· 

アフリカで大成功!先進国発「ユニコーン企業」

240万人が使う遠隔診断/AI診断サービス

固定電話を引かずに、いきなり携帯電話が広がったことなどは、「リープフロッグ(蛙飛び)イノベーション」と呼ばれたりしますが、それは通信の世界だけではありません。アフリカでは、金融、医療、物流など、あらゆる分野に広がっています。

アフリカには、レガシー(既存インフラ・既得権益者・岩盤規制)が少ないため、先進技術が、一足飛びに社会に広く浸透するのです。

そして近年、先進国のベンチャー界で起きている1つのモデルがあります。研究開発は先進国で行い、商用サービスを最初にアフリカで行うというモデルです。理由はシンプルで、レガシーが少なく先進のサービスがすぐに提供できるからです。

その1つに、イギリスのベンチャー「babylon/babel」がスタートした遠隔診断/AI診断サービスがあります。2019年末時点で、すでに累積で240万人が、このサービスを使っているといわれています。

babylon/babelが商用サービスを本格的にスタートさせたのは、ルワンダでした。ルワンダの保険省と組み、地域医療と連携して展開しています。

ご想像いただけると思いますが、ルワンダには病院が多くありません。人口の8割がいる農村部には大きな病院はほとんどありません。代わりにヘルスセンターと呼ばれている施設が全国に50カ所あります。このうち30数カ所を選び、そこの人をトレーニング。まずはモバイルのAI(現在は実証中)やコールセンターでの診断、次はナースによる診断、最後はドクターによる診断という遠隔診断の体制を作っています。

具合が悪くなった患者はまず、ケータイからAIのチャットボットで症状を入力していきます。そうすると、AIが症状を初期診断して返答します。

もし、これで解決できない場合は、ナースが出てきて対応します。それでも難しい場合は、最後にドクターが出てきて、遠隔で診断を行います。

費用は1回200ルワンダ・フラン。日本円で20円ほどです。モバイルマネーで支払うことができます。

2019年時点では、いきなりAIのチャットボットを使うことのハードルが高く、まずはアポを入れ、費用をモバイルマネーで支払って、そのあと5分以内にコールバックがあり、ナースなどによるコールセンターで対応していました。

一般薬であれば、コールセンターで対応ができます。医科向けの処方薬の場合は、ドクターが処方。処方箋は電子的に発行します。

babylon/babelは「世界で最も先進的な医療プラットフォームを構築し、診断をより手軽にし、個人に対応した健康診断や治療を世界に提供する」ことを目標にしています。従業員数は170人ほどですが、2020年にはすでにユニコーン企業(時価総額10億ドル超のベンチャー企業)になっています。

日本は医師が約28万人、人口1000人当たり2.4人いますが、ケニアでは0.2人、エチオピアで0.1人。日本の25分の1ほどしか医師がいません。近くの医者に行こうとしても、バスに乗って数時間、なんてケースもざらにあります。

そこで、地域のヘルスセンターと遠隔診断を活用することにしたのです。2019年当時で1日に約2000コールあったそうですが、最終的に病院を紹介したのは17%だったそうです。83%はこの遠隔診療で完了したのです。

つまり、本来なら100人病院に行っていたところが、17人まで減らせた。大変な医療の効率化につながった。いずれは、このノウハウが先進国に広がっていく可能性があります。アメリカの大手の保険会社がこれに注目し、これを自社の北米の保険ユーザーに利用してもらうことを検討しているそうです。それによりbabylon/babelがユニコーン企業になったのです。

もし、これを日本でやったらどうなるか。外来が83%減ったら大騒ぎです。だから、アフリカから事業をやる、とも言えます。

15分で血液や医療品を運ぶドローン

次にご紹介したいのが、サンフランシスコの企業で、ドローンの商用物流サービスをルワンダとガーナで行っている「Zipline」です。事業はドローンを利用した血液や医薬品などの物流事業。いわゆる、ドローンデリバリーですが、こちらもすでにユニコーン企業になっています。

ドローンといっても固定翼型で、発射台(カタパルト)から飛び出していくと後は自動で飛び、自動で戻ってくる自律飛行型ドローンです。最高時速80km、ルワンダでは平均15分で病院に到着、パラシュートで血液や医薬品を落下させて自律運転で帰還します。

固定翼のため天候の影響が少なく、約1.8kgまでの製品を1度に配送可能です。血液バッグなら3つ。ドローン専用空港が、ルワンダに2カ所、ガーナに4カ所あります。1つの空港で半径80kmの範囲をカバーしています。2019年当時、1日200フライトの商用物流をしていたそうです。

仕組みは単純。アプリで病院から注文を受けると、積み荷を胴体に入れ、配達先を入力、発射台に乗せてボタンを押せば、自動で飛んでいきます。

ルワンダでは、2つの専用空港でほぼ全土をカバー。ルワンダで必要な血液の約6割の輸血血液をZiplineが配送しているそうです。

どうして血液をドローンで運ぶのかというと、アフリカにはまだ血液を病院にストックしておく仕組みが不十分で、道路のインフラも脆弱だからです。よって、空港近くの2カ所のセンターにストックしておき、そこから全土にZiplineが運ぶのです。

しかも、使われているのは「全血」です。先進国では成分輸血です。赤血球や血小板などを分けています。しかし、アフリカにはまだ成分を分ける機械が十分にない。全血は傷みやすく、保存期限は短い。よって、センターでまとめて保管して、全土に配送しているのです。さらに地方は未舗装道路も多く、雨期は道がドロドロになり、バイクでの配送も時間がかかります。

アフリカ全体では年間8億回の輸血機会があり、現状はその半分程度しか提供できていないそうです。出血多量で多くの人が亡くなってしまう。そんな実情があるからこそ、求められているサービスです。

ドローンベンチャーは今や世界中に数千社あるようですが、最も時価総額が高いのがこの会社です。時価総額はすでに15億ドルに達しているそうです。日本の大手商社なども出資しています。

商用物流サービスとして数多く飛行実績を積むことで、ドローンの頭脳はどんどん進化します。これが最大の差別化の要因になり、評価されているのです。この実績を基に全世界に展開していく可能性がある。アフリカは、その実験場になっているのです。

サブスクで使えるモバイル式超音波診断

もう1つ、ご紹介したいのが、こちらもすでにユニコーン企業になっている、アメリカのモバイル式超音波診断機の「Butterfly」です。ハンディタイプの超音波診断機です。最大の特徴はスマホ直結型でクラウドにつなげ、遠隔診療やAI診察が可能なことです。

健康診断などで超音波診断機を使う際は、ドクターや専門技師が直接操作し、その場で診察・診断するのが通常です。Butterflyでは、操作の研修を受けた人が操作をして、そのデータをクラウドにアップします。それを、AIや専門医がチェックし診察ができるのです。本人が操作することもできます。

スマホ直結なので電源がなくても使えます。その場に専門の医師がいなくてもいいので医師の少ないアフリカにはうってつけです。

地方のヘルスセンターや病院、産婦人科の検診や内臓疾患の検診、新型コロナ感染症の検診にも使われ始めています。

従来型の超音波診断機は、1台200万円程度します。ところがButterflyは、その10分の1の2000ドル(約20万円)です。しかも売り切りではなく、クラウド使用料なども含めたサブスクリプションモデルを導入しています。アフリカなどの新興国では、さらに安価な料金で使用できるようにもしているようです。

2019年、アメリカでFDA(米食品医薬品局)の認証を取り、アフリカや中南米などでも展開を始めました。既存製品よりも安価で、しかもサブスクでできる。UI(ユーザーインターフェース)も極めて使いやすくできており、感心させられます。

新しい医療機器のモデルということで、一気にユニコーン企業に躍り出ました。これもまた、医療機器のディスラプティブ(破壊的)イノベーションと言っていいでしょう。

3社ともアフリカでサービスを展開することで、何より大きいのは、ビッグデータの獲得です。AI開発では、学習に必要な教師データとなる実際のデータをいかに多く集められるか、学習させられるかが、極めて重要です。そうでなければ、賢くならないからです。

ドローンベンチャーのZiplineが高い評価を得ているのも、毎日200フライトもの実際の商用飛行をしているから。ドローンの頭脳も、飛ばせば飛ばすほど、賢くなります。どんどんデータを蓄積できる機会を得られることは、大きな強みになるのです。

なぜ、これらのベンチャーがアフリカで本格商用サービスを展開するのかというと、既得権益や規制が少なく、データの蓄積ができるからです。

日本のような、東京23区は飛ばせない、有視飛行のみ、事前申請が必要、積み荷が落ちたらどうするか、などがんじがらめの環境では、データ蓄積に時間がかかりすぎて、競争に負けてしまいます。

Butterflyの商用サービスは12都市ほどで、本格的な展開はこれからのようですが、すでに大きな注目を浴びています。お腹の中にいる赤ちゃんの動画が撮れて、自分のスマホでもその動画が見られるので、産婦人科でも人気のサービスになっているそうです。

アフリカビジネスの醍醐味

他にもライブマーケティングで急成長しているアフリカ版TikTokの「Vskit」、超絶成長中の海外送金手数料無料サービス「Chipper Cash」、日本で40年かかった全国物流を1年で実現させた「kobo360」、ナイジェリアの都市部で血液デリバリー事業を展開している「LifeBank」 などが大ブレイクしています。

共通しているのは、既得権益者がいないところで「本質のニーズ」に対してIT技術でソリューションを提供し、大ブレイクしていることです。これが、アフリカビジネスの新しい醍醐味なのです。

日本では、新型コロナの流行で大きな打撃を受けたタクシー会社が、モノを運ぼうとするのですら、上へ下への大騒ぎです。結局、不便を被っているのは企業や消費者といったユーザーです。遠隔診断ですら、医師会の強い反対があり、なかなか普及しない。

既得権益者がいると、それをとられまいとする大きな力、それを守ろうとする力学が働きます。だから新しい取り組みが遅れてしまうのです。いいアイデアが生まれても、実現ができない。

アメリカのシリコンバレーの会社が、アフリカから商用サービスを展開するのは、極めて合理的です。既得権益者がいないところでまず成功させれば、いずれ規制が緩和される先進国でも、その事業ができるようになるかもしれない。

特にAIを使うドローンや自動運転のようなサービスは、実証サービスの中で進化させる必要があります。リアルでのデータの数と、それによる進化・改善が、とても重要だからです。その実験場として、アフリカは最適なのです。

それこそ、日本で30〜40年かかったことが、数年でできてしまう可能性があるのが、アフリカです。日本のベンチャーも、十分にチャンスがあると思います。