40代で「FIRE」すると年金はどれくらい減るのか

早々にFIREすると年金はどうなる?

国の年金制度は、国民全員が加入する国民年金と会社員や公務員が加入する厚生年金があります。会社員か公務員で働いているあいだは厚生年金に加入していますが、あなたがFIREを成功させてリタイアしたあとの年金はどうなるでしょうか。

年金制度はFIRE後も加入する必要があります。会社員を辞めても、60歳になるまでは国民年金に加入して保険料を納めるのです。国民年金は20歳から60歳まで40年納めると満額がもらえ、未納期間があるとその分年金額が減ります。

つまり、FIRE後に未納を続けると、月6.5万円すらもらえないことになります。25年分しか納めず残り15年を未納すると25/40、つまり62.5%分の基礎年金(もらうときは老齢基礎年金と名前が変わる)しかもらえません。そもそも加入は義務であり、リタイア後も国民年金保険料を負担することは織り込む必要があります。

 

厚生年金についてはどうでしょうか。

厚生年金保険料には国民年金保険料が含まれている仕組みとなっていますので、会社員を続けた場合、老齢基礎年金をもらい損ねる心配はありません。

FIREをしてリタイアしたあとは、厚生年金保険料を納める義務はありません。しかし、老後の年金額に影響が出ます。

厚生年金について、計算式を簡単にいえば

(保険料を納めていた期間の平均賃金)×(保険料を納めていた年数)×(生年月日等での係数)

となります。もっと簡単にいえば

・平均賃金が高い人はその分年金額も増える
・加入年数が長い人はその分年金額も増える

ということです。

20年早くFIREしたら、厚生年金は「およそ半分」

仮に同じ年数働いた同僚2人であっても、片方がずっと平社員で片方は役員までのぼりつめれば、その差は年金額にも跳ね返ります。給与が高いほど保険料もたくさん引かれ、その分年金額が増えるからです。平均賃金が1.5倍になれば、年金額も1.5倍ということです。

仮に平均賃金が同じであった2人でも、45歳で辞めて以降はアーリーリタイアした人と、65歳まで働いた人では長く働いたほうの年金額がその分アップします。23年働いてFIREした人と43年働いた人とでは早期退職した人は年金がほぼ半分ということです。

これは厚生年金制度の設計が「報酬比例」という仕組みであると同時に、本人の加入履歴によって年金額が変化する仕組みを採用しているからです。

そうすると、FIREを目指す人には大きな問題があります。それはつまり「早期リタイアすると、その分厚生年金水準が下がる」ということです。標準的な老後をスタートした以降の定期収入(しかも終身)の金額が大幅にダウンするということです。

そうすると、通常のFIREに必要な資産の上積みだけでは十分ではなく、65歳以降の本来のリタイア生活が始まったとき、公的年金水準がダウンする分を上乗せしてFIREを準備していく必要があります。

標準的な夫婦は合計で約22万円を毎月もらえます。基礎年金相当分を引くと約10万円が厚生年金に相当します。人生の半分をリタイアするのなら、厚生年金が半分、月5万円がダウン、年間60万円になります。人生100年時代を見据え、30〜35年くらいの老後を見据えてこの水準を穴埋めするとなれば1800万〜2100万円の上積みが必要となります。

 

数字が近いので誤解のないようにいいますと「老後に2000万円」とこの2100万円は別枠です。もともと公的年金では不足する分を月5万〜6万円としていたのは、普通の会社員のケースですからFIREするならさらに同額の上積みが必要ということです。

公的年金制度とFIREとをどう接合していくかは、今まであまり指摘がされていませんでした。どうしても運用テクニックに主眼が集まっていたからです。

しかし「FIREによって将来の年金額が下がることを織り込んで、資金準備を行うこと」は考慮しておくべきことと思います。特に、70歳代以降については資産運用から手を引くことも考えられ、運用収益で暮らしている限り資産は減らない、というようなモデルが通用しなくなります。

だからこそ、公的年金は終身でもらえるメリットがあるわけですが、FIRE挑戦者は年金水準が下がるデメリットを背負い込む覚悟が求められるわけです。

FIRE実現の時期によって年金水準も変化

ここで「約2000万円+2000万円」としましたが、これは30~40歳代でのFIREを目指す場合の話です。厚生年金に加入する期間が短すぎるために影響を受けています。

これがもし「プチFIRE」や「50歳代FIRE」を目指すとどうなるでしょうか。

まずプチFIREであれば、5年早いリタイアを目指していますから、公的年金についてはあまり影響しません。38年と43年の違いは期間にして12%の影響がある理屈ですが、現在のリタイア年齢では最後の5年間の賃金は低くなります。つまり、平均賃金は43年のほうが低くなるため、年金額が12%下がるほどの影響はないからです。「プラス2000万円」の上積みを図る必要はないでしょう。

50歳代のFIREはその中間になります。半額になるほどではありませんが、年金額が4分の1くらいは下がる影響を考える必要があります。「プラス1000万円」くらい見込めると安心です。

より具体的に検証したい場合は、国の年金WEBサイトである「ねんきんネット」でシミュレーションをすることができます。自分の公的年金の加入履歴を確認し、そこまでの加入条件での年金額を見るだけではなく、その後の加入履歴を踏まえたシミュレーションができるようになっています。

ところで、FIREを目指す人は20歳代から30歳代にかけて年収を大きく高めることが多いと思います。世の中の平均が300万円台のところを700万円以上とした場合、早期リタイアをしてもあなたの平均賃金(保険料を納めていた期間)は高いことになります。

ゆえに厚生年金額もアップしそうな気がしますが、落とし穴は「加入期間」のほうです。年金額計算では「平均賃金」と「加入期間」のかけ算をするため、20年ほど厚生年金未加入であることがやはり年金額のダウンに大きく影響します。

若いうちからたくさん稼げるようになったとしても、基本的には老後の年金水準が高まると考えないほうがいいでしょう。