩で)20%も値が動く代物を通貨とは思えない。これは不正を犯すための手段だ」と述べているが、ゴールドマン・サックスは仮想通貨のトレーディングを行なっている。本質的な価値があろうがなかろうが、儲けられればいいのだ。これはポートフォリオの一部を仮想通貨に振り向けているアメリカの年金基金なども同様のスタンスだ。

仮想通貨はこの世の投資対象の中で、最も値動きが激しく、それゆえ投機にはうってつけのツールである(ボラティリティが大きいほど価値が高いのは、オプションなども同じ)。

2つ目は、カモにされる可能性があるということだ筆者はもともと金融分野(銀行、証券など)の本を書き、その後、エネルギーやコモディティー(商品取引)分野の本を書くようになった。金融からコモディティーの世界の取材に移ったときは、相場操縦が横行しているのに驚かされた(典型例が1996年に発覚した住友商事の銅取引による2600億円損失事件)。

しかし、仮想通貨の世界はもっとすごく、ほとんど規制されておらず、インサイダー、相場操縦、詐欺など、何でもありである。さらにここに、インターネットのダークウェブ(闇サイト)を介して、北朝鮮やロシアのハッカー、犯罪者やテロリスト集団などが関わっている。

相場操縦の代表的なものに「ポンプ・アンド・ダンプ」というのがある。1000人以上のグループが示し合わせた時刻に一斉に買い注文を入れ、ポンプのように市場に圧力を加え、価格を吊り上げたところで、手持ちの仮想通貨を一気に叩き売る(ダンプ)。

買いを入れる日時は、SNSの会員制掲示板を通じてメンバーに通知される。吊り上げグループは、SNSを使って、一般の投資家が買いたくなるようなうそのニュースも流布し、価格暴騰のお膳立てをする。証券取引法では違法だが、仮想通貨の世界では禁止されていない。

詐欺の温床ともいわれるICO

一般投資家をカモにし、詐欺の温床といわれるもう一つの手法がICO(initial coin offering)だ。

企業の新規株式公開(上場)であるIPO(initial public offering)に似ているが、投資家は、提案された事業への投資として仮想通貨を払い込み、株式の代わりに「トークン」(デジタルの権利証票)を受け取る。トークンは仮想通貨として使えるもの、発行者から商品、サービス、優待、収益分配を受けられるものなど、設計次第でバリエーションがいくつもある。

IPOの場合、金融商品取引法の規定や上場規則に従うことが必要で、主幹事証券会社による引受審査や監査法人による会計監査を受けたうえで上場を申請し、約3カ月間をかけて日本取引所グループ(東証・大証)による上場会社としての適格性の審査を受けなくてはならない。その後、有価証券届出書と株式発行・売出目論見書を作成・提出し、公募・売出し、新規上場となる。

これに対してICOは、「トークン」が有価証券に該当しない限り、金融商品取引法の規定や上場規則の適用は受けない。情報開示ルールは存在せず、目論見書に相当する「ホワイトペーパー」が作成されることが多いが、必ず作成されるというわけでもなく、開示内容も発行者が好き勝手にできる。そのため粗製濫造で、資金を調達した企業が提示した事業計画の8割が詐欺的なものだったとする調査もある。

日本でも、去る7月、全国の2万人から70億円を集めた「OZ(オズ)プロジェクト」が愛知県で摘発されるなど、仮想通貨がらみの詐欺事件が急増し、消費者庁などが注意を呼びかけている。ICOと聞けば、かつての豊田商事事件(ありもしない金地金を売りつけていた巨額詐欺事件)みたいなものと疑ってみるのが無難だろう。

最近は、審査を念入りにしたIEOという新しい資金調達方法も出てきてはいるが、まだ今年7月に第一号案件が実施されたばかりで、どの程度信頼できるものかはわからない。

冒頭で、今後仮想通貨の相場を押し上げる要素をいくつか挙げたが、逆に押し下げる要素も多い。それら下落要因の動向を注視すべきことが、肝に銘じておくべきことの3つ目だ。

まず各国中央銀行によるデジタル通貨の発行がある。ステーブルコインを除き、仮想通貨のほとんどは資産の裏付けがなく、思惑によって価格が乱高下する。

これに対して、国家の信用力(徴税権)が裏付けになっている法定通貨は価格が安定しており、それがデジタル化されたデジタル通貨も同様だ。

現在、80カ国以上の中央銀行がデジタル通貨の研究や実証実験を進めており、中国は2022年にも発行する方針である。発行されれば、送金の簡便性や資産貯蔵価機能に関し、仮想通貨を圧倒することは間違いない。

世界各国で規制を強化する動き

次に、各国の規制強化の動きだ。仮想通貨に関しては、包括的な規制の枠組みが存在する国はほとんどなく、今後、世界中で規制が実施され、投資家離れにつながる可能性がある。

今年6月、日米欧などの金融監督当局や中央銀行などで構成するバーゼル銀行監督委員会は、銀行の自己資本比率規制における仮想通貨の取り扱いに関し、リスクウェイトを1250%とする規制案を公表した。これは8%の自己資本を維持するためには、保有する仮想通貨と同額の自己資本を積むことを義務付けるもので、銀行が仮想通貨を保有するのを難しくする。

中国政府は、仮想通貨は社会を不安定化させるものと捉えていて、マイニングを全面的に禁止し、金融機関が仮想通貨業務を行うことも禁止している。アメリカのSEC(証券取引委員会)のゲンスラー委員長は、消費者保護とマネーロンダリングなどの犯罪防止の観点から、仮想通貨に対する規制を強化する考えを打ち出し、イエレン財務長官も規制の枠組みの必要性に言及している。

日本の金融庁は、仮想通貨取引業者を登録制にしたり、仮想通貨のデリバティブ取引を金融商品取引法の適用対象にしたりして、徐々に規制を強化している。インド政府は、仮想通貨の保有の規制にまで踏み込む方針を打ち出していたが、最近、禁止から規制へと方向転換した。

世界的な規制強化とは別に、今月からビットコインを法定通貨にしたエルサルバドルの試みが失敗に終われば、仮想通貨への信認を低下させる可能性がある。IMF(国際通貨基金)や格付会社は、エルサルバドルの試みは、経済の安定を脅かし、消費者をリスクにさらすと批判している。

エルサルバドルは、政府公式の電子ウォレットをダウンロードした人に30ドル相当のビットコインをボーナスとして配付したが、人々はこぞってATMから米ドルを引き出そうとしたという。仮想通貨は投機以外に使い道がないので、筆者も同国の試みは失敗に終わると思っている。

パチンコ玉を500万円とか700万円で取引する世界へ、一攫千金を夢見て入っていくのは個人の自由だが、そこは海千山千のワイルド・キャピタリズム(無法資本主義)の世界だと認識しておくことが必要だ。