· 

「孤立する人を生まない組織」こそ幸せになれる訳

組織の病としての「孤立」

リモートワークが拡がる中で、今まで以上に気をつけなければいけないこと。それが「孤立」だ。とはいえ、その孤立した人が悪いのではなく、これは組織の病である。喩えていうと、ニキビは皮膚に生じる病気だが、ニキビのできたところが悪いのではない。全身の状態や体質や生活習慣などに原因があり、それがたまたまある箇所に、ニキビとして顕在化するわけである。組織に生じる孤立も、孤立した人に原因があるという見方は適切ではない。組織全体の問題なのだ。

孤立を解消するのをITとデータが強力にサポートする。これを具体的に示すために、あるコールセンターの事例を紹介しよう。このコールセンターは、商材を潜在顧客に電話をかけて売り込む、いわゆるアウトバウンドのコールセンターだった。パートタイムの従業員が多い職場で、マニュアルどおり顧客候補に電話をかけ、1時間あたり何件注文を取ったかによって従業員は評価されていた。

このコールセンターのパフォーマンスは何によって決まっているのか、どうすればよい生産性を上げられるのかは、大変重要な課題であった。

われわれは、コールセンターの従業員の行動を名札型のウェアラブル端末で収集し、受注率などのデータと合わせて解析した。この名札型のウェアラブル端末は、「幸せな組織をつくれる人と不幸にする人の決定差」(5月15日配信)で紹介したように、装着している人どうしで、誰と誰が、いつ面会したかのデータを収集できるものだ。

その結果によると、まず、コールセンター全体の受注率が日々大きく変動していることは明らかだった。受注率は日ごとに2倍以上も変動していた。

 

さらに、日ごとに働いている人は入れ替わっていた。したがって、出勤している従業員が、たまたま能力の高い人が多いときに、受注率が高くなると考えられた。ところが、個人のパフォーマンスデータ(過去の受注実績)を確認してみると、驚くべきことがわかった。高パフォーマンスの人が多い日に、センター全体の受注率が高いということはまったく見られなかったのである。

電話での営業には、性格的な向き不向きがあると思われた。そこで、オペレーターのパーソナリティー(性格)の調査も行った。しかし、このパーソナリティーと受注率との間にも相関はなかった。

「孤立」がパフォーマンスを損なう要因だった

意外なことに、受注のパフォーマンスを損なっていたのは、「孤立」だった。名札型ウェアラブル端末で収集した面会のデータから、そのことが判明したのである。

孤立が発生するとき、組織内の人がどんな状況に置かれるかを描いてみよう。まず、組織の中で、他の誰かが独占的に人とのつながりや影響力を持っており、その結果、自分には人とのつながりの数や他の人への影響力が、相対的に少なくなる。このため、組織の中で相対的に情報の獲得も少なくなりがちである。

加えて、必要があっても、質問しにくい、あるいは話しかけにくい雰囲気で、正式にスケジュールされた会議のとき以外には会話がしにくい。会議で発言しても、まわりの人たちはうなずいたり、関心を示したりして、タイミングよく反応するわけでもなく、むしろ、自分の元気を奪うような反応しかしてくれない。しかも、会議においても、発言権は、他の誰かに占有されており、自分からは話しにくい状況である。これが孤立した人の置かれる典型的な状況である。

ここで認識しておくべきことがある。孤立とは、人との接点がないことではない。人が孤立を最も感じるのは、むしろ人と一緒にいるときなのである。人と一緒なのに、自分に関心を持たれず、応援されず、信頼されず、元気を奪われるような反応ばかり受けることによってわれわれは孤立を感じる。まわりに関わる人が多ければ多いほど、このような反応を感じたときの孤立は深まる。そのような状況ならば、「いっそ1人きりでいたほうがまし」と思えるのが孤立なのだ。その結果、本当に1人きりの状態に自らを追い込むことにもなりがちなのである。

さらに重要なことは、この孤立した人、その個人のパフォーマンスが低くなるだけではなく、孤立した人が多い日には孤立していない人のパフォーマンスも低くなる点である。このコールセンターの例では、データが明確にこれを示していた。孤立した人がいるような状況では、全員のパフォーマンスが低下するのである。まさに、孤立とは「組織の病」なのである。コールセンターのように一見、個人プレーの業務でも、人は無意識のうちに、職場の雰囲気に強い影響を受けていたのだ。しかも、それは受注率という数字に明確に出ていた。

われわれは、この孤立という問題の解決のために、データを利用した実験的なアプリを開発し、適用した。コールセンターには、オペレーターの支援を行ったり、声かけを行ったりするスーパーバイザーがいる。この開発したアプリは、スーパーバイザーに孤立した人をつくらないような、声かけの優先度を示すものである。ウェアラブル端末のデータから、そのとき孤立している人を検出し、その人への声かけを促すのだ。

このアプリを約1年にわたり使用してもらった。また、まったく同じ業務を行っているもう1つのセンターには、このアプリを使わずにそのまま業務を行ってもらい比較した。その結果、この孤立を防ぐアプリによって、2つのセンターで、受注率は年平均で27%もの大差がついた。大きな業績の差になって表れたのだ。テクノロジーを使えば、データに基づき支援が必要な人を検出することができ、スーパーバイザーがその人に優先的に行動を起こすことが可能になること、その結果、従業員の孤立を防げることがわかったのである。

幸せなリモートワークのための4箇条

コロナ禍以降、在宅勤務あるいはリモートワークや、リモートとフィジカルのハイブリッドワークが広く行われるようになった。しかし、リモートワーク疲れを感じたり、難しさを感じたりする人も増えている。リモートワークでは孤立が発生しやすい。先の例でもわかるように、孤立は生産性に大きな影響を与える組織の病である。そして、孤立はマネジメントによる介入によって緩和することができる。

拙著『予測不能の時代』でも詳しく解説しているが、幸せで生産的な集団には、普遍的に見られる以下の4つの特徴があることが研究からわかっており、これはリモートワークでも成り立つ。

第1の特徴(F=Flat) 人と人のつながりが特定の人に偏らず均等である(上司と部下の関係だけでなく、いろいろな立場の人どうしがつながっている)

第2の特徴(I=Improvised) 5分から10分の短い会話が高頻度で行われている(いつでも立ち話でちょっとした確認・相談ができる雰囲気がある)

第3の特徴(N=Nonverbal) 会話中に身体が同調してよく動く(うなずきや、相づちが会話中に行われている)

第4の特徴(E=Equal) 発言権が平等である(一部の人だけが一方的に話すということがない)

すなわち、幸せで生産的なリモートワークができる集団では、このFINE(=Flat-Improvised-Nonverbal-Equal)なコミュニケーションがあり、いろいろな人と人の組み合わせで、5分程度の短い相談や質問や雑談が、リモート環境でも頻繁に生じている。そして面会やビデオ会議の際には、互いに身体を同調させ、それが見えやすい工夫をすることで信頼や共感を、言葉を超えて確認しあいながら、遠慮せず皆が発言しあっているのである。

反対に、幸せでない集団では、特定の人が、独占的に多くの人とビデオ会議や電話で会話しており、しかも、時間的にも会議などの場に偏っている(たとえば毎週1時間の定例会議などのみで、それ以外の日には会話がない)。会議ではメンバーが互いに身体運動を同調させなかったり、それを相手に見えやすくする工夫を怠っていたりするために、不信感が言葉を超えて表れ、しかも、特定の人のみに発言権が偏っており、他の人は沈黙しているのである。

意識すべきは、リモートワークの環境下では、このFINEの4条件を自然に満たすことがより難しくなることである。だからこそ、われわれは意識的に工夫する必要がある。仮に制約があってもできることはあるからである。よく考えると、この4つとも、リモートワークの中でも工夫すれば実現可能である。それを意識して行うかどうかにかかっている。

上司と部下の会話だけでは効果的ではない

おそらくリモートワークでも多くの場合、上司と部下の会話は行われているであろう。意識的で計画的なコミュニケーションは可能である。たとえば、議題が明確な会議は可能だ。

しかし、それだけではだめである。部下と部下のいろいろな組み合わせで、5分程度の短い相談や確認や雑談があったほうがよい。しかも、遠慮せずに発言しあうことだ。このことをマネジャーがメンバーに推奨し、職場のメンバーが認識し、日々実行するだけでも大きな変化が期待できる。

より効果的なのは、いろいろな人の組み合わせで仕事を割り当てることである。職場では、共同して進める仕事がないのに、つながるのは難しい。だから、一緒に仕事をするつながりが固定化することは、リモートワーク環境下では幸せと生産性を下げる危険がある。意識して、人と人との組合せを流動化することが重要なのだ。

しかし、ともすればマネジャーは、仕事が進み始めると、仕事を安定させるために、既存の人の役割と人との関係性をそのままにしておきたくなる。リモートワークのときには、意識して別の組み合わある。職場には、いろいろな雑務を含めた活動やタスクが発生する。それを、従来とは異なる組み合わせのペアや3人組に割り当てることが大変重要である。

そして、テレビ会議や電話でも、相手を想像して、身体を同調させることである。電話での会話で「うなずく」ことをおかしいと思うかもしれない。とんでもない。それこそが、相手を想像し、身体を同調させるという幸せの重要な条件である。テレビ会議では、少し大げさなぐらいに大いに行うのが望ましい。それも、よく見えるように工夫したほうがいいのである。