ナイロビ新幹線を中国企業が受注した驚愕の理由

中国の対アフリカ輸出額は10兆円規模

実は1960年代から80年代にかけて、日本の家電メーカーはアフリカ市場を席巻していました。ところがその後、アフリカのトップブランドになっていったのが、サムスンやLGといった韓国メーカーでした。ただ、最近ではOPPO、vivo、ファーウェイ、小米など中国メーカーが急激に追い上げています。

韓国メーカーも以前の日本の家電メーカーと同じような状況になりつつあります。実は日本のメーカーが進出する前は、トムソンやPCAなど欧米企業が家電市場を押さえていたのです。そこからシェアを日本企業が奪った。それが韓国企業に、次は中国企業へと移りつつあるということです。実際、すでに中国メーカーはスマホでもアフリカのトップブランドになっています。

中国はすでに、アフリカにとっての最大の貿易相手国です。売るのも買うのも、ともに最大。中国が買っているのは、燃料・鉱物が約9割で、あとはコーヒー、紅茶、ナッツなどの食品関係です。売っているものは、4割弱が機械・電子機器・部品、残りは車両、プラスチック製品、アパレルなど幅広くあります。すでにそれらの輸出額は10兆円規模になっています。

ちなみに、日本とアフリカの貿易は、アフリカへの輸出で約9000億円、輸入で8500億円弱。ともに中国の10分の1以下です。

実は中国がアフリカに本格的に目を向け始めたのは、2003年頃からです。そこから18年の間に、圧倒的な存在感を出すことになったのです。

中国のアフリカ進出の最大の目的は「資源の確保」です。2003年頃から、中国の急速な経済成長で資源不足が課題となり、戦略的に進出。特に石油や鉱物、レアメタルなどで、国家のエネルギー安全保障の一環として進出しました。

もう1つの目的は、「国際世論の形成」のようです。国際世論を中国の味方につける。国連の票を多く獲得することです。

国連に優れた人材を多く送って、いいポジションを獲得し、影響力を及ぼすことなども、国家戦略として進めているようです。その点でも、アフリカは魅力的です。アフリカの国連における票は54票もあるからです。

アメリカの1票も、小国の1票も、経済規模で加重平均したりはしませんから、同じ1票。アフリカを仲間に取り込むことは、国際世論の形成上、大きな意味を持つのです。

さらに近年はアフリカを「市場」としても捉えているようです。物価水準が近いため、中国の商品がそのままアフリカで売れるのです。アフリカ人も、中国に買い付けにたくさん来ています。建材でも雑貨でも服でもなんでもです。中国では、建材も雑貨も供給過剰なものが多く、それらを輸出しているのです。

こうして中国は、貿易で輸出入ともに最大相手国となり、インフラ投資や人の交流なども大規模に行い、アフリカに大きな影響力を持つようになりました。

中国の投資条件「台湾を国として認めるな」

中国のアフリカ投資は、他の先進国とは違ったスキームで行われています。一般に、途上国を援助する際、ODAなどの実施において一定のルールや条件があります。例えば、ODAの工事は、競争入札にする、などです。他にも資金提供において、人権を守る、民主化を進める、不正・汚職をしない、などがあります。

ところが、中国の投資は、これらの先進国のルールに則りません。そもそも自分たちは、1人当たりGDPだと今も発展途上国だと主張しています。

これは、一部の国にとっても都合が良かったようです。いろいろな条件をつけず、ビジネス(儲かればやる)で投資してくれるからです。

もちろん、中国の投資がすべてうまくいっているわけではありません。北アフリカでは、2011年のアラブの春で政権が変わり、中国が投資した権益が破壊され、大規模な損失が出たケースもあるようです。

 

中国の投資も無条件ではありません。有名な条件は、「台湾を国として認めるな」というものです。以前、アフリカには、台湾と国交を結んでいた国が10カ国以上ありましたが、今は1カ国(2020年時点)しかありません。

直接投資によるパッケージディール

中国は今、アフリカでも「一帯一路」の一環として次々に大型インフラ開発を進めています。高速鉄道や高速自動車、ジブチには大型港湾施設も作っています。ケニアの高速鉄道の建設を担ったのも中国です。

先進国の途上国への援助や投資には先にも書いた多くのルールがありますが、中国のやり方は異なります。最初にインフラを敷設するプロジェクトとして受注してしまうのです。援助ではなく「直接投資によるパッケージディール」です。

高速鉄道であれば、中国の車両・レール・運行システム・メンテナンスなど、すべてがパッケージで契約されます。それから資金調達です。これも、中国輸出入銀行などの金融機関が大半を融資しているようです。

個別プロジェクトに対する融資という形です。実際、中国は援助やODAとは言いません。通常のプロジェクトファイナンスとして実施するのです。

ナイロビ新幹線(Standard Gauge Railway)は、約3500億円のプロジェクトですが、8割以上が中国からの融資です。そして、そのうちの多くは中国の車両、レール、システム、中国ゼネコンの工事代金などとして支払われます。もちろん、ローカル企業やローカルワーカーにもお金は落ちますが、過半は中国企業が受注している。

そしてナイロビ新幹線に限らず、中国のアフリカでのインフラ投資の問題になっているのが、返済できなかったらどうなるか、です。元本を払えなくなったら、関連する土地の長期間租借、といった契約が取り交わされている実例が他であるからです。

最近は「債務の罠」として有名になり、アフリカ各国も警戒をするようになってきています。もともとイギリスやフランスなどの植民地だったのです。債務免除や新型コロナの影響で返済猶予、政変によって踏み倒し、などの債務については今後も丁々発止のやりとりが続くでしょう。

新幹線といえば、本家本元は日本。実はナイロビ新幹線も簡易に試算したことがあるそうです。日本の新幹線だと、総工費で約1兆円、工事期間6年以上、日本からのファイナンスは最大5割程度。一方、中国は総工費約3500億円、工事期間3.5年、ファイナンスは8割以上。

この条件だと、勝ち目はありません。日本は最速250kmで、毎5分で運行できて、事故がなく安全。でも高い。そこまでのスペックはまだいらない。

新幹線といいましたが、正確には標準軌道(SGR/Standard Gauge Railway)です。最高時速は170km、平均時速120kmです。特急に近いと思います。客車は1日上下4~6本程度で、あとは貨物車が運行します。

実は、客車よりもこの貨物車が重要で、東アフリカの物流改革のカギになる可能性があります。今後、ウガンダの首都カンパラや、ルワンダの首都キガリ、ブルンジの首都ブジュンブラまで、ナイロビから一本でひかれる計画になっています。

ちなみにナイロビ新幹線は現在、ナイロビとモンバサ間470kmを運行しています。東京から京都くらいの距離ですが、乗車賃は、普通車約800円(開業特別価格)、一等車が約3300円。5年間、中国の会社が運営して、ローカル企業に手渡すことになっています。私も開業後すぐに乗りました。満員でしたが、とても快適でした。

「儲かるから」「そこにビジネスがあるから」

中国は、インフラ工事などを行うとき、一部労働者も含めて送り込んでいることは有名です。ただ、ナイロビなどの工事現場をみると、大半はローカルの労働者で、現場監督や重機の運転を中国人がやっています。

ちなみに、正確な統計はありませんが、約100万人もの中国人が、アフリカにいると言われています。

最初は、エネルギー開発・インフラ開発から始まりましたが、次にトレーディング(貿易取引)、小売り・不動産・製造業など、通常の商売の人たちが進出してきました。それに合わせて、その人たちのための飲食店やサービス業が大挙して進出してきているというイメージです。強制で来ている人はわずかで、「儲かるから」「そこにビジネスがあるから」という理由で普通にアフリカに来ています。

知り合いの中国人で、数名の仲間と一緒にコンゴで金の採掘権を得て、実際に採掘し、大儲けした人もいます。

アフリカ人にとっては、お金を出してくれる人は原則ウェルカムです。中国のイメージは「最近になって急激に成長した」「見習いたい」というもののようです。

中国もそれをアフリカで強くアピールしています。「経済発展の仕方を教えます」と、各国の政府にアドバイザー的な人材を送り込んでいます。「アフリカも中国のように発展したい」という感覚は多くのアフリカの国であると思います。

東アジアからは推定100万人の中国人、次に多いのが韓国人の約1万8000万人。日本人は約7500人(新型コロナ流行前、外務省統計)です。中国人は日本人の約100倍いますから、どこに行っても私は「ニーハオ」と話しかけられます。

アフリカ人にしてみれば、違いは全くわからないでしょう。私が「ノー」と答えると、次は「アニョハセヨ」と返ってきます。これも仕方がないでしょう。

一方でアフリカ人は、日本とは歴史的なわだかまりが全くありませんから、日本人をとてもウェルカムしてくれます。トヨタやソニーなどの日本ブランドはとても浸透しています。ただ、彼らは日本人にほとんど会ったことがない。

近年、国ベースで考えると、やはり中国の存在感は大きい。インフラ投資から、政府へのアドバイザー派遣、商工会議所、ビジネスセンター、大学や病院、農業学校、チャイナタウンなども中国資本でどんどんできています。

もちろん、貿易でも中国がナンバーワンになっていますが、FDI(海外直接投資)の累積ベースだと、イギリス、フランス、アメリカもまだまだ大きなプレゼンスがあります。日本も、一貫してJICAやODAで支援をしてきており、一定のプレゼンスはあります。

さらにトヨタのような、いい商品としての認識や、ハイテクな国というイメージもあります。それらを活かしながら、活躍する日本企業と日本人が増えてくることを心から期待しています。