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「理想的な常連客」一般人の常識裏切る3つの実態

新型コロナウイルスの影響で、接客業は変化の渦中にあります。インターネット販売や、アプリを使った宅配サービスの普及などにより、直接対面で接客する機会がぐんと減りました。

今までと同じことを同じようにしているだけでお客様が来てくれる時代は、もう終わりを迎えています。この先、以前のように戻る保証はありません。

私は、さまざまな業種でのべ15万人のお客様を接客してきました。現在は、外資系一流ホテルの鉄板焼レストランでシェフをしています。そして、ありがたいことに何年もの間、指名・リピート率No.1を維持しています。

正直な話、リピートするお客様、つまり常連客でいっぱいになれば、新規のお客様獲得のためにあくせくホームページを更新したり、ネット広告を掲載したりする必要はなくなります。集客のために今かけている多くの時間やお金が必要なくなり、上司にどやされることもなくなるでしょう。

では、実際にはどんなリピート客がいらっしゃるのでしょうか。私の経験を交え、3つの意外な実態をご紹介しましょう。業種や業態によってもちろん違いはあると思いますが、あらゆるビジネスに共通する常連客や取引先とお付き合いするコツの一端があるはずです。

まず、週に何度も来たり、毎月決まって来たりする人が最も狙いたく、理想的な常連客かもしれません。もちろん、われわれとしては、お客様に毎週、毎月と来てもらえたら、こんなにうれしいことはありません。

「細く長く来てもらえる」お客様

ところが、すべてのお客様がそうなるのは難しいです。だから私の経験から言っても意外なリピート客の1つ目のパターンは「細く長く来てもらえる」お客様です。

鉄板焼のお客様で、指名で8年間通っていただいているお客様がいます。そのお客様の来店頻度は年に数回です。

少ない? そうです。多くはありません。

では一体、どういった時に来店なさるかというと、記念日や、大事な人を招待したい時に利用していただいています。それもそのはず、1回で数万円する食事を、躊躇なく楽しむことができる方はごくわずかです。お客様の中には、10年越しの結婚記念日に来店された方もいます。

お客様には都合があります。仕事やプライベートのスケジュール、金銭面などです。いくら自分で素晴らしい接客をしたと思っても、すぐにお客様の来店という形で返ってこないことは、往々にしてあります。

ですので、同じお客様がすぐに戻って来なくても、気に病むことはないと私は考えています。

意外なリピート客の2つ目のパターンは「クセが強い」お客様です。

横柄な態度を取るお客様を接客することは、キツい方を選ぶこととつながるところがあります。数多のお客様の中には、行動や言動が変わっているお客様もいると思います。私も今まで、そのようなお客様にたくさん出会いました。

その中で気づいたのが、クセの強い人ほど、指名する傾向にあるということです。理由もわかっています。それは、そういう人ほど、受け入れてくれる人や場所が限られているからです。

こだわりが強い人は、自分がいいと思う場所にしか行きません。クセの強い人も似たところがあります。そこで提供しているサービスを超えて、自分の望むものを要求したり、細かすぎる注文をしたりします。そうすると、あちこちで煙たがられ、行けるところを自分で狭めてしまっている可能性があります。

ですので、そういう人は自分を受け入れてくれる人や場所をとても気に入ります。そして、指名もするようになるのです。

「ああ、近づきたくないな、何か変なことを言われたら嫌だな」と思って避けてきたお客様がいたら、ここで少し見方を変えてみてほしいのです。もし、相手をするのが耐えられないくらいにつらいなら、無理はしないほうがいいと思います。人間には得意不得意が必ずあります。生理的に受け付けない人もいます。それも人それぞれだからです。

しかし、お客様と直接話をして、自分が耐えられるくらいの人は、私の場合は自分のお客様になってもらったほうがいいと考えています。

一方、自分はどうしても苦手だけど、他のスタッフは対応できるというお客様もいると思います。その場合は他のスタッフに対応してもらいます。自分だけがつらいわけではなく、職場は持ちつ持たれつなのです。

「言葉がほとんど通じない外国人」もリピート客に

そして最後3つ目となる意外なリピート客のパターンは「言葉がほとんど通じない外国人」のお客様です。

私の常連のお客様の中には、アメリカ在住で毎年必ず来店されるお客様もいます。

ところが、私は英語がほとんど話せません。会話が必要な時は、わかる英単語をいくつか並べるのが精一杯。「そんなレベルでホテルの接客ができるの?」 と思われるほど下手くそです。ですが、そんな私にも、アメリカから訪ねてくれるお客様がいるのです。

そのお客様が話せる日本語は、「コンニチハ」「はい」だけです。したがって、2人で話すとなんとももどかしい会話になるのですが、それでも毎年来てくれます。ある年には娘さんを連れて、またある年には弟さんと一緒に、来てくださいました。

あくまで私見ですが、私の伝えたいという想いと動作やジェスチャーで、「非言語の会話が成立している」から、リピート客になってくださっているという実感があります。

これは、私が接客を受ける立場になっても感じることです。

私が何度もリピートしているカレーの店には、外国人の店員さんがいます。その人は、お世辞にも日本語が上手とは言えません。私の英語レベルです。ですが、気配りが素晴らしいのです。

そこは食事する各テーブルに水ポットがあり、おかわりは自分で注ぐスタイルです。ある時、私が食事を進めるにつれて水がなくなり、氷だけは満タンに入っている状態になりました。氷が入っているので、水がなくなったことは、よく見ていなければわかりません。それにもかかわらず、水がなくなったことに遠目から気づいてくれて、たっぷりの水が入った水ポットを持ってきてくれました。

このような気づかいからは、「自分ができるサービスをお客様にしたい」という心が伝わります。そんな気配りをされると、言葉が少しわからないことなんて、大したことではないように思えてきます。一生懸命さというのは、言葉でなくても通じるのです。

特に観光で来ている外国人のお客様にとっては、日本の旅の思い出として残ります。数々の場所がある中で、自分が関わる場所に来てくれたのは運命。楽しかった思い出の1つとして記憶してもらえれば、一度来た場所だけに安心して再訪できる場所ともなるのです。たとえ言葉が通じなくても、リピートするお客様というのはつくれるのです。

「口コミ」が確実な集客になる理由

そして集客をする際、お客様を確実に増やす方法の1つが「口コミ」です。逆に口コミが悪ければ、自分たちが気づかないうちに未来のお客様が減ることにつながりかねません。それは今、来ているお客様の意見がその口コミに含まれているからです。

人は、誰かがいいと言ったものを信用して欲しがります。レビューで高評価のついている商品がよく売れるのはそれが理由です。口コミも同じでお客様の評価が詰まっているのです。

最後に1つだけ持論ですが、この口コミを広めてもらうために私がやっている仕掛けをご紹介しましょう。これはお客様とコミュニケーションができている時のみに使える、必殺技です。

常連のお客様と話をしているときに、家族やパートナー、職場の人の話が出ることがあると思います。それが一段落したときに言うのです。

「その方と今度一緒にいらしてください」

拍子抜けしたかもしれません。ですが、口コミや集客を考えたときには絶大な効果を発揮するセリフです。1人で何度も来ているお客様は「誰かと一緒に来る」という発想を思いつかないものです。そして、たとえここは自分の秘密基地だと思っているお客様でも心の奥底で自慢したい・伝えたいという欲望を持っているものです。

その常連様から誘いを受けた未来のお客様は「どんなところなんだろう」と少し緊張しながらも、前情報のおかげでワクワクしながら来てくれるはずです。お客様の話に出た人と一緒に来ることを想像させ、実際に連れてきてもらう。未来のお客様を常連様に連れてきてもらうのです。