夏に降る突然雨は「もともと雪だった」意外な事実

日本で降る雨の大部分は上空の雪がとけたもの

誰でも一度は「積乱雲」という雲の名を聞いたことがあるかと思います。実は、積乱雲は気象災害をもたらす代表的な雲。大気の状態が不安定なときに発生し、局地的大雨や落雷、竜巻、突風やひょうが降る原因となります。遠くから見ている分にはきれいなかたちを楽しめますが、その真下では激しい雷雨などになっているのです。

過去に、気象レーダーを使い、発達した1つの積乱雲の中に含まれる水の量を計算した研究があります。その研究からは、なんと積乱雲の中には最大で600万トンの水が含まれているということがわかっています。

600万トンの水というとあまりイメージできないかもしれませんね。これは、25mプール(幅16m、深さ1.5m)約1万杯分と同じ量。また、一般的なご家庭のお風呂(水量200kg)に換算すると、だいたい3000万杯に当たります。積乱雲には、とんでもない量の水が含まれているのです。

梅雨に始まり、日本の夏は嫌になるくらい雨が多く降ります。実は、暑い日に突然降り出す雨を含め、日本で降る雨の大部分は上空の雪が融けたものです。

雨を降らせる典型的な雲のひとつが積乱雲。この雲は背が高く、高い空では雲の温度は夏でも氷点下になります。

雲の中では、上昇気流で空に昇った雲の粒は凍って氷の結晶となり、それらは水蒸気を栄養にして大きく成長していきます。すると、次第に自分自身の重さで落下できるようになり、雪やあられとして落ちてきます。

しかし、地上に近づくにつれて気温は上昇しますよね。雪やあられは0℃よりも温かい空に落ちると同時に融け、雨に変化するというわけです。真冬のように地上が冷えていると、融けずに雪のまま落ちてきます。

雪が融けて雨になるかは地上付近の気温と湿度次第。気温が数℃程度だったとしても湿度が低く乾燥していれば雪が降ります。これは、乾いた空では雪は蒸発(昇華)して自分自身を冷やし、融けにくくなるからです。

「ゲリラ豪雨」の原因も積乱雲

近年では突然降る雨は「ゲリラ豪雨」と呼ばれることが多いですが、これは積乱雲による局地的な雨のことです。

「ゲリラ」という言葉から、いかにも最近起こるようになった“予測できない危険な現象”というイメージを持ちがちかもしれませんが、実は古くから「通り雨」や「夕立」、「驟雨(しゅうう)」と呼ばれてきたもの。昔からよくある現象なのです。

積乱雲の寿命はとても短く、時間にすると30分~1時間程度です。その広がりも、横方向に数km~十数km程度と意外と狭いのが特徴。移動する積乱雲が真上にやってくると突然雨が降り出し、通り過ぎるとすぐに雨があがります。これがゲリラ豪雨のからくりです。

ちなみに、ニュースでよく見る「1時間に100㎜の雨」ですが、1時間に一度1m四方につき小柄な力士(体重を100kgと仮定した場合)がひとり落ちてくるのと同じ重さ。豪雨のときは数十kmにわたって猛烈な雨が降るので、空一面を小柄な力士に覆われているということを想像できます。積乱雲が複数集まるとこのような雨を降らせうるので注意が必要です。

線状降水帯という言葉、ニュースなどで一度は聞いたことありませんか? 線状降水帯は、集中豪雨をもたらす原因となる現象のことで、これは積乱雲が連なることによって発生します。

ひとつの積乱雲がもたらす雨量は数十㎜程度といわれますが、次々と発生・発達する積乱雲が連なっているときには、その雨量も別格になります。狭い範囲の同じ場所で強い雨が数時間にわたって降り続き、雨量が100~数百㎜にもなる集中豪雨が発生します。このとき線状にのびた雨域や雨雲のまとまりのことを線状降水帯というのです。

日本で発生する集中豪雨の約7割は線状降水帯によるものと考えられており、九州に甚大な水害が発生した令和2(2020)年7月豪雨も線状降水帯が主要因でした。

ちなみに、積乱雲が動く方向の後ろ側で新たな積乱雲が次々と発生することから、このように線状降水帯ができるしくみは「積乱雲のバックビルディング」と呼ばれています。このほかに、前線上で次々と積乱雲が発生してできるタイプの線状降水帯も確認されています。

線状降水帯は大きな災害をもたらす危険な現象ですが、正確な予測が難しいのが現状です。そのため、線状降水帯をうまく予測するための研究が今も行われています。線状降水帯の発生予測には、風上側の水蒸気の正確な観測が重要です。気象庁では、九州に災害をもたらす線状降水帯を高精度に予測するために、東シナ海の船で水蒸気を観測するなどの、新しい試みを始めています。

氷の塊である「ひょう」が夏に降る仕組み

真夏に突然空が暗くなり、氷の塊がたくさん降ってくることがあります。積乱雲の中では氷の粒が大きく成長することがあり、直径5㎜未満のものをあられ(霰)、直径5㎜以上のものをひょう(雹)と分類します。

ひょうは大気の状態が不安定で、積乱雲が発達しやすい春、夏、秋に多く発生します。大きな氷の塊なので、真夏でも融けずに降ってくるのです。

場合によっては、グレープフルーツほどの大きさになることもあり、落下する速さは30m毎秒(時速108km)以上!ひょうに当たると家屋を壊したり、大怪我につながったりするので、もし降ってきたらすぐに安全な建物に避難しましょう。

また、ひょうを輪切りにすると年輪のような模様が出てきます。これは、あられがひょうになる過程で起こる、上下運動によってできたもの。簡単にいうと、気流によって「融ける→凍る」を繰り返した結果なのです。

アンモナイトの渦のようにも見えるこの模様のはじまりは、積乱雲の中にいる雪の結晶が落下するところから。雲の中、雲の高い場所から降ってくる雪の結晶は、0℃よりも冷たい過冷却の水の粒がくっついて凍り、「雲粒付結晶(うんりゅうつきけっしょう)」と呼ばれるものになります。さらに粒がくっつくと雲粒付結晶はあられになります。

このあられがさらに落下し、空の0℃よりも温かい層まで落ちると表面が融け始めます。しかし、雲の上昇気流によって再び0℃よりも冷たい層に再び持ち上げられると、今度は先ほど融けた表面がカチンと凍結……。このような上昇と落下、つまり融けたり凍ったりを幾度も繰り返すうちに大きなひょうに成長し、樹木の年輪のような構造が出来上がるのです。

雷を伴う積乱雲は、雷雲とも呼ばれます。雷は「落ちる(落雷)」といますが、実は雷は一瞬の間に電気がせわしなく上下に流れるものなのです

夏の積乱雲の中では、氷の粒同士がぶつかるなどして電気を帯びます。雲の上昇気流や氷の粒の落下によって粒が上下に移動し、電気にかたよりが発生。すると、積乱雲が上から下に正・負・正の電気がかたより(三極構造)、負の電気がその下の正の電気をなくして枝分かれしながら地上に向かいます(ステップトリーダー)。

これが地上からのびる正の電気とつながると、地上から一気に正の電気が流れ(帰還雷撃)、そのすぐあとに雲から地表に負の電気が流れます(ダートリーダー)。1回の落雷にかかる時間は、約0.5秒。しかしこの間に何度も上下に電気が行き来しているのです。

また、雷は、積乱雲の真下に落ちることが多いのですが、実は積乱雲の近くで雨の降っていないところにも落ちます。積乱雲の広がりは、横方向に数km~十数km程度と短く、雨の降る範囲もごく限られているため、積乱雲が上空を通過して晴れ間が見えてくるのにさほど時間はかかりません。

こうなると「屋外はもう安心!」と思うかもしれませんが、雷の音が聞こえる場所ではまだ落雷の危険性があります。雷の音が聞こえる間は、建物や自動車の中に避難するようにしましょう。

天気とうまく付き合うための秘訣

天気の急変が起こりやすい暑い夏。天気とうまく付き合っていくためにみなさんにおすすめしたいのは、気象庁のナウキャストなどレーダーの雨量情報をこまめにチェックすることです。

レーダーの雨量情報はスマホでウェブ検索するとすぐに閲覧できます。また、各気象会社のアプリなどでもだいたい気象庁のレーダーを使っていますし、独自のレーダーを使っていても見ている雨雲は同じものなので見え方もだいたい同じです。自分にとって使いやすいアプリなどを事前にチェックしておくといいでしょう。「突然降ってきた!」と思った雨でも、だいぶ前からレーダーで見えていることが実は多いのです。

夏の晴れた日は夕方にかけて大気の状態が不安定になり、積乱雲が発生しやすくなります。急に暗くなったりしたら注意が必要です。

一方で、積乱雲による夕立のあとの東の空では、きれいな虹に出会えることもあります。この虹も、レーダーの雨量情報を使って雨雲が通り抜けるタイミングを見計らって太陽と反対側の空を見上げれば、狙って出会うことができるのです。

レーダーの雨量情報をうまく使い、不安定な夏の天気とうまく付き合っていきましょう。