「語彙力軽視」の人がわかっていない英語習得の肝

英語を一所懸命にやってもできない原因

大学受験で求められる語彙力は、あくまで試験に最適化すべく一定のレベル(5000~7000語)におさえられています。したがって、受験英語が得意だったという人でも、英検準1級や1級で問われているような単語問題を見ると、まず使わないマニアックな表現なのではないかと感じてしまうことがあるようです。

私は、学生時代に英語を一所懸命学んだ人でも英語ができるようになったと実感できない原因、あるいは読解はそれなりにできるはずなのにリスニングが全くできないように感じる原因が、ここにあるのではないかと疑っています。

というのも、英検準1級や1級レベルの単語、つまり、7500~1万5000語レベルの単語は新聞やニュース、小説、映画などはもちろん、児童書などにも出てくるもので、過剰に難しいものだと思い込んで学ばないままでいると、いざ興味を持ったものを読もうとしたときに、語彙力不足のせいで挫折してしまうことが多いからです。

読む際には、じっくり時間をかけて、前後の文脈などから類推することもできますが、ことリスニングにおいては、ここぞというところで知らない単語が出てくると、よほど英語を聞き慣れている人でなければ苦戦します。

クイズで力試し(単語編)

実際に、2020年の前半に私がオンライン上で視聴した英語ニュースから、受験レベルよりは少し高いけれど、よく使用されているなと感じる単語をいくつか抜き出してみました。

あくまで一時期の話題についてのニュースですから、偏りはありますが、ある種の指標にはなると思います。

意味がすんなりわかると感じられる単語はいくつあるでしょうか。クイズ感覚で取り組んでみてください。4つとも3分ほどのニュース動画です。

Q1:US China Trade Deal - BBC News
 (『米中の貿易交渉』BBCニュース)
 ① ceasefire
 ② reciprocal
 ③ subsidize
 ④ thorny
 ⑤ truce
Q2:China warned to show Taiwan respect – BBC News
 ( 『台湾の総統が中国に警告』BBCニュース)
 ⑥ decent
 ⑦ reckless
 ⑧ predecessor
 ⑨ infuriate
Q3:Ex-Nissan CEO Carlos Ghosn flees Japan – CNN
 ( 『ゴーン氏の国外逃亡』CNN)
 ⑩ baffle
 ⑪ custody
 ⑫ extradition
 ⑬ prosecutor
 ⑭ rampant
 ⑮ rigged
Q4:Coronavirus whistleblower doctor is online hero in China – CNN
 ( 『コロナ告発の医師、中国でネット上のヒーローに』CNN)
 ⑯ epidemiologist
 ⑰ death toll
 ⑱ detain
 ⑲ quarantine
 ⑳ whistleblower

それぞれの単語の意味は?

いかがでしたでしょうか。さっそく答え合わせに移りましょう。各単語の日本語訳は以下のようになります。

A1:『米中の貿易交渉』BBCニュース
 ① ceasefire:「停戦」(「撃ち方止め!」という号令が名詞化したもの)
 ② reciprocal:「相互にとって有益な、互恵的な」
 ③ subsidize:「資金的に援助する、補助金を出す」
 ④ thorny:「厄介な、大変な」
 ⑤ truce:「休戦」
A2:『台湾の総統が中国に警告』BBCニュース
 ⑥ decent:「きちんとした」
 ⑦ reckless:「無茶な」
 ⑧ predecessor:「前任者」
 ⑨ infuriate:「ひどく怒らせる」
A3:『ゴーン氏の国外逃亡』CNN
 ⑩ baffle:「当惑させる」(しばしば受動態で用いられる)
 ⑪ custody:「拘留、親権」
 ⑫ extradition:「犯罪者の国外引き渡し」
 ⑬ prosecutor:「検察」
 ⑭ rampant:「はびこった」
 ⑮ rigged:「インチキの、仕組まれた」
A4:『コロナ告発の医師、ネット上でヒーローに』CNN
 ⑯ epidemiologist:「疫学者」
 ⑰ death toll:「死亡者数」
 ⑱ detain:「勾留する」
 ⑲ quarantine:「隔離する」(40を意味するイタリア語quarantaから。かつて伝染病予防のために帰国船を港で40日間、留め置いたことに由来する)
 ⑳ whistleblower:「内部告発者」

答え合わせの結果はどうだったでしょう。これらの単語の8~9割について、特に考えなくても意味がわかる、普段からよく見ているという人はすでに受験レベルは超えています。新聞記事や小説、ニュースなどについても、難しいものでなければ、多読、多聴にどんどんトライしてほしいと思います。

 

逆に、ほとんどわからない、あるいは、わかるものが1~2割しかない、という人の場合、まだ興味のあるものをどんどん読んでいけばよい、とアドバイスできる段階には残念ながらありません。もう少し語彙力を高めてからのほうが、多読や多聴の効率も上がると思います。

クイズで力試し(熟語編)

続いて、単語ほどではないとはいえ、ストレスなく英文を読んだり聞いたりしていくために問題になるのが、熟語やイディオムです。

「大学受験の勉強でも熟語はたくさん覚えたぞ」と感じる人もいるかもしれませんが、率直に言って熟語集1冊程度では全く足りません。新聞やニュース、小説やエッセイでよく使われるけれども、受験勉強では必須になっていない熟語やイディオムの類というのは、100や200ではきかない数が存在するからです。

試しに、前ページで挙げたニュースと同じ4つのニュースのうち、最初の3つからクイズになりそうな熟語を抜き出してみました。

Q5:US China Trade Deal - BBC News
(『米中の貿易交渉』BBCニュース)
 ① bear the brunt of...
Q6:China warned to show Taiwan respect – BBC News
 (『台湾の総統が中国に警告』BBCニュース)
 ② hit home with...
 ③ bring A home to B
 ④ by(in) a landslide
 ⑤ beef up
Q7:Ex-Nissan CEO Carlos Ghosn flees Japan – CNN
 (『ゴーン氏の国外逃亡』CNN)
 ⑥ go on to say
 ⑦ on bail
 ⑧ as of
 ⑨ there is talk that...
 ⑩ run for

正解は・・・?

正解を見ていきましょう。以下が日本語訳です。

A5:『米中の貿易交渉』BBCニュース
 ① bear the brunt of...:「(批判などの)矢面に立つ」
A6:『台湾の総統が中国に警告』BBCニュース
 ② hit home with...:「…の痛いところをつく」
 ③ bring A home to B:「BにAを痛感させる」
 ④ by(in)a landslide:「(選挙などの勝利が)大差で、圧勝で」(これについてはa landslide victory「大勝利、地滑り的勝利」のような言い方もよくします)
 ⑤ beef up:「…を強化する」
A7:『ゴーン氏の国外逃亡』CNN
 ⑥ go on to say:「続けて言う」
 ⑦ on bail:「保釈中の」
 ⑧ as of:「…の時点で」
 ⑨ there is talk that...:「…といううわさがある」
 ⑩ run for:「(選挙などに)出馬する」

どうでしたか。やはり、難しいものが多いという印象だったのではないでしょうか。

もちろん、英語学習の目的によっては、このような単語や熟語は必要ないという人もいるでしょう。しかし、英語を使って広く情報収集をしたり、娯楽を楽しんだりすることを目指すなら、無視することはできません。

 

英語力の基準としてよく話題になるものに、映画やドラマのセリフを字幕なしで聞き取れるか、というものがあります。映画のセリフにもこのレベルの単語、熟語は用いられるため、好きな作品を英語で存分に楽しみたいという方にとっても、必要不可欠なレベルと言えるでしょう。

さて、ここまで単語や熟語、イディオムなどについて、大学受験水準以上のものが必要であるということを強調してきました。とはいえ、受験参考書ではこのレベルは対象外になるため、語彙力を強化しようと言っても、どういう単語帳を使えばよいのか、と悩む人も多いかと思います。

私のオススメは、豊富なバリエーションがある英語圏の単語帳を、好みに合わせて上手に使い分けることです。以下でいくつか代表的なものをご紹介しましょう。

1. Murray Bromberg & Melvin Gordon:1100 Words You Need to Know 6th edition (Barron’s Educational Series)
(『知っておく必要がある1100 の英単語』)

文章を読みながら、文脈の中で使われた単語の意味を考えつつ、覚えていくタイプの語彙力増強本です。文章を読むことが好きという人や、どうせなら読解力と単語力を同時に鍛えたいという人にオススメです。

2. Mary W. Cornog:Vocabulary Builder Newest Edition(Webster Mass Market)
 (『ボキャブラリービルダー』)

単語をパーツに分けて、それぞれの意味を解説しています。語源や形を知ることで、単語を覚えやすくする工夫と言えるでしょう。なるほどと納得できる発見もあり、単語の成り立ちや語源に興味のある人に向いています。

3. Word Smart(The Princeton Review)
 (『ワードスマート』)

思わず苦笑してしまうようなユーモアを取り入れた内容の例文が多く、印象に残るので覚えやすい1冊。

一例を挙げれば、esoteric「難解な、ごく一部の人にしか理解できない」という単語を扱った箇所では、The author’s books were so esoteric that even his mother didn’t buy any of them.「その著者の本は極めて難解なので母親でさえ1冊も購入しなかった」といった例文が当てられています。

日本語の説明が必要な人向けの書籍

日本語の説明のあるものが望ましいという場合、英検の単語対策本や、時事英文を意識して製作されたものを使ってみるのもよいかもしれません。

4.『でる順パス単(英検準1級 / 英検1級)』(旺文社)

英検準1級や1級対策の単語帳の定番です。大学受験用の単語帳には掲載されていないものの、新聞記事やニュース、小説やエッセイなどでそれなりに出会う英単語をカバーしているため、受験+αの語彙力を目指す際には適しています。無料音声ダウンロード付き。

 

5. 谷川幹著『ニュース英語が本当に解るボキャブラリー(科学・社会編 / 政治・経済編)』(アルク)

メディアでよく出てくる単語、熟語がバランスよく例文とともに掲載された単語帳です。一定数の単語を学んだ後、ワンパラグラフ程度のニュース英文を読んで定着度を確認できる作りになっています。

英検対策の単語帳に比べると網羅性ではやや劣りますが、文化的、社会的背景にまで踏み込んだ説明があるのが魅力です。

英語力の確認のために、筆者がつくったクイズは他にもあります。こちらのサイトでは、拙著『英語の読み方』に出てくる英文を基にしたクイズ20問を用意しています。「肩慣らし編」と「上級編」を用意しているので、ぜひチャレンジしてみてください。