デルタ株対策「やっていいこと」と「ダメなこと」

新型コロナウイルスのワクチンは特に重症化の予防に高い効果を示しているが、ワクチンを突破するブレークスルー感染がニュースになっていることから混乱や不安を感じている人も多い。では、デルタ株の感染が広がる中、接種済みの人たちは日ごろどのような点に気をつけるべきなのか。専門家に聞いた。

予防接種でつくられた抗体は「防波堤」

デルタ株にワクチンは効かない?

新たな研究では、接種を完了した人でも新型コロナに感染して高いウイルス量を持つ場合のあることが明らかになっている。しかし、そうしたケースは少ないという点は、ぜひ覚えておいていただきたい。ウイルスに感染し、周囲に感染を広げているのは主に未接種者なのだ。

「接種を受けた人は、自分、家族、友人の安全のために最も重要な対策は済ませていることになる」とイェール大学公衆衛生大学院のグレッグ・ゴンサルベス助教授は言う。

接種が済めば、デルタ株は怖くない?

ワクチンの効果は100%ではない。予防接種でつくられた抗体は防波堤のようなものだと考えてほしいと、マサチューセッツ大学ダートマス校のエリン・ブロマージ教授(比較免疫学・生物学)は話す。

普段なら波に乗り越えられることのない防波堤でも、強力なハリケーンの高波に襲われれば町が水浸しになることもある。デルタ株はこうしたハリケーンに近い。感染力が格段に上がっているため、ワクチン接種を終えた人の免疫システムにとっても従来株以上の脅威となる。

幸い、現在アメリカで接種可能となっているワクチンは、重症化、入院、死亡の予防に極めて大きな効果をあげている。入院患者の97%超は未接種者だ。さらにシンガポールの新たなデータによれば、デルタ株によるブレークスルー感染で入院することになったとしても、接種済みの患者は未接種の患者に比べ、酸素補充が必要になる確率は圧倒的に低く、ウイルスが体内から消えるまでにかかる時間も短い。

ブレークスルー感染はどれくらい起きている?

ブレークスルー感染が起きる確率は低い。アメリカ疾病対策センター(CDC)はブレークスルー感染の追跡を5月に取りやめたが、約半数の州は今でも部分的な報告を続けている。その州のデータを使ってカイザー・ファミリー財団が行った分析では、接種完了者が入院や死亡に至るケースは極めてまれであることが明らかになった。

ただ、未報告となっているブレークスルー感染も多いとみられる。ブレークスルー感染を起こしていても、無症状だったり、軽症のまま治ったりして検査が行われなければ、統計には表れてこないからだ。

「ブレークスルー感染は珍しいものだが、それがどれくらい珍しいのかは、住民を無作為に検査してみないことにはわからない」と、ボストンのブリガム・アンド・ウィメンズ病院とハーバード大学公衆衛生大学院が共同運営するアリアドネ研究所のエグゼクティブ・ディレクター、アサフ・ビットン医師は指摘する。

どんなマスクが望ましいのか

接種すればマスクは要らない?

屋外の混み合っていない場所で、他者との間に十分な距離(少なくとも約1.8メートル以上)を確保できる場合にはマスクを着ける必要はない。これが大方の専門家の一致した見解だ。屋外であっても満員のコンサートに行くのはリスキーだが、それでも行く場合はマスクを着けよう。

「ワクチンを接種したかどうかわからない人と屋内にいる場合には(あなたが接種済みであっても)マスクの着用をお勧めする。とくに短時間であっても1メートル程度しか距離がとれない場合とか、同じ部屋で長時間過ごす場合には、マスクを着けた方がよい」と、エアロゾル科学に詳しいデンバー大学のアレックス・ハフマン准教授(化学・生化学)はアドバイスする。

もっと強力なマスクを使うべき?

防御効果が最も高いのはN95、KN95といった高品質の医療用マスクだが、偽物をつかまされないようにしたい。韓国製の高性能医療用マスクKF94の偽物は比較的少ない。医療用マスクを持っていない場合でも、一般的なサージカルマスクの上に布マスクを被せる二重マスクとすることで、かなりの防御効果が得られる。

排気弁付きマスクは絶対に使用しないこと。ウイルス粒子をそのまま外に排出させるものだし(つまり、あなたが感染していれば他人に感染させる)、偽物だった場合には排気弁が正しく機能せずウイルスを吸い込むことにもなる。

ワクチン接種率の高い地域なら、客のほとんどいないコンビニでさっと買い物を済ますぶんには布マスクだけでも大丈夫だろう。ただ、飛行機に乗ったり、混雑したスーパーに出かけたりする場合には、高品質なマスクを着用するべきだ。とりわけ接種率が低く感染者数が多い地域では、そうする必要がある。頭の後ろでストラップをかけたり結んだりするタイプのマスクの方が、耳にかけるタイプのマスクよりも密着性が高い。

「よりフィルター効果が高く、顔にぴったりと密着するマスクにアップグレードすることを強くお勧めする」とハフマン氏。「最も大事なポイントは、マスクの端全体を鼻の付け根、頬、顎の下に確実に密着させることだと思う。ゆるゆるのマスクより、しっかりと密着するマスクの方が、ほぼ例外なく効果は高い」。

「アウトドア・ファースト」で

接種済みの友人となら集まってもOK?

接種者から接種者に感染することはまれだが、理論的にはあり得る。接種済みの友人でも、混み合ったバーや満員のコンサートに出かけたり、感染の多い地域に行ったりしている人の方が、人混みを避けてほとんどの時間を接種済みの人と過ごしている人よりも、他者に感染させるリスクは高い。

デルタ株が流行している中で、ビットン氏がとくに未接種の子どもや重症化リスクの高い家族のいる世帯に勧めているのが「アウトドア・ファースト」の戦略だ。人が集まって何かをする場合には、場所を裏庭や中庭に移し、屋内で過ごす時間を最小限にすることで、感染のリスクを下げるようにする。

接種済みの友人と少人数で時間を過ごすのは、大きなパーティーに参加するよりはリスクが低い。そのパーティーの参加者全員が接種を済ませたと考えられる場合であったとしても、だ。屋内で集まるときには、窓を開けて換気を良くしよう。高齢だったり、免疫機能が下がったりしているなど、非常に高いリスクを抱えている人と一緒に時間を過ごす場合は、接種を完了した人に対しても来訪前に検査を受けるよう頼むべきだ。

外食は問題ない?

答えは、地域の状況や、あなたや周りの人たちが抱えている健康上のリスク、あなたがどこまでリスクを許容できるかによって変わってくる。ワクチン接種率が高く、感染の極めて少ない地域であれば、レストランで食事するリスクは低い。

ワクチンを接種していない子どもの親や、免疫機能に問題を抱えていてワクチンの効果が通常よりも低くなることがわかっている人は、一段と用心してテイクアウトにするとか、店内ではなく屋外で食べるようにしたい。

 

飛行機に乗っても感染しない?

飛行機の機内は基本的に換気が行き届いており、集団感染が頻繁に発生するような場所ではない。それでも予防策はとるべきだ。感染者と接触する可能性は、機内よりもターミナル、空港のレストランやバー、セキュリティーチェックを行う保安検査場のほうが高いかもしれない。機内の空気は2〜3分で入れ替わるようになっており、換気レベルはスーパーなどの店よりも高いといえる。

飛行機の換気システムは空気が機内全体を循環して全乗客に広がるのを防ぐため、空気の流れをいくつかの列に区切っている。つまり、感染した乗客から機内で最も高いリスクにさらされるのは、近くに座っている乗客ということになる。

大半の専門家は、飛行機で移動する場合にはN95やKF94といった高性能な医療用マスクを使用すると述べている。そうしたマスクを持っていない場合には、マスクを二重にするのが賢明だ。

ワクチン接種を済ませている人は、フライト中にお菓子やおつまみを食べたり、飲み物を飲んだりするため一時的にマスクを外すリスクは低い。それでも、マスクはできるだけ着けておくようにしたい。CDCは、子どもなどワクチンを接種していない人には、飛行機の利用を避けるようアドバイスしている。

学校が始まると孫との接触リスクは高まる

バス、地下鉄、電車はどこまで安全?

乗車時間が長くなればなるほど、また車内が混雑していればいるほど、ウイルスにさらされるリスクは高くなる。通勤や通学で公共交通機関の利用が欠かせない人は、しっかりと顔にフィットする医療用マスクを使用するか、二重マスクにすることをお勧めする。それ以外の人は、地域のワクチン接種率や感染状況を頭に入れた上で、公共交通機関を利用するかどうか判断してもらいたい。

未接種の孫とハグしても大丈夫?

接種者同士であれば一般に、ハグしたり、マスクを外して一緒に過ごしたりしても危険はないと考えられている。しかし、ワクチンを接種していない子どもの親は、リスクについてもっとよく考える必要がある。高齢の親族を訪問する場合は、とくにそうだ。感染者数が少なく、ワクチン接種率の高い地域であれば、未接種の子ども(ただし、1つの世帯の子どもに限る)が接種を完了した祖父母と過ごすのは、おおむね問題ないとみられている。

しかし、デルタ株が流行する中、夏休みが終わって子どもが再び学校に行くようになると、孫と触れ合うことでリスクは高くなる。高齢だったり、免疫機能が低下したりしている人は、新型コロナに感染して合併症を引き起こす危険が相対的に高いからだ。この点は、接種を終えていたとしても変わらない。